料理の得意な
ゲーム開始から二時間、夕食ができたので僕たちは幻の部屋を後にした。ゲームしていて分かったことだが、三人ともゲームうますぎっ! 明らかにやりなれている感じだった。
僕たちは居間へ向かった。今に入るのは初めてだが、これはなんというか、とても大きな円いテーブルがそこにはあった。家族全員で食べるには明らかに不必要な大きさだ。一人ひとりに十二分なスペースが与えられている。
「おまたせ~」
凪さんが僕たちに座るように促す。椅子は十個。ちょうど一人一席に座るようになっている。僕の右隣に幻が左隣に白さんが座った。
「後いないのは、影兄貴と親父だけか。あたしが呼んでくるな!」
そういって光さんは部屋を後にする。
今、テーブルには七人ついているが、誰も食事をとりにいこうとしない。おそらくメイドか執事が持ってきてくれるのだろう。なので僕も黙って座っていることにした。
二三分後、光さんと影さんとお父さんが居間に入ってきた。
「や、春君」
影さんは気さくに声をかけてきた。今日は眼鏡をかけている。
「君が十坂春君だね。私は幻の父、間淵啓だ。今日は食事を楽しんでいきなさい」
「はい、よろしくお願いします」
幻のお父さんは、紳士代表のような紳士だ。身長180という大柄にも関わらず、相手に威圧感を与えない、見た目で判断するべきでないといわれるかもしれないが、それでも一目でしっかりした大人なんだとわかる。
「さあさあ、そろそろ料理を持ってきてもらいましょうか」
凪さんがそういうと、奥の厨房から一度に十人もの人が料理を運んできた。全員メイドだ。本当にいたのか、メイド・・・
僕の前に料理が次々と並んでいく。何かのコース料理なのだろうが、手作りでコース料理って、凪さんすごいな。
そんなことを考えていると、メイドの方に、「お飲み物はいかがなさいますか?」と聞かれた。こういうときは何かカタカナの名前を言わなければいけないのかと思ったが、幻が普通にお茶を頼んでいたので僕もそれに倣った。
それから、招待客の務めであろう、料理についての賞賛を述べた。
「いや、それにしてもすごいですね。コース料理が作れるなんて、凪さんは料理が得意なんですね」
「いいえ、料理を作ったのは主に白で、私と光は簡単なものを手伝っただけよ」
そういわれて、僕は隣の白さんを見る。彼女は恥ずかしそうに、でも少しうれしそうに微笑んできた。
「そうなんですか。料理のできる女性って素敵ですね!」
そういうと間髪あけず、幻が僕の足を踏んだ(誰にも見えないように)。しまった、彼女は料理ができないのだった。
それを見ていなかった白さんは、ありがとう、とさらに赤くなった。
「ははっ、春君、白のことをくどいてやんの!」
光さんが余計なことを言う。何でそんなことを! そんなつもりじゃなかったんだ!
ぼくは明らかに不機嫌になった幻と、僕にほめられて少しうれしそうな白さんに挟まれて食事を食べた。食事に手をつける前は幻を起こらせたことを気かかっていたけど、一口食べてみると、そのあまりのおいしさに僕は夢中で食事を食べた。
そして食事終了、僕はいくつかおかわりをさせてもらった。全員でご馳走様の挨拶を終えるとすぐに、幻は僕を部屋に連れて行こうとした。間淵一家もそうしなさいといったので僕は挨拶をして今から出ることにした。
「今日は食事に招待してくれてありがとうございました。とてもおいしい料理がたべれてうれしいです」
僕は率直な感想を言った。
「満足してもらえてよかったよ。食事会は月に一度あるから、君さえよければまた来なさい」
啓さんはそういってくれた。
「ところで君はもう聞いたかな? 命題について」
「あ・・はい」
命題について、この家では結婚の条件が家族全員の命題に答えることなのだ。
「そうか。命題については、私からいきなり聞くということはしない。君がもし幻と結婚したいと思ったときは、君からそういってくれれば私は命題を出そう。だから、そんなに緊張する必要はないよ。あぁ、結婚相手については別に幻でなくてもかまわないよ」
・・・・・。
最後に余計なことを付け足したお父さん。この人も意外といたずら好きなのだろうか。みんなの視線がいっせいに白さんに向かう。白さんも僕と目が合い、今にも倒れそうなほど真っ赤になった。
「ありがとうお父さん、そろそろ私と彼氏の春君は部屋に戻ろうと思います」
幻は怒りを隠そうともせずにそう言って、僕を引っ張っていく。
このあと僕と幻との間で出んな会話があったかは、言うに及ばないだろう。
それから約一時間、幻から説教されて(おもに白さんのこと)僕は解放された。
最後に彼女は、少し不安そうな、そんな表情で僕に問いかけてきた。
「料理ができない人は嫌い?」
・・・あぁ、あのことを気にしていたのか。そんなの、答えは決まってるじゃないか。
「 」
たしかに料理が上手なことは、魅力的なポイントだ。でも、それがすべてじゃない。そうだろう?