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ようこそ、あやかし相談所。  作者: 藤水 蒼人
1/1

時の止まった町

初投稿です


ガタガタしながら投稿してます


よろしくお願いします( ´Д ` )

鐘の音が学校の校舎全体に響き渡る。

本物ではない、録音したその音を聞きながら俺、東慎司はもぞもぞと自分の腕の中に潜り込む。

昔からよく目つきが悪いだの怖いだの言われる自分の顔を隠すように。


「なー、帰りどっか寄ってこうぜ」

「お、誰か誘う?」

「…げっ、東しかいないのかよ」


ガラガラと扉の開く音がしたと思った矢先にこの会話である。

俺はなにも聞いてませんよー、寝ちゃってますよー。というのを示すかのようにぎゅっっとからだを縮こませた。爪が、腕の皮膚にギリギリと刺さるのを感じる。


「俺ら二人で行くべー、あいつ誘っても楽しくねーしさっ」

ギャハハハ、と品のない二人分の笑い声が廊下を通り過ぎていった。



クラスメイトがいなくなったのを感じ取った俺は、学生服をまとった腕の中で長いため息をついた。


「……俺は寂しいに決まってんだろが、ボケェ」




東慎司、十五歳。今、幸せか?という質問が来たら即座に『NO』と答えることが出来る。

…じゃあ昔は良かったかと言うと、そうでもない。

球技大会で行われたバレーでは、俺のせいで負けたといっても過言ではないし、勉強は中の下…まあ良くは無い。

「なんですか?」と聞き返すだけで「す、すみません!!」と勢い良く謝られるほどの目つきの悪さと、コンビニで買ったおにぎりに具が入っていないなどの運の悪さなどから、はっきりいって嫌われ者だ。

クラスメイトから遊びに誘われないのは神社の息子だから…などと思っていた時期が懐かしい。

人生を振り返っても、いい思い出ほとんどないなあ、なんて考えていたらまたもやチャイムが鳴り響く。

なんかもうどうだっていいや、とスクールバックを手に取りジワリと滲み出る涙に気付かないフリをしつつ、教室を出た。


これが、いつもの生活。





「おお、おかえり慎司」

「ただいま…」

家に帰ると、父さんが庭の掃き掃除をしていた。

家といっても神社の息子なので、神社…である。

動いてずれたメガネを戻しながら父さんは俺に笑いかけた。

「おやつ作ったから食べなさい。食べ終わったら、本殿の掃除頼めるか」

「ん、じゃあ先に掃除する」

「頼んだ。丁寧にな」


ずっと家に居られたら、楽なのに。

そう呟くと、本日何度目かわからないため息が口から出た。





「あ〜クソッ、聞いてくれよ『キワミ』さんッ!!!」


ゴシゴシと濡れた雑巾で台を拭きながら、誰もいない空間に向かって叫ぶ。


「今日も俺がいない方がいいって話されてたんだぜ!!こっちはどれだけ寂しい思いしてんのか知ってんのか!?っつー話だよな!?まじふざけんじゃねえよボケェエエエッ!!!」


うんうん、分かる分かる〜。などと返してくれる人などいないはずなのに話したくなってしまう。

ジワリと滲んでくる本日二回目の涙を今回は我慢せずにぼたぼたと流して、落ちたその塩水を雑巾でなんども拭い取った。


「………友達、って言える存在、一人でもいいから欲しいわ、ボケェ」


この口の悪さも、ひとりぼっちの原因であること露知らず、東は涙でぐっしょりと濡れた雑巾を絞るために一旦外に出る。

さあぁぁ、と爽やかな風が、一度も染めたことが無い漆黒の髪を揺らした。

「……あーあ」




「【明日】なんて、来なければいいのに」




チク、タク、チク、タク、と規則正しいリズムを刻み続けていた時計の音が止まったように思えた。


まだ、アラームはなっていないし、もう少し寝ててもいいかな。なんて思いながら反対方向に寝返りを打つ。


「………さん、し…さん」


むぅ、父さん、まだアラームはなってないよ。



「しん…さん、慎司さん!」


ふと聞こえて来た声に、意識が覚醒する。

パチリと目を開けると、横から俺を見つめる、見知らぬ少年の姿があった。


「あっ、慎司さん!起きました…」

「!!?!?!?!??」


その瞬間、ガツーーン!!!と大きな音が部屋を震わせた。

勢いよく起き上がった俺が、少年の頭と思い切りぶつかったために出た音であった。

うぐおぉぉぉぉ、と頭を押さえながら痛みを振り払う。


よかった…。どうやら入れ替わってるとかそういうことはなさそうだ……。


…ってそうじゃねぇよ!なにここで今まで読み込んで来たラノベの知識活用しちゃってんだよ!?

まず誰だよあの不法侵入者はっ!!?


チラリ、と壁側に目を向けると、今だにうずくまっている少年の姿があった。

俺と同い年、かそれ以下。女子がいう、『カワイイ系男子』の類である。

……にもかかわらず、天パのかかった髪の毛は目に生えるような金色だ。


太めの眉に、涙を浮かべる大きな瞳は、よく熟れた林檎のように紅く………、ん、紅く?


赤いって、外人?いや、そもそも赤い目の色ってあったっけか、などと思考を巡らせていると、とんでもないことが少年に起こり始めて居た。


もぞもぞり、とふわふわな髪の毛が動いたと思ったら、ぴょこん、と飛び出して来たのは『ケモノの耳』。

髪と同じく金色だけど、先っちょは茶色がかってる。

そしてしまいには、ボフン!というあまり聞かない音を立ててモフモフの尻尾が飛び出した。


そう、それはまるで。



「きっききききつつつつきつき……」

上手く舌が回らないせいか音を正しく発音できないが、そう、まるで『キツネ』のようだった。




少年は俺のことを思い出したかのようにビクッとからだを揺らし、真っ赤な瞳を最大限見開いてこちらを見つめた。

綺麗な毛並みの尻尾は、すっかり毛を逆立てていて、それでもそのふわふわ感に魅力を感じた。

…いやいや女子か俺は。でも…ああ…「ふわふわだぁ…。」


どうやら声に出ていたらしく、少年は耳と尻尾が出ているのに気づきバッと手で隠そうとする。


いやいや隠せてませんよ、頭隠さず尻尾も隠さずですよ。



「…お前、俺に何か言うことあるんじゃねえの」


少年は、口に手をあてて数秒考えたあと、綺麗なお辞儀をして俺にこう言った。


「おはようございます!慎司さん!」


ちげえよ。

絶対ちげえよ。




結局少年の満面の笑みに心が折れ、俺は「オハヨウゴザイマス…」とうつむきながら返した。

そんな俺に対して、「ハイ!おはようございます!」とまるで花が飛ぶような笑顔を再度返される。

とりあえずどちら様ですか、と少年に問うと、少し戸惑いながら答えてくれた。


「…僕はここの町の神様に言われて、あなたの友達になりに来ました!ほら、昨日…いや、『今日』言ってましたよね?」


確かに言った。泣きながら雑巾絞って言った。

けどまさかあやかし連れてくるとは思わねえだろ神様よ。

…あと『今日』ってところにやたら力入れて言ったけど、なんで?


「あ、それも慎司さんが願ったからですよっ」


…俺が、願った?


「これから神様の伝言を伝えますから、よーっく聞いててくださいね!」


ア、ハイ。

チャントダマッテキイテマス。


「『慎司くん、いつも本殿掃除してくれてまじサンキューね!俺わりと綺麗好きだから、スッゲー助かってるの!』」


ちょっと待てええぇぇぇい!!!

神様軽い!!!ノリが超軽いよ!!!

まるでぺらっぺらなポテトチップスみたいな軽さ!!


「ちょっと!ちゃんと聞いてください!」


ご、ごめんなさい。


「ごほん!…『それで君のお願いだけど、どうやら俺失敗しちゃったみたい☆たぶんこの町のみんな、田中さんに朝を迎えに行ってもらわないと、一生起きない感じになっちゃった。だからこの状況じゅーーーぶん楽しんだら、田中さんを探して朝を迎えに行ってあげてね!じゃあヨロシクね〜!』……です!」


田中さんって誰だよ!?てか神様適当すぎてなんなの!?常にネットサーフィン楽しんでそうな雰囲気醸し出してるよ!っていうか、朝を迎えに行くってなんぞ!!?


フラつきそうになるのを堪え、ダッシュで窓に駆け寄る。

シャッと勢いよくカーテンを開けると、そこはただただ霧が立ち込める、真っ白な世界が不安げに広がっていたのであった。






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