#009「コテコテ」
「茜ちゃん、よね?」
「ひょっとして、蘭ちゃん?」
「ご名答」
「いやぁ、久し振りやねぇ。蘭ちゃんも、こっちに勤めてるん?」
「そうなんよ。光菱東都で銀行員してるんよ。茜ちゃんは?」
「うちは、小さなデザイン会社のイラストレーター」
「そうなんや。絵を描くのが好きやったもんなぁ。ところで、これから何か用事ある?」
「特に無いわ。あとは、家に帰るだけやから」
「それやったら、ちょっと付き合うてよ。今から萌ちゃんの家に行くトコやねん」
「萌ちゃんって、苦楽園さん?」
「他に誰が居るんよ。あの子、もう結婚してて、今は日暮里さんなんよ」
「へぇ、そうなん。知らんかったわ」
「クラス会に顔出さへんかったら、何も知らんわな。先月にあったばっかしやねんけど、ハガキは見たん?」
「ちょうど引越し前のゴタゴタがあった時期やから、よぅ見んまま、ほかしてしもたかも」
「まぁ、行かんで正解やったかもしれんな」
*
――彼女の名前は菊水山蘭。うちとは高校時代の同級生。在学中は、苦楽園萌と三人で仲良うやってた、と思う。たまに仲違いしたこともあったかな? まぁ、今となっては、えぇ思い出やけど。
*
「菖蒲ちゃんは、どうしてるん?」
「あぁ、花園さん? 彼女は葺合さんって人と結婚して、子育てに励んでるわ」
「へぇ。明菜ちゃんは? 茨木さんやったかな」
「今は、芦屋さんよ。先月会うたときには、大きなお腹しとってな。双子が入ってるんやって言うとったわ」
「ベビー・ラッシュやね」
「順番は間違えんといて欲しいところやけどね。覚えてる? 芥川さん」
「あぁ、華子さんやね。あんまし、えぇ噂は聞かんかったけど、どないしたん?」
「彼女ね。……ちょっと耳貸して」
「ナンボで?」
「えぇから、タダで貸し」
「フンフン。……苅藻さんになるまえに、子供が産まれたと」
「そうなんよ。しかも、どうやら最近、離婚したらしくて」
「色々あるもんやねぇ」
「ホンマにね。あたしたちだけよ? 未開封新品なのは」
「そんな工業製品みたいに言うたら、同じような品物がギョウサンあるみたいやないの。一点物よ、うちら」
「せやな。言いかたが悪かったわ。――ここよ。このマンションの十階」
「はぁ。これはまた、お高いマンションやね」
「単位はメートル? それとも円?」
「どっちもや」




