#006「気掛り」
――しもぅた。傘があらへん。……止みそうにあらへんし、コンビニで買うて帰るか。あっ、蕨くんや。
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「おぅい!」
「誰だ、あのダサい女は、と思ったら茶屋町か。まぁ、ちょうど良い。傘を貸せ」
「何や。蕨くんも持ってへんのかいな」
「何だよ、使えねぇ。走るしかねぇじゃねぇか。ほらよ」
「ちょっと、待ちぃよ。どういうことなん? 何で、ブレザー貸してくれるん? パーカーにフードがあるから? ねぇ!」
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「この、お馬鹿さん!」
「いったぁ」
「いってぇな。記憶障害を起こしたら、どうする?」
「軽く小突いただけよ、大袈裟ね」
「うぅ。無鉄砲な誰かさんのおかげで、泣きっ面に蜂やわ」
「俺のせいかよ」
「どっちもどっちよ。風邪を引くとアレだから、さっさとお風呂に入りなさい」
「はぁい」
「やれやれ。とんだ厄日だよ、まったく」
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「茉莉さん」
「何かしら? ――ちゃんと温まったんでしょうね?」
「蕨くんの名前って、芸名なん? ――すっかり、冷えが取れたわ」
「芸名みたいだけど、本名よ。それが、どうかしたの?」
「いえ。大したことやないんで」
「そう。――あら。お帰り、芳郎くん」
*
――滲んで読まれへんようになっとるけど、明らかに蕨ではないんよねぇ。