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間淵家での夕食会の二日後、今日は日曜日。僕は再び幻の部屋に来ている。
そう、今日はおなじみの命題の日だ。そろそろこの展開にも慣れてきただろう。
だが、今日はいつもとちょっと違う。具体的に言うと、いつもより二人多い。
二人。それは間淵家の次女と四女、祭さんと白さんだ。祭さんが、僕が遊びに来たのを見つけて、たまたま家にいた白さんとこの部屋にきたわけだ。机を中心に円く座っていて、向かい側に幻、右側と左側にそれぞれ、白さんと祭さんが位置している。ちなみに、三人ともかわいらしい部屋儀を着ている。
祭さんとか、どう見てもアウトドア派なのに、日曜日に家にいるんだな。そういえば、先日のゲームもかなりの腕前だったけど、まさかのインドアとアウトドアの両立派か? そんなバカな・・・
「はるっちは今日も命題ごっごするの?」
はるっちって・・・。今まで一度も言われたことがない、たとえ思いついても一般的な人ならばまず口にしないような、そんなファンシーな呼び名に少し当惑する。・・・ファンシーって使い方あってるっけ? あと、命題ごっこって言うな。
「そうです。私たちは今から命題ごっこなので、ご退室ください」
幻、お姉さんたちにも容赦ないな。でも確かに、彼女たちがここにいても退屈なだけだろうからな。
「幻ちゃんはつれないなっ! 邪魔なんてしないからいてもいいでしょ? お姉さんたちはひまひまなんだから。お願い! 絶対邪魔しないから、いたずらもしないし。ね、白ちゃんも話聞いてたいよねっ?」
「うん・・春さんと幻ちゃんがいいなら」
相変わらずのかわいらしさの白さん。年下だったら白ちゃんって呼びたいかわいさだ。
・・・いや、冗談だけど?
「僕は別にかまわないけど」
ここで出て行けと言うほど気の強い人間では、僕はない。それは気が強いというか、ただひどいだけかもしれないけど。幻も「そこまで言うなら」と、無理に追い出そうとはしなかった。きっと、普段から中のいい姉妹なのだろう。
「さて、今日は私が答える番ね。命題は”愛情と憎悪”だったわね」
僕はうなずく。そう、今日は僕が出題者なのだ。
「愛情と憎悪、愛と憎しみ。これらは一本道の端と端のとても遠いところにあるように感じられる言葉ね。でも、だからといってこれらは一方から一方に移らない固まっているものというわけではないわ。むしろ簡単に入れ替わる、動きを持ったものなの」
「それはテレポートみたいなものなのかにゃ?」
白さんがかんだ。にゃって・・・ナイスだね!!
やはりというか当然というか、白さんは恥ずかしさのあまり、耳まで真っ赤になった。ああ、これで年上なんて、世の中には不思議なこともあるんだなぁ、としみじみと思った。
「ええ、そう思って構いません。身近な例で言うと、気になっていた人の悪い一面を見てしまった時、また、気に入らなかった人の思いがけない一面を見た時、愛情と憎悪の入れ代わりが起きるでしょう。これは”愛情と憎悪”というより”好きと嫌い”をあらわしているけれど、愛情と憎悪についても同様のことが言えるわよね」
「なるほどなあるほど、つまりはギャップがミソってわけだねっ!!」
相変わらずハイテンションな祭さん。でもまあ、結構的を射ているな。良くも悪くもギャップが鍵か。祭さんはこう見えても間淵家の一人であるだけあって、こういったことは得意なんだな。ちょっと見直した僕。・・・これもギャップか?
「そうですね。入れ替わり可能とはそういう意味です。ほかには、愛情と憎悪は大きな視点から見れば、”思う”というおなじ枠の中に含まれるというところかしら。。これは別に”愛情と憎悪”に限らないことだけど。ちなみにこのときの対義語は”思わない”にあたる無関心ね。”愛情と憎悪”と言われて思いつくのはこれくらいかしら」
視点の切り替えか。一見対義語に見えるものも、大きくみれば同じカテゴリーに含まれているってことか。
「なるほど~、幻ちゃんさすがだねっ! 対義語が仲間に見える、この関係は、名付けて・・・う~ん、何だろう?」
名付けないのかよ!? シュールなギャグをかましてくれた祭さん。ならば僕が代案を考るしかないな。名付けて、赤白語!! ・・・いや、赤と白はなんか対極っぽいし、”色”の種類に含まれるからってことなんだけど・・・ダメか。
「う~ん、思いつかないなぁ。さすがに赤白語ってのはセンスないしな~」
・・・言わなくて正解だったな。ほっとする僕。
「ground or sky」
白さんが唐突に代替案を出してくれた。しかも・・・ウルトラかっこいい!!
「おお、それで決まりだね!」
祭さんも満足したようだ。白さんはネーミングセンスもあるのか。
「もうこんな時間だ~。白、お腹すいちゃったから夕飯作って!! はるっちも食べるよねっ?」
時計を見ると、時刻は十二時半。ちょうど昼時だった。
「じゃあお言葉に甘えて。いいですか、白さん?」
「よ、よろこんで。それで、あの、メニューは何がいいですか?」
「じゃあ、パスタで」
「わ、わかりました。三十分ほどでできるので、それまでお待ちください」
それからちょうど三十分後、僕たちは白さんが料理してくれたパスタを食べた。
味はもちろん 。