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再会を祝して

「ボクはロア・ラーナードール。皇都の研究所に在籍する学者だ」


 テーブルに真向かいに座った後、学者はそう名乗った。


「皇都の……魔導人形関連か?」

「うん」


 簡潔な答え。皇都の研究機関に所属しているならば、規制情報を知っているのも頷ける。 

 ロアは店内をうろちょろしていた店員に向かい、


「店員さん、なにか適当なものを二つ頂戴」


 と言い、「あまり強くないのが良いな」と付け加えた。


「つまむもの欲しい? 遠慮しないでいいよ、ボクがおごるから」

「いらん」

「たまには良いと思うよ。魔導人形もさ、せっかく物を食べられる仕組みをしてるんだから食べてみなよ。食を嗜好する魔導人形なんて、いかにも人間じみててボクは好きだけどね。それで、何食べる?」

「断る」

「そうそう、ヒナノって同僚がいたのを憶えてる? 同僚と言っても、キミは特武の魔導人形達とは面識がほとんどないと思うけどさ。まあいいや。そのヒナノって子がね、これがまたエレガントな子なんだけど、食を嗜好する魔導人形なんだよ。何でも食べて、なんでも批評する子なんだ。それこそ、豚、牛、人、鳥、野菜、魔石、……ん、大まかに分けるとこのぐらいかな。つまりボクが言いたいのは、魔導人形が物を食べても良いじゃないかってこと。それで、何食べる?」

「必要ない」

「クレマティは最近食事を摂り始めたらしいね。なんでも、この旧ヒコ市ノアタリを主に、周辺の街で食料品を買っていく姿を見かけた人が多いと聞く。クレマティは、あんな真っ白で堅苦しい服だからさ、なにがなんでも目立っちゃうんだろうねえ、大変だねえ。つまりはね、ほら、後から食事を摂り始める魔導人形もいるってこと。それで、何食べる?」


 会話が無限ループしそうだったため、渋々サルスは「適当でいい」と了承した。この学者は苦手だ、と彼は思う。なぜか調子が狂う。


「こやつ、頭が壊れてはおらんか」

「壊れてない、ボクの素がこれだ。キミはなかなか人を傷つける言葉を吐くんだね」


 クダ様の言葉に、耳聡くロアが反応する。


「なるほど、素で壊れておるのか。ならば致し方なし」


 相性が悪い。ロアとクダ様はどうも馬が合いそうにない。それに、


「驚かないのか?」


 なぜ、ロアはクダ様に、言葉を話す鉄パイプに驚かないのか。


「なにが?」


 きょとんとした顔のロア。質問の意味すら分かっていないようだった。


「クダ様に」

「ああ、うん。不思議なものと縁がある職場だったからさ。慣れちゃった」


 慣れちゃったらしい。クダ様でさえ奇異な存在であると言うのに。それ以上があるものなのか、とサルスは好奇を覚える。珍しいことだ、と自ら思う。興味が湧くとは。


「主たる目的は魔導の追求なんだけどね。魔的だったり神秘的な事象の様々もまた、研究所の職員達の好奇の的になる……まあ、世の中には魔導素子と呼ばれるひとつひとつの粒よりも奇異な物事が存在するんだよ」


 言って、ロアは「例が欲しい?」と悪戯めいた表情を浮かべる。


「知りたいな」


 素直に答える。拒否する理由は特になく、純粋にサルス自身が知ろうと欲した。


「例えば、永遠を生きる人間と永劫を彼に付き従うと決めた不死の鳥。

 例えば、枯木となった人間が一人の少女を守り続けんと抗ったという記録。

 例えば、“キリヒメ”というかつて存在した序列者ランカーシステムの管理者。

 例えば、〈ベイド編纂へんさん式魔天座者録〉と〈スェグナの教典〉という二つの国の二つの禁書

 例えば、空を無数の星が覆い、あたかも天蓋のように見えたそれは――これはあまりにもお伽噺すぎるね。もはや空想の産物だ」


 なにがなにやら、というのがサルスの正直な心境だった。

 それを全て見通すかのようにロアは薄氷のような笑みを浮かべ、自らの言葉に翻弄されるサルスに至極愛おしげな視線を寄越す。愛情にしては、少々歪んでいる。そして学者は最後にこう言った。


「この世界には過去がある。キミ、それは素晴らしいことだと思わないか」


 女性が「お待たせしましたっ」と弾んだ声で、どでかいジョッキを二つ置く。瑞々しい黄金と柔和でどっぷりとした泡。麦酒ビールである。


「お酒に合いそうなものもお願いね、お姉さん」


 女性はロアの中性めいた顔にしばし見惚れ、「は、はい。お任せください!」と意気揚々とした風に厨房へと引っ込んだ。

 女性が去った後、並々と注がれた麦酒を見て、


「ははっ……素直にカクテルを頼むべきだったかも……」 


 とロアはお気に召さない様子だった。「ボクは生来とびきり酒に弱い性質でね……」というのがその学者の言。「ではなぜ飲もうとする」という言葉をサルスは呑み込んだ。無粋な質問と思ったのだ。弱いが好きな人間もいる、と彼は結論したのである。


「まあ今は飲もう。なにに乾杯する? ボクが決めていい?」


 ジョッキを持ち、ロアは言う。「それでいい」とサルス。


「それじゃあ、なにがいいかな……決めた」


 ロアは厳かにジョッキをサルスに差し出した。サルスも同様に、ロアへ杯を捧げる。


 ――再会を祝して。


 カチン、と玲瓏な音が響く。


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