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#033「メメント・モリ」

――言うべきか、言わざるべきか。困ったなぁ。腕の骨は治ってるから、今度の検診までには、包帯は取れる。けれども、僕を蝕む病魔は、これだけではない。

  *

「芳郎くんは次の出演が決まってしもたし、蒼太くんも撮影で居らんみたいやし、茉莉さんも用事があるて言うてたし。蘭ちゃんも忙しいらしいし。二十四日は、葉山さんと二人で過ごすことになるかもしれんわ」

「薫さんも芽衣ちゃんも来られないようですからねぇ。メインになるスタッフィングした七面鳥は、一羽で充分かもしれませんね」

「一羽も食べ切られへんかもよ? ――味覚表現が達者な食べ盛りが居らんから」

「そうですね。加熱調理してあるとはいえ、そこまで保存が効きませんから、いつもより少なめに見積もっておきましょう。サイドは、こんなところですかねぇ。――比喩は、よく分かりませんけど、とても美味しいという感情は、画面越しに伝わってきますよね」

「マッシュ・ポテト、薩摩芋のオーブン焼き、莢隠元のキャセロール、サーモンとブロッコリーとコーンのキッシュ。涎が出そうになるメニューやね」

「デザートには、アップル・パイとパンプキン・パイを。あぁ、そうそう。グレイビー・ソースとクランベリー・ソースも作らないと」

「葉山さん。張り切ってるトコで水を注したくないんやけど、ギプスが取れてすぐは、あんまり腕に負担を掛けへんほうがえぇんと違う? 無理したらアカンよ」

「前日までに出来ることは、ところどころ他の三人にも手伝ってもらいますから、ご安心を」

「ほんなら、まぁ、えぇかな」

  *

――投薬して進行を遅らせたとしても半年。それ以上は、現代医療では保障できない。でも、薬は劇物の毒性を弱めたものに過ぎない。身体にとって異物には違いない。使い続ければ耐性が出来てしまい、効果が減り、用量や回数が増えていく。生きた、老いた、病んだ。あとは自然の摂理に抵抗せず、死を待つという手も。

  *

「テーブルの飾り付けは、どないしたらえぇかなぁ。ハロウィンやったら、オレンジと黒。クリスマスやったら、赤と緑やけど、今回は何色をベースにしよ? 料理が茶色っぽいから、同じ系統のほうがえぇかなぁ。それとも、反対に紺や紫にしよか。ねぇ、葉山さん。葉山さん?」

「あぁ、ごめんなさい。つい、別なことを考えてしまって」

「ハハァン。さては、いま書いてる小説のことでも考えてたんやな? 仕事熱心なのは分かるんやけど、しばらくは頭の隅に置いといてな」

「はい。そうします」

「ほんで、さっきの話に戻るんやけど、感謝祭にテーマ・カラーはあるん?」

「そうですねぇ。ウゥン。寡聞にして存じない、といったところですね」

「意外やなぁ。博覧強記な葉山さんでも、知らんことがあるんやね」

「博覧強記だなんて、とんでもない。むしろ、知らないことだらけですよ」

「せやろか?」

  *

――君が為、惜しからざりし、命さえ、長くもがなと、思いけるかな。いや、違うな。かくとだに、えやは伊吹の、さしも草、さしも知らじな、燃ゆる思いを。これも、違う。駄目だな。これでは、辞世の句を用意してるみたいだ。あぁあ。せめて執筆中の作品が遺作になることだけでも、避けたいものだなぁ。

  *

「は、や、ま、さん。さっき言うたトコやのに。いまはコッチの話に集中してくれな困るわ」

「ハハッ。重ね重ね、済みませんね」

「ちっとも悪いと思てへんね。もぅ、えぇわ」

「申し訳ありませんでした。どうか機嫌を直してください」

「しゃぁないなぁ。特別に許したるわ。せやけど、今回だけやからね」

  *

――仮に将来、病気で亡くなる人間が居なくなって、不老不死が実現したとして、果たして、それは人間と呼べるのだろうか? もはや生物では無いのではなかろうか? また今夜も眠れなくなりそうだ。


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