殺意と恐怖
俺は危うくヴィルの手によって天へと返されそうになっていたが寸前のところでジュリーとリュックが止めてくれた。
俺のダメージが中々に深い事もありもう少し休憩を取った。
「身体、見せて。」
突然リュックにこんな事を言われた。
「えっ!」
「じゃないと回復出来ない」
俺はほっと一息付いた。隣でまたヴィルがわなわなとしながら魔力を練っている。
次ヴィルの魔法食らったら本当に死ねる自信がある。
「リュックはこう見えて回復魔法が使えるんよ。中々腕は良いから任せといたら?」
「そっか、そう言う事ならお願いします。」
俺はそう言って上半身裸になった。
「任せて」
そう言うとリュックは手のひらに魔力を溜め始め、俺の心臓部分に手を当てた。
リュックの手のひらから暖かさとくすぐったさが伝わってくる。少しすると回復した。
「ありがとうリュック。回復魔法って気持ちいいんだな」
「ん、治ったなら良かった」
「治ったならとっととしたくしないか!」
「ヴィルは何をそんなに怒ってるんだ?」
「怒ってなどおらぬ!」
「やっぱ怒ってんじゃん!」
「やかましい!」
ヴィルがわけわからん!ここで何を怒ってるのか問いただしてもきっとまだ怒るから今はそっとしておこう。
俺の回復も終わり、旅を再開するもヴィルの不機嫌は未だ治らない。
模擬戦以来は特にこれといった事は無く、魔物が数回出てきた程度。
全然問題にならずジュリーが瞬殺。
旅路もそろそろ中盤に差し掛かった所で港が見えてきた。
「おー!海や海!」
ジュリーがはしゃいでいる。リュックもどことなく楽しそうな表情が見える。
「これでようやく半分と言った所かの?」
「うん。ここから船で1日。そこからは目と鼻の先にあるみたいだね」
「なんじゃその表現は?」
「俺のいた世界の表現だよ。凄く近い事をそうやって言うんだ。」
「ふむ。中々面白い例えじゃな。にしてもユーよ、なんで行ったことも無いのに知ってるんだ?」
「そりゃギルド長から聞いてたからだよ。」
「私はそんな話し聞いてないぞ?」
「寝てたら聞けないでしょうよ…」
そうツッコミを入れるとヴィルは顔を背けてスタスタとどこかへ行った。
そんなやり取りをしつつ港えと向かった。
港に着くと船員らしき人がいたので声を掛ける。
「すいません、ギルドからの依頼で来たんですけど」
船員の人に声をかけたが少し様子がおかしいように感じる。
「ユー!しゃがめ!!」
ヴィルが突然大声をあげる!俺はびっくりしてしゃがむどころか一瞬硬直してしまった。
何事かと思うと船員だと思って話しかけた人がナイフを首に向かって突き刺そうとして来た!
「ええい!間に合うか?!」
ヴィルが風魔法を無詠唱で放つ。
リュックも雷魔法を放っている。
だが海賊のナイフの方が早く、無情にもユーへと突き刺さる。
「あっ……」
ユーはナイフが自分に突き刺さる寸前までナイフの速度がゆっくりに見えた。
そのまま吸い込まれるようにユーの胸目掛けナイフが吸い込まれた。
ギィン!!
ナイフは胸に突き刺さると同時に硬い金属のような音がし、弾かれた。
そこからヴィルの放った風魔法はユーに直撃し、吹っ飛ばした。
船員は雷魔法を食らいその場に倒れ込んだ。
その騒動を聞き、船の中からぞろぞろと船員がやって来た。
「……海賊」
リュックがそう呟く。
「てめえら!見ちゃあならねえもんを見ちまったな!見られたからには生かしちゃおけねえ!野郎共!やっちまえ!!女は動けなくした後好きにしていいからな!」
そう言うと、海賊のボスは船内に戻って行った。
「ひゃっほーう!流石ボス!!」
嬉々とした海賊達が一斉にバタバタと船から降り、襲いかかってくる。
「ちっ。下衆どもが。ユー!無事か!?」
ヴィルはユーに近寄り怪我を見る。ユーはガクガク震えていたが目立った外傷は無かった。
「ここは任せて」
リュックは詠唱を始めた。詠唱を始め、あまり間も無く魔力が練り上げられる。
「ライトニング」
海賊達の間に雷が流れる。
ライトニングには殺傷力はそれ程無いが広範囲攻撃で麻痺の効果もある為集団には効果的な魔法とされている。
「さすがリュックー♪私も行こうかね!」
「中々やるでは無いか!私も負けてはおれん!」
ヴィルはユーが無事なのを確認すると戦闘に参加。
ジュリーとヴィルが右と左に分かれて突っ込んで行く!
海賊達はライトニングの影響で半数以上行動不能だが麻痺しなかった者や攻撃範囲外の者がまだ数人残っている。
2人はそれぞれ海賊達を無力化していく。
そんな中俺はナイフで刺されそうになった恐怖で足が竦み、佇んで見てることしか出来ないでいた。
あらかた三人が片付けるとボスが部下2人を引き連れて再び姿を表した。
「ちっ、よくも好き放題やってくれたな。楽に逝けると思うなよ?」
「貴様がボスか?ここの船員達はどこへやった!」
ヴィルが強い口調で問うとボスはニヤリとした。
「あぁ。ギャーギャーやかましかったんで船長以外は海の魚の餌にした。中々な光景だったぞ?」
ボスは口角をあげながら笑いながら言うとジュリーが震え始めた。
「貴様は生かしておく価値はない。私が始末してやろう」
ヴィルが戦闘態勢に入るとジュリーがすっと前に出てきた。
「ヴィルターナさん。私にやらせて」
ジュリーから発せられる静かだが燃えるような怒りを感じ、ヴィルは標的を周りの取り巻き達にチェンジした。
「なにか訳ありのようだな。分かった。私は他の雑魚を受け持とう」
決まると同時に2人は突っ込んで行った。
後ろからリュックも魔法を使って援護していた。
その間ユーはただ見ているだけだった。
初めてぶつけられる人からの殺意と先程の恐怖にユーは未だに足がすくんで動けなかった。
何をやっているんだ俺は?
俺はこんな程度なのか?
魔物の殺気には耐えられるのに人間からの殺気には耐えられないのか?
自問自答を繰り返していた。
だが自分に刺さるナイフの瞬間。その恐怖は中々消えない。
「きゅー……」
ナイフから身を守ってくれたスラ。ポケットから出て来てユーに話しかけていた。
その頃、ヴィル達の勝負はあっという間についていた。
ヴィルはLvは下がっているとは言え元々の戦闘能力が一回りも二回りも違く、雑魚を瞬殺していた。
そしてジュリーは
ボスの足元に倒れていた。