表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

#044「ヲトメゴコロ」

「ご無沙汰やね、葵さん」

『久し振りだね、茜さん』

「あれから、もぅ四十年も経つんかぁ」

『早いねぇ』

「あのとき三歳やった紫蔭も、成人して、神社の娘さんトコに婿入りして、子宝に恵まれて。この前に会うたときには、孫もすっかり背が伸びて、声変わりしとったもんなぁ。うちも歳を取るはずやわ」

『もう、そんなに大きくなったんだね』

「葵さんも、孫の顔を見たかったやろうに。……まだ二十六やったんやねぇ」

『墓誌の享年を見て、しみじみしないでよ。茜さんらしくないよ』

「早く会いたいわぁ。いつになったら、うちを迎えに来てくれるん?」

『そのうちに、必ず行くよ。でも、まだ早いから』

「こんなお婆さんは嫌なんかもしれんなぁ」

『そんなことないよ。歳を重ねた茜さんも、円熟した魅力があって素敵だよ』

「さて。ショウモナイこと言うてんと、ちゃっちゃと掃除しよ。ヨッコラセ」

『適当で良いからね。綺麗にしても、すぐに苔生すだろうし』

「あぁ、せや。シェア・ハウスの三人やけどな。蕨くんは、ニューヨークでダンサーになったり、パリでモデルをしたり、ハワイで俳優デビューしたり、グローバルに活躍してるんよ」

『へぇ、凄いね。蒼太さんは、人目を惹くタイプだものね』

「ほんで、芳郎くんは、青葉亭芳丸っちゅう名前で落語ブームを牽引しとってな。最近は、若い人らを中心に、古典落語が空前の人気になってるんよ」

『へぇ、そうなんだ。芳郎くんの話は、ずっと聞いてても飽きないものね』

「あと、茉莉さんやけど。タイで性別適合の手術を受けてなぁ。もぅ、身も心も戸籍上も女性になったんよ」

『フゥン。そういう方法があるんだ』

「帰国後に、一緒に温泉にも行ってなぁ。あっ、これ以上は言わんほうがえぇか」

『気になるけど、きっと僕が聞いても理解できないんだろうねぇ』

「こんなもんでえぇかな。今度は、お花とお線香をあげんとね。あと、お供えも」

『いつも菊と樒を持ってくる僕の両親と違って、茜さんは毎回違う花を持ってきてくれるから嬉しいよ』

「そうそう。繭美さんと蘭ちゃんと薫さんの三人のことやねんけど。結局、三人とも独り身のまま定年まで勤続してなぁ。シングル・トリオで退職金を持ち寄って、郊外の一戸建てを買うて、仲良う暮らしてるんよ」

『あぁ、そうなんだ。あの三人が一緒なら、気の置けない生活を送れそうだね』

「実は、うちも誘われてたんやけど、葵さんたちとの思い出がつまった我が家を、どうしても手放せんくてなぁ」

『断ったんだ。モッタイナイ』

「せっかくの嬉しい申し出やったんやけど、あの家を離れてしもたら、葵さんのことを忘れてしまいそうでなぁ」

『そっかぁ。僕のことが重荷になってるんだねぇ。ごめんなさい』

「うちが葵さんのことを忘れてしもたら、葵さんも嫌やろうけど、それより、芽衣ちゃんから恨みを買いそうやから恐ろしいんよねぇ」

『まだ妬んでるんだ。若松さんと結婚して、とっくにホトボリが冷めたと思ってたのに』

「げに恐ろしきは、生きとし生ける者かな。歳を取ると、独り言が増えるわ。年々、家で一人で過ごす時間が増えてるせいやろなぁ。気のせいか、日が長く感じるんよ」

『そんな寂しいこと言わないでよ。心配になるじゃないか』

「いや。お喋りなんは、元からやな。ほんじゃあ、葵さん。また、今度。さいなら」

『また来てね、茜さん。ごきげんよう』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ