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閑話 リーダー格

 白騎士リーダー格の主観となります。一人称です。

 皇国のリストに名を連ねる魔導人形は、その全てが圧倒的戦力を備えた個人である。

 今や世界が皇国の天下となっているのも全てはリスト内の魔導人形達のためであると言い切っても、決して過言ではないだろう。

 もちろん、ラピス様もその一員である。象徴色である銀で作られた甲冑に身を包み、大剣を振り回して敵を殲滅するお姿は筆舌に尽くし難い程に雄勁ゆうけいであり、ふと兜を脱がれたときに見せる物憂げな表情は実にお美しい限り。

 そのようなラピス様が負ける姿など、俺にはとても想像がつかなかった。

 いつでも勝つお方であり、じじつ、常に勝たれていらっしゃったからだ。

 常勝不敗のお方だった。少なくとも、俺がラピス様の護衛となった後においては、彼女は一切負けていなかった。


「運が良かった、というのもある」


 ある時、ラピス様がそう仰られていたことがある。なぜそうも勝ち続けることができるのか、と勝つための秘訣をご教授願おうと俺が尋ねた時のことだった。


「私よりも遥かに歴史があり、実力もある古い方々。彼らの方が、私などよりもずっと強い。

 特に、……そうだな、特にサルスとエクエストの二人が群を抜いていたと聞く。一方は姿を消し、一方は機能を停止してしまったのだがな」


 ラピス様は謙遜するお姿も素晴らしく映えている。


「私は比較的新しい時期に造られた。戦争の終る少し前、だ。その頃にはもう既に、敵として対峙したかもしれない格上の魔導人形達は、他の方々が討ち滅ぼしてしまっていた。そして、その圧倒的戦闘力を備えた古い方々はその大部分が皇国に所属している。つまりは味方ということだ。私が生まれた時には、もうすでに敵が少なくなってしまっていた。だからずっと、私は露払いばかりしている。人が相手なんだ、負けるはずがないさ」

 

 そうラピス様は仰られた。

 露払い。反乱の鎮圧。所詮人間相手の戦闘だ。

 そりゃ、ラピス様が負けるはずはない。万が一にもあり得ない。仰る通りだ。

 

 時々、皇国内外で極々小規模な反乱が起こる。無謀な人間が、向こう見ずな決起をし、皇国を潰そうという他愛もない夢を実行に移そうとする。

 魔導素子を取り入れて純血種ではなくなったとしても、元が人間なのだから魔導人形に勝てるはずがないというのに。人の皮と器官こそ用いているが、魔導人形は最初から魔導人形だ。人とは根本から違う。だから、敵うはずがない。


 今回もそうだった。なんでも、偶然魔石を手にした英雄気取りの若造が、身内を率いて皇国に刃向かおうとしているらしい。おぞましき武力統一をした、独裁的な皇国を断罪すべし、と。

 だが結局は、気取りにすぎない。奴らは英雄ではない。

 それで、ラピス様が駆り出される運びとなった。そのお伴として俺達もついて行こうとした。が、


「私一人で充分だ」


と、にべもなく断られた。


 最終的には、俺達が人間の相手をすることでもし魔導人形が駆り出されてきたときにラピス様が存分に一対一で戦える環境を作り出せます、と平身低頭でお願いして許可が下ろされることとなった。ラピス様の寛大な御心、まこと恐悦至極に存じ上げる次第である。


 結果はやはり、圧勝でしかなかった。詳しく語ろうにも、気取り英雄の小僧がひたすらに用いた魔術を、ラピス様が吸収して何の苦労もなくたたっ切った、で終わってしまう。

 ラピス様に魔術的な飛び道具は効かない。Absorbの符号を持っておられるからだ。

 ただの衝撃波や、魔導素子を漠然と固めて飛ばしただけの魔弾の類ならば、たちまち吸収されてしまう。そして、その御身を強化されて、数秒の内に大剣で相手を斬り伏せる。


「私が使える第二符号は、StとImだけだよ。あまり、芸の多い方ではないことは、自分でも分かっている」


 その事実を聞いた時、俺は感動を覚えた。手の内を明かしてもらえたということは、ある程度は信頼してもらえているということだからだ。


「もし、私が負けて機能停止した時は、……できれば、その残骸を皇都に持ち帰り、私の住居近くに埋めてほしい。頼めるか?」


 もちろん、はい、と答えた。その機会はこれから一生こないであろうことを確信した上で。



 それから今に至る。

 凱旋の途中でサルスの襲撃に会い、ラピス様が交戦を開始した。

 そして、負けてしまった。

 核は破壊されず、ただ身体が止まっただけなのであるが――それでも、それが敗北だということはいくら俺でも分かる。

 衝撃だった。そうとしか言えない。ただただ俺は呆然としていたように思う。

 サルス、とラピス様は言っていた。

 そうか、あれが、サルスか。実物は初めて見た。リストから名を消された愚か者がいる、とラピス様がおっしゃられていたことを憶えている。なんでも、皇国に対して牙を向けた、とか。

 見た目の年齢は、若すぎるわけでもなく、かといって老けすぎているわけでもない。

 物思いに耽り過ぎてしまった輩のような、辛気臭い顔をしてやがる。

 敵であるはずの俺達を殺すでもなく、またラピス様の核を破壊しようとするわけでもなく、ひたすらに俺達がラピス様の御体をどうにかこうにか運ぼうとしている光景をずっと見ていやがった。なぜだ。俺にはその意図が分からない。

 恐ろしかったのも事実だ。

 ラピス様が動けない今、サルスは殺そうと思えばごくごく容易く俺達を殺せたのだから。

 ラピス様が勝てなかった相手に、俺達が勝てる道理がないのだから。

 

 皇都へ戻る準備もでき、いざ戻ろうとしたときに、ふと俺はサルスに言ってやりたくなった。ラピス様は今回こそ負けてしまったが次は絶対に貴様に勝つ、と言おうとした。


「らぴゅい」


 まあ、噛んでしまったわけだが。

 俺はそのとき、恐怖していたんだ。情けない話だが、心臓が激しく鳴って、呂律が上手く回ってくれなかった。歯がガチガチとなることだけは、かろうじて抑えたが。

 魔導人形に対して言葉一つ言うのにさえ、俺は怯えていた。

 自分が、相手と比べてあまりにも弱いからだ。もしその一言が引き金となってサルスが俺を殺さんとしたとき、俺は為す術なく死ぬしかなかったからだ。

 死にたく、ないんだろうな。俺はきっと。だから恐怖し、一刻でも生き延びようと本能がそうさせる。

 魔導人形達は、恐怖が無いように見える。羨ましい限りだ。

 怯えがなければ、どのような強大な相手だろうとどこまでも勇敢に戦えるのだから。


 それからなんとか言い直し、俺は先に進んでいた部下達と合流した。


「皇都に戻り、どういたしましょうか」


 一人が俺の判断を仰ぐ。ラピス様が動けぬ今、俺が代わりに指示を出さねばならない。


「まずなによりも優先するは、ラピス様の復活とする。それでいいな?」


 満場一致だった。


「お前達はラピス様を研究所の方に運べ。俺はラピス様の代わりに上へ報告しに行かなければならない」


 皇都に戻ったら、毎回毎回上に報告をする必要がある。当然と言えば、当然なのだが。

 ラピス様が動けない今、俺が代わりに行かなければならん。自身も古い方々の一人であり、皇国の魔導人形達を統率するエルレアのところに。

 少し、気が重い。

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