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プロローグ

 

 俺はガチャを至上の喜びとして生きている。

 100円硬貨を入れてレバーをぐるりと回す。

 何が出てくるかわからないドキドキ感。非常に堪らない。


 ガチャには沢山の思い出がある。


 幼稚園の時、親にせがんで100円を貰った日のこと。ガチャとの出会い。

 小学生の時、初めてのお使いで預かったお金を全てガチャにつぎ込んで親に怒られたこと。

 中学生の時、転校していく友人にダブりまくったハズレガチャを筐体一個分くらいあげたら何故か微妙な顔をされてしまったこと。

 高校生になってアルバイトを始めてその給料を全てガチャにつぎ込んだこと。

 大学の卒論に『ガチャと確率』という題目で提出したこと。

 

 うむ。全ていい思い出だ。


 社会人になっても俺のガチャに対する情熱は変わらない。

 実家に寄生する俺の場合、給料は全て自由に使える。

 独身貴族って奴だ。

 親は毎日耳にタコができるくらい結婚しろと言ってくるが結婚の何が良いのかわからない。

 結婚したら妻子を養うのが一般的だ。そしたらガチャに回せるお金が減ってしまうでは無いか。

 

 普段は朝から晩まで会社に缶詰にされているので親に口うるさく言われるれることは少ないが問題は休日だ。最近は休日になるだけで「結婚しろ」と幻聴が聞こえるようななった。

 仕方ないので、休日になったら親から見合いの話を持ち出される前にレアなガチャ筐体を求めてとっとと秋葉原へと繰り出す事にしている。それが俺の日常。


 あ、そうだ。いくつか学生の頃と変わったことがある。


 まず一つ目、ガチャの景品が部屋に収まりきらなくなってレンタル倉庫を借りた。

 二つ目。俺はソーシャルゲームを始めた。あれはいい。心ゆくまでガチャが出来る。

 24時間いつでも引きたい時にガチャが引ける素晴らしいシステムだ。

 ガチャによって給料がみるみる融けていく様は見ていて実に心地が良いものだ。

 あの時ほど労働の歓びを感じる瞬間は他に無い。

 

 ただ、俺が言いたいのはソーシャルゲームにはガチャだけでも十分楽しめるハズなのに何故かおまけのゲーム機能がついている事。そして、それが無茶苦茶簡単な事。

 正直ゲーム機能はいらないからもっとガチャを充実すべきだと思う。

 ガチャの景品をコンプリートしてしまうと引き当てる楽しみが無くなってしまうんだ。

 あと、ずっと1位から変動しない見せかけだけのランキング機能なんていらないと思う。

 どうせ誰がやった所でランキングが1位から変動しないのだ。リップサービスも甚だしい。

 まぁ、それ以外は概ね満足だ。


 俺は毎日充実して生きている。人生を楽しんでいる。心からそう思う。

 

 なのに、たった一つだけ気がかりなことがある。周囲の目だ。


 毎日父は俺のことを「キチガイ」呼ばわりして、呼応するように母は「嫁さんを見つければ少しは自覚が出るでしょう」と諭す。昔は優しかった両親だが、最近はかなり苦手だ。

 会社の同僚は俺を「狂人」と呼ぶ。仕事は出来る奴だと思ってくれているようなのでぞんざいには扱われてはいない事が救いか。

 十年来の友人は俺を「ガチャ廃人」と呼ぶ。

 俺が最新ガチャについて話す度に「まじ引くわー」と言うのできっと彼の口癖なのだろう。

 

 そう、俺の周囲の人間は俺がさもおかしい奴に見えるようなのだ。

 そして彼らが共通して俺に言う言葉がある。

 

 「ちょっと、病院行って頭の中を検査して貰ってこい」

 

 何故だ。俺はいたって普通のハズだ。

 薬物に依存しているわけでも無ければ、犯罪だって犯したことは無い。

 何故、俺は言われなき誹謗中傷を受けねばならんのだろう。 



 まぁいい。俺はガチャを回す。今日も回す。明日も回す。とにかく回す。

 嫌なことがあっても、何があってもガチャを回している間は忘れていられる。

 あははははっ。楽しいなぁ。

 ガチャがある世界に生まれて良かった。日本に生まれて良かった。


 しかし、そんな素晴らしき日々にも終わりが来る。

 俺は交通事故に遭って命を落としたのだ。

 

 それは歩行中に無性にガチャを回したくなってスマホを取り出した事に起因する。

 画面を見ながら歩いていたら急に視界が反転したのだ。


 赤信号での飛び出し。完全な俺の落ち度だった。ガチャに夢中になりすぎたのだ。

 

 何事かと思う暇すらも無く吹っ飛ばされた俺はもんどり打って転がって、そのまま俺は意識を失った。

 視界の端に走り去るトラックが見えたから多分アレに引かれたんだと思う。

 激しい衝突で肋骨が刺さり内臓を損傷したのだろう。俺は止めども無く血を吐き続けて絶命した。

 

 まぁ、俺の人生はこんな感じで終わってしまったけれど、それでも俺は概ね満足だった。


 だって、俺は人生の最後に最高レアの「UR(アルティメットレア ☆5)」すらをも越える本来ガチャにすらも入っていない確率0%の「GR(ゴッドレア ☆?)」を引くことが出来たのだから。


 俺は人生の最後に奇跡を手にしたのだ。

 そう、俺のスマホには誇らしげにガチャの結果がこう表示されていた。『異世界渡航権』と。

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