パーティーメンバーと腕試し
朝起きてから清算を済ませようと店員の元に向かうと、「昨夜はお楽しみでしたか?」なんてニヤニヤされながら聞かれたけどそんな事は一切無い。
俺の目覚めは最悪だった。息苦しい……目を開けると目の前が真っ暗だった。呼吸をしようとしても酸素が肺に取り込まれない。顔に手を持っていくと何かに当たる感触があって思い当たる事はただ1つ。スラしかいない。そう理解すると頭を食べられているような包まれているような状態で覚醒した。
慌ててスラを引き剥がし、思い切り空気を吸い込んでゼーゼーしながら呼吸を整えている最中にふと隣に気配を感じ見てみるとヴィルが眠っていた。
ヴィルは俺の息苦しさから解放された呼吸の荒さに気付き目を覚ます。
「んむぅ……息が荒い?貴様私に何かしたわけじゃないだろうな?」
と一言。そう言っているヴィルの背景にはドラゴンが爪を立てて威嚇していました。
そんな勇気は無いです。はい。それにまだ死にたくありません。
必死に今の状況を説明し、なんとか誤解を解いてそもそもの元凶であるスラの方を見ると俺の頭の次は枕を包み込んでまだ寝ていた。ムカついた俺はスラをガンと蹴飛ばすと半端じゃなく硬くて朝から凄く痛い思いをした。
というのが朝の出来事だ。だからお楽しみなんて一切無い!内心あんな事やこんな事に!なんて心の片隅で思っていたのに!!
そんな俺達は朝食を済ませた後、依頼の集合場所に向かっている。
スラも目覚めて朝の出来事を叱るとしゅんとしていたからもう気にしないで許す事にした。
集合場所が近くなるにつれて徐々に徐々に気持ちが高ぶる様ななんとも言えない感じがした。
「初依頼だね。少し緊張するかも」
「もっと堂々としておれ!私と共に冒険をする奴がそんな軟弱では困る!」
「緊張と軟弱ってなんか違う気が……」
「口答えをするでない!」
頭をべしっと叩かれた。なんか納得がいかない……
スラはスラで俺達のやり取りをポケットの中から見ているのが好きみたいだ。
そう言えばスラの事で分かった事がある。 どうやらスラは伸縮自在らしい。と言っても限度はあるがな。
小さくなるなら俺のポケットサイズ、まぁ現世でいうならYシャツのポケットサイズだな。それ位まで小さくなれるらしい。 スラはポケットの中が気に入ったみたいでそこに収まりすっかり定位置になってしまった。
可愛いからいいけどね。
大きくは縦横30cm位になれるみたい。
ちなみに冗談で盾にしても良い?って聞いたら「構わないよ!それでユーが無事ならね!」と答えてくれた。俺は泣きそうになったよ。
でも塩には極端に弱いらしい。なんでかな?
待ち合わせ場所に到着した。
ここには俺達の他に護衛らしき人が2人、あとはギルド長のおっさんがいる。
「おっ、ちゃんと来たな。それじゃあこいつらを紹介する」
「……どうも」
軽く頭を下げられ、その後は何も言わない。
なんだろう。全く自己紹介になってない。絶対にこの人コミュ障だな。この人に護衛されんの?絶対会話の間が持たないよ…
「相変わらずあんたは辛気臭いねぇ。あたしはジュリー。よろしく!この辛気臭いのはリュックだよ。人見知りで基本的に黙ってるからほっといて良いよ」
「僕は灰原勇作って言います。長いのでユーとでも呼んで下さい。これから少しの間ですけどよろしくお願いします」
自己紹介をすると若干ヴィルが不機嫌な顔をしていた。
「それでこっちにいるのがヴィルターナ。旅の仲間です」
「ヴィルターナ言うんだね。えらい綺麗だね!ユーの彼女かい?それと同じ冒険者なんだから言葉遣いなんて気にしなくてええよ」
「ななな!何を言ってるのだ貴様わぁー!」
彼女の言葉にヴィルが物凄く慌ててる。そんなに俺の彼女って言われたのが動揺する事だったのか。
「あー。楽しそうでなによりだ。それじゃあお前等しっかりと運んでくれ。荷物が見えてない分、盗賊共には襲撃はかけられにくいだろうが油断は禁物だからな。ではしっかりと頼む」
「「了解!」」
道中順調に進んでいるとジュリーから話しかけられた。
「いきなりやけど、ユーはどれくらい戦えるん?見たところ冒険者やろ?私の見たてではある程度は強いと思うんけど」
「どうだろうな?対人戦はヴィルとしかやったことがないからイマイチわからない」
「ふーん。それじゃいっちょやってみる?」
「俺とジュリーさんで?」
「さんはいらんで。ジュリーでええ。護衛をするにしてもどれくらい戦えるのか把握しとかないといざって時にな」
「そう言う事か。それじゃ少し休憩がてらやってみよう」
休憩を少し挟み、俺達は模擬戦を始めた。ジュリーは剣を使うと言っていた。俺は武器を持った相手と戦うのはあまりなれてない。
ヴィルと町に来るまでに数回ゴブリン的な相手と戦っただけだ。
「それじゃあ……行くよっ!!」
ジュリーが剣を構えたまま突進して来る。
魔物が放つ殺気には慣れたが人間が向かって来るのにはまた別の恐怖があった。
「うわわ!こわっ!!」
慌てて俺は無様に横に飛んだ。
俺は武器が怖い。掠っただけで切れちゃうんだぞ?そりゃ怖い!刺されたりしたら致命傷だ!!
「馬鹿者ぉ!怖いとか言って逃げる奴があるか!!ちゃんと相手を見ろ!剣がどこに向かって来てるのかもしっかり見ろ!下手に逃げた方が危ないんだぞ!」
ヴィルが怒りと共にアドバイスをくれたけどやっぱり怖い物は怖い。元の世界じゃこんな事絶対にありえないんだぞ!?でもここで引いたら後で何を言われるかわからないし……むしろ修行と言ってボッコボコにされるかもしれない。
「って言われてもいきなりなんて出来るかよ!」
俺は逃げるのはやめた。だが言われた事をすぐに実行出来るほど戦い慣れてないし器用でもない。
「どうしたんユー!逃げてばっかじゃ相手にならないで!!」
そう言いながらどんどん斬りかかってくる。
俺は本当に斬られたらどうなるんだろうとふと思った。シャレにならないんじゃね?
この世界での命は決して重いものではない。普通に魔物も出るし、盗賊などもいる。盗賊は大体がこちらを全滅させてから物を奪うと聞いた。
今回のは護衛対象が俺だから致命傷は無いと思うが腕が動かなくなりましたとかはあり得そうだ。
「ちっ」
ジュリーが舌打ちをしている。俺に当たらなくてイライラしている様子だ。
だてにヴィルと修行を積んだわけじゃないんだ。
俺はここがチャンスだと思ってジュリーに向かって行った!
ジュリーは突然俺が攻撃に出たのもあり、少し驚いた表情をしたがすぐに構えを治した。
「うおおぉぉ!」
掛け声と共に俺は後数歩でジュリーの懐に入れる距離まで詰めた。ジュリーは懐に入られまいと鋭い突きを繰り出す。
俺は突きを身を捻り紙一重で躱し、腕を叩くと同時にその勢いで胸元に掌底を繰り出した。
ジュリーはこのままではマズイと思ったようで、体制が少し崩れているが身体を捻って回避を試みる!
「あの体制から身体を捻るのかよ!でもまだだ!」
俺は掌底は交わされたが勢いはそのままでくるりと回り裏拳を繰り出す!
「くっ……!」
ジュリーは剣を持ってない方の腕でガードしたが、体制不十分な為腕に力が入らない。
中途半端なガードのせいで裏拳の勢いも中途半端に殺された。
モニュ。
「「……………」」
ジュリーは機動力が殺されないように鎧は纏っていない。
服越しから確かな柔らかな感触がユーの手に伝わって来た。
ユーはその感触を数秒楽しむ事が出来たのだが……
「ななな!何をしてるのだ貴様ー!!」
ヴィルが言葉とともに魔法を俺に向けて放った。
「どわぁぁあ!!」
ズドーン!!
俺は手のひらの感触に心を囚われていてまともに食らった。
「この変態が!!貴様の様な奴はこうしてくれる!!」
ヴィルが怒り心頭で問答無用で魔法を使ってくる。
「ま、待て!ぶへっ!はな、話せばわかる!!」
「黙れえぇぇえ!」
「あは、あはは……ヴィルターナさん、こんなに強いんだね。これ、私達の護衛なんていらなくない?」
「違いない」
この2人の言葉を聞いた後に俺は意識を失った。