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#026「非日常的空間」

「葵くんは、ゾンビの仮装が良いかしらねぇ」

「あっ、包帯を活かす方向なんですね」

「だって、三十一日までに外せる訳じゃないんでしょう?」

「えぇ。しばらくは、この姿です」

「だったら、包帯込みで考えなきゃ」

「なるほど。ところで、そういう茉莉さんは、何の仮装をするおつもりで?」

「アタシは魔女よ。――そうそう。アガサ・クリスティの推理小説に、ハロウィンを題材にした話があったわよね?」

「『ハロウィーン・パーティ』のことですね」

「そこで、水に浮かべた林檎を、手を使わずに口で銜えて取る余興が出てきたと思うんだけど」

「ダック・アップル、またはアップル・ボビングと呼ばれるゲームで、欧米のハロウィンでは定番の遊びです」

  *

「ちょっと。競技前に牙を外しなさいよ、二人とも。不公平だわ」

「ドラキュラから牙を取ったら、普通の伯爵じゃねぇか」

「狼男から牙を取ってら、迫力が無くなってしまう」

「翼やミトンは外してる癖に。それなら、アタシも奥の手を使うわよ?」

「黒魔術でも始めるのか、藤沢?」

「この盥の林檎が、一瞬で毒林檎になるかもしれないな、蒼太」

「使い魔を呼ぶのよ。――茜ちゃん、こっちに来て!」

  *

「七つの海を乗り越えて、このパイレーツ芽衣が、葵様のハートを盗みに参りましたわ。覚悟なさい」

「その名前だと、昔の二人組グラビア・アイドルみたいですね」

「それは、わたくしに対する当て付けですの? これから育ちますわ。――オッホン。いざ、尋常に勝負ですわ」

「また今年もするのですか、芽衣ちゃん」

「もちろんですわ。昨年の葡萄摘みは負けましたけど、今年は小麦粉切りでリベンジを果たしますわ」

「雪辱を誓うのは勝手ですけどね。それでは、用意しますね」

  *

「茜ちゃんは、黒猫さんなんやね?」

「そうなんよ、蘭ちゃん。茉莉さんに唆されてしもうてな」

「よくお似合いですよ、茶屋町さん」

「おおきに、薫さん。三人も、男装がよぅ似合てるわ。スチュワード? バトラー? フット・マン?」

「どれもハズレよ」

「えぇっ。正解は何なん?」

「コンシエルジュ。クラシック・ホテルの幽霊なんよ」

「そっちやったかぁ」

「オーバー・リアクションですね。額に手を当てて」

「そら、大阪人やもん。――ちょっと、繭美さん! 何、撮ってはるんよ」

「答えになってないわよ。――阿蘇くんと若松くんに送ろうと思って」

「消してよ。恥ずかしいわぁ」

「いまごろ顔を赤らめても、もう遅いわ。――向こうで、誰か呼んでるんと違う?」

「ホンマ。茉莉さんが呼んでるみたいやから、ちょっと行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ。――向こうは、林檎食い競争をやってるんですよね?」

「面白そうだから、あたしたちも観に行きましょうか」

  *

「悔しいですわ。かくなる上は、庭木の枝にトイレット・ペーパーを巻きつけるか、家や車の窓に鶏卵を投げつけるしか」

「まぁまぁ。お菓子をあげますから、憤りを鎮めてくださいな。この前、大掃除したところに、そんなことをされては敵いません。――茉莉さん。芽衣ちゃんに、クッキーを渡してあげてください」

  *

「あら。葵くんが呼んでるみたいね。少しのあいだ、向こうに行ってるわね」

「行ってらっしゃい。――さぁ。このワルキューレ・モアレが、自慢の大脳灰白質で解決してみせましょう!」

「リキュール・ポワレやら何やら知らんけど、これは推理するほどの謎と違う」

「途中で接着剤が効かなくなっただけだもんな」

「これだから、安物はいけませんなぁ」

「道具のせいにするもんやないよ、芳郎くん」

「そうだ。素直に敗北を認めろ」

「ウゥ、ウゥ、ウゥ。アオーン、アオーン」

「何やの、急に大きい声出して」

「さぁな。負け犬の遠吠え、ってところじゃねぇか?」


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