見下ろす古者と見上げる新者
「ラピス様」
「分かっている」
見られている、とラピスは思った。
誰かが、屋上から自分たちを見下ろしている。
殺意を隠そうともしない何者かが、四角い、旧時代のお城のような建物の屋上に立っている。
ここにいますよ、と盛大にアピールしているようなものだ。未熟者か、はたまた余程自らの力量に自信があるのか。後者ならば、少々厄介だ。
「いかがいたしましょう? 必要とあらば、私達が屋上まで上り、あの者を始末して参りますが」
白騎士の一人が、そう尋ねる。
「どうやらその必要はなくなったらしい」
ラピスはそう言い、馬を止めた。
屋上に佇む何者かが、動き始めた。
「構えておけ。あの者がいったいなにをしでかすのか、まるで分からんのだからな」
白騎士へ注意を促し、ラピスは屋上を見上げる。
暗赤色の球体が形作られている過程を見た。そして、それがあの人物の手を離れ、こちらへ加速してくる姿を捉えた。
「――――ッ!?」
凄まじい速度で迫る血色の球体に、白騎士たちに一瞬の動揺が走る。
ラピスは叫ぶ。
「散れ! あれは爆発するぞ!」
これは後者だ、とラピスは思う。そして、最も忌避していた相手だと辟易した。
奴も自分と同類の者。しかもよりによって、暗赤を自らの象徴色とする、戦争最初期の魔導人形。
【鉄隷】のソイなどという名の方が広まってしまったが、ラピスはその者の、本来の名を聞いた覚えがあった。
暗赤色の魔石を核とし、万象を操ると怖れられた魔導人形。
「決して気を抜くなよ! 奴はサルスだ! 世界が滅びの過程へと入るその一端となった化け物だ!」
叫び、ラピスは心中で苦笑する。
(まさか、古い方々の内の一体に、この身を狙われる羽目になるとはな……!)
標的は確実に自分だろう。
魔導人形を狩ることで、いったいなにをしようとしているのかは、ラピスには分からない。だがなんであろうと、負けるわけにはいかない。
ラピスはふと、自らの高揚を知覚した。あの者との戦闘を心待ちにしている己を感じた。
「Ab/」
その符号を口にし、ラピスはフルフェイスの中で笑う。
勝ってみせる、と決心する。その核を取り入れ、更なる強さを手に入れてみせると彼女は決意する。
そうすれば、私は――
暗赤色の球体は弾け、ラピスはその衝撃を真っ向から浴びた。
馬は死んだ。