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#019「東京見物」

「すまんね。こんな老いぼれのために、わざわざ時間を割いてもらって。方々、案内してもらったし、散財も掛けてしもたし」

「いいえ。良いんですよ、蓮造さん。日頃、茜さんには、お世話になってますから」

「仕事が出来そうな気風のえぇ先輩に、高校の同窓生に、可愛らしいお嬢さん。ほんで、しっかり者の家主さんも居ることや」

「そんな、しっかり者だなんて」

「絵描きになるんやって聞いたときは、正直、何を寝惚けたことを言うてるんやと思ったんやけど、何とかやっていけそうで、ホッとしたわ。ホンマ、おおきに」

「お礼を言われるほどでは」

「四十手前で、ようやく授かった一人娘やからなぁ。大事にしすぎて、過保護で、過干渉やったかもしれん。不自由な思いもさせたかもしれん。茜が家に居らんようになってから、そんなことばっかり考えるようになってな。えぇ加減、子離れせなアカンのやけどなぁ。ハハッ」

「お子さん想いなんですね」

  *

「明日は、朝に駅までは見送るから。切符も、もう買うてあるんよ」

「そうか。ほんなら、大丈夫やな。茜も、東京暮らしに慣れたもんやなぁ」

「お父ちゃん。うちが東京に来て、もう何日経つと思ってるんよ」

「そうやな。ここは茜に任せるから、あんじょう頼むわ。……なぁ、茜」

「何、お父ちゃん」

「茜は、幸せ者や」

「何よ、お父ちゃん。急に、そんなこと言うなんて」

「えぇから、真面目に聞き。――茜が生まれてからこれまで、お父ちゃんは、茜のことを思わなかった日は無いんや。茜は知らんやろうけど、小さい時は、よぅ熱を出してなぁ。そのたんびに医者に診せに走ったもんやった」

「せやから、感謝せぇて言いたいん?」

「そういうことやない。――それが、いつの頃からか、将来のためやと思て、アレをせぇ、コレはすなと、一丁前に口出しするようになってしもうた。よぅ考えたら、親っちゅうモンは不思議なモンや。子供の人生を左右する存在でありながら、僅かなことしか知らんねんからなぁ」

「もぅ、じれったいわぁ。何が言いたいんよ?」

「そう、オチを先取りしようとするもんやない。――子育てっちゅうのは、子供の成長であると同時に、親も成長せなアカンように出来てるモンなんやってことに、ようやっと気ぃ付いたんや。いつまでも子供やと思うとったけど、もう、とぅに二十歳を超えてるんやもんなぁ」

「今頃になって気ぃ付いたん? 十年遅いわ」

「ハッハッハ。しかしまぁ、何やな。仕事っちゅうモンは何でもそうやけど、絵描きで食うてくんは、並大抵のことやないやろう。好きっちゅうだけでは、どうにもならんときもあるやろう。せやけど、そこで投げ出したらアカン。辛かったら、誰かに頼るのも手やし、少し休むのも手や。ほんで、そうやって距離を置いてみて、まだ絵を描くのが好きやって気持ちが残ってるんやって分かったら、もっかい働くんや。えぇか?」

「お父ちゃん」

「茜の決めたことやから、お父ちゃんもお母ちゃんも、茜を応援したる。なっ? お父ちゃんの気持ちは伝わったか?」

「……うん」

「よっしゃ。明日も朝早いから、早う寝てしまおう。お休み」

「お休み、お父ちゃん」


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