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#003「江戸と上方」

「江戸の落語は、淡々とした語り。上方の落語は、オーバー・アクションだって、芳郎さんは言ってましたけど」

「たしかに派手な動きが多いけど、そこまで大袈裟なモンと違うと思うわ」

「そうですか。生粋の大阪人が言うのですから、そちらが本当なのでしょうね」

「生まれも育ちも大阪やってだけよ。そんな大層に捉えんとって欲しいわ」

「いえいえ。貴重な意見ですから。――踏み台を貸してください」

「どうぞ。――この家は、流しやコンロから棚や電化製品に至るまで、何でも備え付けてあるんはえぇけど、どうも身の丈に合うてへんね」

「ここは元々、進駐軍の上官一家が住んでいた家ですから」

「規格外に大きいんは、メリケン仕様やからか。踏み台を使うてへんのは、茉莉さんくらいやね」

「モデルのようにスラリとしていながら、力持ちで、マニュアル車や大型車を運転できるんですよ」

「へぇ、そうなんや。今、うちの頭ン中に、ファンシーにデコレートしたトラックを運転する茉莉さんのビジュアルが浮かんだわ」

「フフフ。似合いそうですね。――平目は捌けましたか?」

「まぁ、何とか。あんまりキレイなこと無いけど」

「充分ですよ。すり身にして、シチューの実にしますから」

「こんなことなら、もっと家の手伝いをしとくんやったわ。絵ばっかり描いとったから、何も満足にできへん」

「そんなことありませんし、これからは、ここで一つひとつ覚えていけば良いんです。僕も、及ばずながらお手伝いしますから」

「葉山さんの手を煩わすなんて、そんな、もったいないこと出来へんわ」

「そうでしょうか? 大学は専門演習と語学だけですし、執筆は自宅で出来ますから、最も在宅率が高いのは僕だと思いますけど」

「そうはいかへん。自分のことは自分で始末せんと、周りに迷惑をかけてまう」

「茜さん。年下の僕が言うのもオコガマシイことではありますけど、ひとこと言わせてくださいね。学校の中なら、いまの茜さんの答えは百点満点、花丸モノでしょうけど、社会の中では、上手に他人に頼る方法を学ばなければいけません。なぜなら、一人の人間が社会でなすべきすべてを完璧にこなすことは、到底できないからです。学校では物識りが重宝されても、企業では人知りが役に立つように、出来ることをしてあげて、出来ないことは出来る人にしてもらう。木を見つつ、森も見る。項目を追いつつ、目次を忘れない」

「葉山さん、鍋見て。火ぃ」

「おっと。――つい、お説教のほうに熱が入ってしまいましたね。ごめんなさい」

「葉山さんが謝ることあらへん。うちも意固地やから」

「そうですね。どうしたら素直になれるでしょう?」

「え? それは、えぇっと」

「なんて。それが分かってれば、苦労しませんよね。――南瓜は、もう少し火を通さないと駄目ですね」


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