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#020「浪花節」

「お呼びでしょうか、お父さま」

「座りなさい、葵」

「はい」

「早速だが、本題に入る。茶屋町茜が、あんな妙齢の女性だとは知らなかった。どういうつもりなんだ?」

「どう、と申しますと?」

「もう、子供ではないんだ。男女の別くらい、よく理解しているだろう?」

「はい。存じ上げております」

「それなら、己がどれほど軽率なことをしたか、理解できるな?」

「いえ。その」

「萩生さん、お茶です」

「あぁ、どうも」

「いいですか、葵さん。葵さんは、いずれは葉山の名を継ぐことになる、良家の大事な跡取り息子なのですよ。下々の娘と浮名を流すようなことがあっては、家名に瑕が付きます」

「そうだ。早苗の言う通りだ。葵だけの問題では済まないんだ。艶聞が広まって、親の顔に泥を塗るような真似は、厳に慎むように」

「はぁ」

「商売人の娘と、大企業の息子は、住むべき世界が違うのですよ」

「そう。他人を使う立場の人間と、他人に使われる立場の人間とのあいだには、大きな隔たりがあるものだ。易々と乗り越えられるものではないし、乗り越えてはならないものでもある。分かるね?」

「はい。以後、気を付けます」

「よろしい。下がりなさい」

「失礼します」

  *

「それで、どうするんだ? ――下線部三における筆者の主張として最も適当なものを、次の一から五の中から選びなさい」

「どうもしませんよ。これまで通りの生活を続けるまでです。――明らかに二と五は違いますね」

「良いのか? 葉山家の御曹司が、庶民の娘と一緒に暮らしてさ。――三と四が怪しいな」

「関係ありませんよ。向こうには向こうの考えがあるんでしょうけど、コチラにもコチラの事情や都合がありますから。――でも、答えは一ですね」

「フゥン。よく分かんねぇけどさ。何で、そうなるんだ?」

「二と五には、本文に無い主張が含まれてますし、三と四は、部分的にしか書かれていません。よって、過不足無く書かれている一が正解です」

「でも、問われてるのは筆者の主張だろう? この文章を通して筆者が最も読者に言いたいことは、三か四じゃないのか?」

「蒼太さん。読解問題は、筆者が伝えたいことを見抜くのではなく、出題者の意図を推理するものですよ」

「なるほどな。問題文は、あくまでも道具に過ぎない訳か」

「そういうことです。――遅いですね、茜さん」

「飲み会なんだろう? 盛り上がってんじゃねぇの」

「それなら、良いんですけど」

「ごめんください」

「噂をすれば何とやらだな」

「はい、どうぞ」

「たラぁいまぁ。アッハッハ」

「うわっ、酒くせぇ」

「どうしたんですか、繭美さん?」

「ごめんなさいね。つい、飲ませすぎちゃって」

「勧められるまま、素直に飲んじゃいましたぁ。フゥ」

「まったく。これだから俺は、酒飲みが嫌いなんだ」

「そう言わず、左側を支えてくださいよ。僕ひとりでは、とても無理です。――どうも遅くに送っていただいて」

「いいえ。こちらこそ、こんな遅くにスミマセン。それでは、あたしは失礼します。――また月曜日ね、茜ちゃん」

「まぁたねぇ、繭美さぁん」

「ほら、ちゃんと立てってのに。ん? ポケットに何か入ってるのか?」

「ちょっと、蒼太さん。勝手に探るものではありませんよ」

「それなぁ、昼休みになぁ、若松くんからなぁ。グフッ。貰うたんよ。日曜に、二人で観に行こうって。ウゥ」

「イラスト原画展か。――おい、寝るなよ」

「場所は中野ですね。フゥン」


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