#022「抜け駆け禁止」
「ごきげんよう、茜さん」
「葉山さん。何で、ここに居るん?」
「これは、葉山さん。茶屋町さんから、お噂はかねがね。僕は同僚で、若松英二と申します」
「葉山葵です。よろしく。――芽衣ちゃんの相手を頼まれてしまいましてね。話の流れで、茜さんがこの展覧会に行くことを伝えたら、自分も観に行きたいって言い出してしまいまして」
「そうなんや」
「芽衣さんというのは?」
「菅原芽衣。葵様のフィアンセですわ。――ごきげんよう、葵様」
「ごきげんよう。――後半は妄想なので、聞き流してください」
「葉山さんと芽衣ちゃんは幼馴染なんよ、若松くん」
「あぁ、そうですか」
「それでは皆さん、参りましょう」
「待ちなさい、芽衣ちゃん。――ご迷惑でなければ、芽衣ちゃんのワガママに付き合っていただきたいのですが」
「うちは構へんけど、若松くんは?」
「結構ですよ。一緒に行きましょう」
「決まりですわね。さっ。エスコートなさい」
*
「完成作品だけを観ても充分に面白いものですけど、創作過程を知ると、また違った興味が湧きますね」
「制作の舞台裏を知ると、より親しみを持てますわね」
「僕としては、初期設定でヒロインが眼鏡を掛けていたと知ることが出来たのが、一番の収穫です」
「はじめは、地味で大人しい感じやったんやねぇ。――ちょっと、お手洗いに行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
「わたくしも、ご一緒しますわ」
「どうぞ。――今日は、良い天気に恵まれて良かったですね」
「そうですね。絶好の、お出掛け日和です」
「ところで。菅原さんとは、いつからの知り合いなのですか?」
「物心がついた頃には。親同士の仲が良いもので」
「そうですか。それは長い付き合いですね」
「本当に。いつも何かと振り回されてますよ。いい迷惑です」
「ハハハ。傍から見る限りは、睦まじくて羨ましい限りですけどねぇ」
「そうでしょうか? 当事者には堪りませんよ。――ところで。職場での茜さんは、どうなのでしょうか?」
「前向きで明るい、頑張り屋だと思います。ケアレス・ミスが多いのが、気になるところですが、それ以外の勤務姿勢は、僕も見習いたいところです」
「なるほど」
「家での茜さんは、また違うのでしょうか?」
「いえいえ。基本的には同じですよ。元気いっぱいで、エネルギーに満ちてます。ちょっと早合点する癖がありますが、それを除けば、僕も真似したいところです」
「はぁ、そうなんですね」
「これからも、同僚として仲良くしてあげてください」
「もちろんです。葉山さんも、茶屋町さんが落ち込むようなことをしないでくださいね」
「えぇ、お約束します。――戻ってくるまえに、二人で会計を済ませてしまいましょう」
「そうですね。――あぁ、スミマセン。お勘定を、お願いします」




