#000「アラーム要らず」
「これと違う」
「はぁ? メモの絵に忠実に買って来ただろうが」
「ちゃうねん、ちゃうねん。こんな大きいのんとちゃうし、お醤油やなくて、お出汁が利いてるものやねん」
「そんなモン、ねぇよ」
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――うちの名前は、茶屋町茜。十月一日付けで、この東京にある小さな美術社でイラストレーターとして勤めることになったんやけど、見るもん、聞くもん、知らんこと、わからへんことだらけ。
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「茜さん、蒼太さん。ごきげんよう。朝から元気ですね」
「おはようございます、葉山さん」
「これを見てくれよ、葉山。どう見たって、揚げ煎餅だよな?」
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――この人は、葉山葵さん。都内の某私立大学に通う学生さんで、小説家でもある。ほんで、この家の持ち主。まぁ。早い話が、えぇトコのボンボン。それから、さっきから言い合ってる相手も、一応、紹介しとこう。蕨蒼太。高校生兼モデル。そこそこシュッとしてるけど、言動が残念な男。
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「賑やかねぇ。アタシたちの部屋まで聞こえてよ?」
「おかげで、目覚ましより早く起きてしまったじゃないか」
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――いま起きてきたのは、藤沢茉莉さんと芋洗坂芳郎くん。茉莉さんは、お花屋さんを営んどるオネエさん。芳郎くんは、中学生で、学校では落語研究会に所属してるらしくて、話に落ちを求めるところは、うちと似とる。
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「うるせぇ。コイツが大阪人根性丸出しなのが、そもそもの発端だ。そんなに出汁の味が恋しけりゃ、大阪に帰れ」
「何でもかんでも醤油をかける味音痴には、到底、理解できへんやろうね」
「お醤油よりポン酢がお好きなところは、共感しますよ」
「あの酸味がアクセントになるのよねぇ。ビタミンも摂れるし」
「電話と同じ。かけすぎ注意だよ、蒼太」
「やかましい」
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――朝七時の会話やとは思えへんほど、騒々しいったらないわぁ。




