表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

プロローグ

 困難は、それを乗り越えられる者にしか訪れない。だから、神様は君たちに試練を与えるんだ。君たちには、それを乗り越える力があるということだよ。


 これは、ぼくが中学三年生になった始業式の日、担任になった教師から言われた言葉だ。

 それは、人生についてのありがたい教訓ともとれるが、中学三年生であるぼくたちにとって目下の試練といえば、受験だ。だから、担任はそれについての励ましとしてあの言葉をぼくたちに贈ってくれたのだろう。

 思春期という難しい時期であったせいか――いや、そもそも「神様」なんていう信じがたい言葉を使ったせいか、それを信じる人もいれば、もちろん信じない人もいた。

 そして季節はめぐって春、その言葉を信じていたのに志望校に不合格だった人もいれば、信じていなかったのにすんなり合格した人もいた。あの言葉が真実であろうとなかろうと、結局は自分の努力次第なのだ。まあ、多少運もあったかもしれないけれど、それも自分のものであって、誰かから与えられたものではない。

 その後、クラスメイトたちがその言葉をどう受け止めていったのかはわからない。志望校に落ちたことも一つの試練と考え、これからもその困難に立ち向かっていく人もいるだろう。それでも、またいくつもの試練に遭遇し、いつかは挫折してしまうかもしれない。

 はっきり言って、ぼくはそっちのほうが正しいと思う。あの先生は乗り越えられない困難なんてない、というような意味で言ったのだろうけれど、人生にはどうあがいたって乗り越えられない試練も存在するのだ。だから、そういうときはあきらめるしかない。あんな性善説みたいな言葉を贈るよりも、ぼくならこう言うだろう。「人生諦めも肝心」だと。

 だから、ぼくはあの担任の言葉を信じなかった。そもそも、信じられるわけがないのだ。何故なら、ぼくにはどうあがいたって乗り越えられない試練が存在するのだから。

 そう、本当に存在するのだ。乗り越えられない試練が、目の前に。


「おはよう。今日も不機嫌そうね」

「ああ、お前のせいでな。頼むから死んでくれ」

「あら、死ぬのはあなたのほうでしょう?」

「そんなの絶対にごめんだね」


 乗り越えられない試練は存在する。だけど、ぼくはそれをどんな手を使ってでも乗り越えなければならない。そうでないとぼくは死んでしまうのだから。そう、目の前にいるこの悪魔のせいで。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ