表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/45

#002「腕押し」

「なぁ、茉莉。もう一回!」

「何度やっても同じよ。シツコイ男は嫌われてよ、芳郎くん」

「ただいま。――何をしてるん?」

「お帰り、茜。――腕相撲だよ。全然、茉莉に勝てなくてさ」

「お帰りなさい。――あら、茜ちゃん一人なのね。蒼太くんは?」

「帰りまで一緒に居るのは嫌やからって、自分の買うたものだけ持って、どっかアサッテに」

「自分勝手な奴だな。――冷蔵庫に入れておくものはあるか?」

「ホントよ。迷子になったら一大事なのにねぇ」

「まぁ、店はすぐ近くやし、このへんの道も覚えなアカンと思うてるトコやから。――おおきに。こっちに玉子と牛乳があるんよ。それだけ、入れといて」

「道案内なら、この芋洗坂の右に出るものは無い」

「芳郎くんは、都内の公共交通機関を、あらかた記憶してるのよ」

「あんなゴチャっとした路線図を、よぅ覚えられるもんやわ。特に地下鉄は、格子状の大阪と違うて、迷路かテレビの裏の配線みたい入り組んでる、カオス状態やのに」

「大阪の地下鉄は、八路線。東京の地下鉄は、二社合わせて十三路線」

「アタシは葵くんのマニュアル車を借りられるから、たまにしか利用しないんだけど、通勤通学で利用するには分かりにくいわよね。まぁ、首都高速も分かりやすいものではないけどねぇ」

「非首都圏の人間への嫌がらせかと思うくらい、相互乗り入れで、ジェー・アールや私鉄の電車が走っとったり、先発がこんど、次発がつぎ、次々発がつぎのつぎって書かれとったり、特快やら準特急やら何ちゃらライナーやら、訳の分からんもんが入り組んでるし、油断しとったら、下手しぃ熱海や高尾山まで行ってしまいかねへんし」

「慣れるまで大変なのは分かるけどさ。オイラ、腹減ってるんだけど」

「お腹が空いてるのは、いつものことじゃないの。食いしん坊ね」

「まぁ、愚痴を言うても、お腹の足しにはならへんわな。何か簡単に作るわ。冷蔵庫にキャベツある?」

「あるよ。この業務用冷蔵庫に、無い食材は無い。何たって、四次元空間に繋がってるんだから」

「出鱈目なことを言うんじゃないわよ」

「せやけど、そう豪語したくなるくらい、色んな食材が詰まってるんは事実や。よぅ、これだけのモンをストックしてるもんやわぁ」

「キャベツ、玉子、小麦粉、ベーコン。これで、何を作るんだ?」

「しかも、家にあるものは何でも自由に使って良いってところが、葵くんの懐の深さね」

「ホンマ、助かるわぁ。――お好み焼きを作るんよ。本場、大阪の味を教えたげる」

「お! それは良い」

「ちなみに。関東ではピザ切りすることが多いんだけど、やっぱり許せないものなの?」

「アカンとは言わへんけど、えぇ顔はせぇへんわ。格子状に切らな、コテで食べにくいと思うてまうんよ」

「大阪は格子状で、東京は放射状。交通網と同じだな」

「それなら、ここは郷に従って、格子切りで頂くことにするわ。何か手伝えることはあるかしら?」

「ほんなら、この自然薯を擂ってもらえます?」

「立派な山芋だな。茉莉の腕みたい」

「お黙り。サウスポーをお見舞いするわよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ