#034「もういくつ寝ると」
「ここでも、もうクリスマス用のポインセチアが並んでるのね」
「いらっしゃいませ。……何だ、茎子か」
「何だとは何よ。ずいぶんなご挨拶ね、荀也」
「アタシは茉莉よ。もう、荀也じゃないの」
「戸籍は、そのままにしてあるくせに」
「もぅ。これだから弁護士さんは嫌ぁねぇ」
「フン。生花店にしろ法律事務所にしろ、名前の入った店看板を出してることには違いないじゃないの」
「あぁ言えば、こぅ言うんだから。昔から変わらないわねぇ」
「そうやって、すぐに真面目な議論から目を逸らそうとするところもね」
「はいはい、左様ごもっともでございますわ。それで、何の用よ? ポインセチアを使った殺人事件でも弁護してるの?」
「毒殺か刺殺か知らないけど、どちらにしても違うわ。年末年始の話よ。実家に帰ってきて、顔を見せなさい」
「また、その話なのね。もう、聞き飽きたわ」
「あたしだって、好きで繰り返してる訳じゃないわよ。でも、荀也。盆休みにも彼岸にも帰って来なかったじゃない」
「だって、同じ顔を二つも見る必要があって?」
「あるわよ。いくら双子でも、まったく一緒ではないもの。それに、体格は全然違うわ」
「そうね。ジムで鍛えてるだけあるわね、茎子。また逞しくなったんじゃなくて?」
「どんな仕事にしても言えることだけど、身体が資本だもの。まして男性に伍して闘わないといけないとなれば、なおさらよ」
「残業や接待、性差別の撤廃に意欲を燃やすのは結構だけど、燃え尽きないように気を付けなさいよ」
「ウーマン・リブ、男女雇用機会均等法、一億総活躍社会。時代の波は、徐々に良い方向に舵取りつつあるの。波に乗り遅れる訳にはいかないわ」
「より大きく、より高い標準を目指すのね。アタシには、どうしても理解できないわ」
「家事や美容に並々ならぬ心血を注ぐ荀也の姿勢のほうが、よっぽど不可解だと思うわ」
「お生憎さま。ウフフ。やっぱりアタシたち、生まれる性別を間違えたと思うわ。きっと、イタズラ好きの天使の仕業ね」
「そうかしら? 男性にしろ女性にしろ、多くの人間が異性に対する思い違いをしてるだけで、本当は性別特有の行動性質や思考傾向なんて存在しないかもしれないわよ?」
「またまた、夢も色気も無い、お得意の持論を出してきたわね」
「駄目かしら? 男の矜持も、女のプライドも、誰もが何となくあると思い込んでるだけで、実際はアヤフヤなものでしかないこと。これは、間違いないんだから。何故なら」
「アタシたちが証明よ、でしょう? 耳に胼胝が出来るほど聞いたわ。それにしても、アレね。どうしてアタシたちみたいな少数派が生まれてしまうのかしら?」
「それは、それが人類の進化に適してるからに決まってるわ。好き嫌いがあるから、一匹狼が居るから、怠け者が居るから、今日まで絶滅を回避することが出来たのよ」
「長い目で、広い視野で見れば、多様性があったほうが生存に有利なのね」
「そういうこと。――ここに注文表を置いておくわね。それじゃあ」
「あら、いつの間に記入したのよ。……ん? ちょっと待ちなさい、茎子!」
「ちゃんと届けに来なさいよ! あたしも待ってるから」
「もぅ、茎子ったら。信州は配達範囲外なのに」




