#016「茶屋町豆腐の看板娘」
「神戸はオシャレな街で、京都市民は高飛車で、奈良は田舎なのね」
「大阪人から見たら、の話やけどね。京都市民からしたら、大阪人は品が無くてガメツイと思うてるみたいやけどね。失礼な話やわ」
「こっちだって、そう変わらないわよ。神戸は横浜、京都市は東京二十三区、大阪は千葉、奈良は埼玉になるかしらねぇ。――はい。サイドとバックをカットして、全体に軽く梳いてみたんだけど、どうかしら?」
「バッチリ。これからは、茉莉さんに任せるわ」
「たまには、ちゃんとしたヘア・サロンにも行きなさいよ」
「安くて、えぇトコが見付かったら行くわ」
「ケチるんじゃないの。二十代のツケは、十年で三倍になって返ってくるんだから。――箒、取って」
「サラ金並みにエゲツナイ利率やね。――はい、箒」
「若々しくいられるのも、老け込んでしまうのも、日頃の生活習慣次第よ」
「ただいま。北風郵便でぇす」
「ヒャッ。冷たい手ぇして」
「あら、手紙ね。誰から?」
「茶屋町ナントカさんから」
「蕗恵って読むんよ。うちのお母ちゃん」
「ということは、大阪からね」
「何て書いてあるんだ?」
「えぇっとねぇ。――前略。そそっかしい茜のことだから、どうなることかと心配していましたが、東京に居場所が見つかったようで、何より。母は、ひと安心しています」
「良かったわね、茜ちゃん。東京暮らしを認められたようで」
「それから、それから?」
「つきましては、お礼かねがね、……えぇっ!」
「どうしたのよ?」
「続きは?」
「これは、困ったことになったわ」
「読むわよ。――お礼かねがね、父が一度そちらに伺いますので、そのつもりで」
「おぉ。茜の父ちゃんが来るのか」
「どないしよう。一緒に生活してるんが男の人やってバレたら、大阪に連れ戻されてまう」
「茜ちゃん。それは、どういうこと?」
「オイラたちのことを、何て紹介したんだ?」
「うちの実家は豆腐屋やねんけど、お父ちゃんは売りモンの豆腐みたいに、四角四面で旧式の貞操観念を持った頑固親父なんよ。せやから、性別を伏せたまま、葉山さんの名前だけ伝えたんやけど」
「嘘は吐いてないけど、誤解を招いてるわね」
「葵や蒼太は、ともかく。オイラや茉莉は、ひとまず問題無さそうだな」
「それが、そうでもないんよ。結婚前の娘に変な虫が付かへんように、年齢問わず、男やったら追い払いに掛かるところがあってな。おまけに、自由業は職業として認めへんし、同性愛に対しても不寛容なんよ」
「婚前交渉の回避に執心で、危険分子を徹底して排除してるのね」
「古臭いことだなぁ」
「もぅ、どうしたらえぇんやら」
「落ち着きなさい、茜ちゃん。ここは葵くんや蒼太くんにも事情を説明して、五人で解決策を考えましょう」
「そうそう。五人で知恵を絞れば、何とかなるさ」




