夕食会への招待状
今日、僕は幻の家で月に一回行われる夕食会に招待されている。どうやら、影さんの仕業らしい。”夕食会”という言葉に、なんだか壁を感じる。やはり家が屋敷なだけあって、そういう催しがいろいろとあるのだろう。
ちなみに今日はおとぎの家族は全員いるとのことだ。幻と幻の両親、それに影さんとまだ知らない余人のお姉さん。
それにしても、家族に挨拶とか半端じゃなく緊張する。彼女と付き合っている以上、こんなイベントが発生することは想像できなくもなかったけど、それはあくまで想像。実際に起きるとやはり緊張せずにはいられない。キャナットヘルプ、ブイイングだな!
・・・。失言だったかな? まあいいや、話を戻そう。
僕は今、幻の家の前にいる。現在時刻は午後二時。夕食にはまだだいぶ早い時間だが、この時間に呼ばれた。話によると、今回の夕食会はいつもと違って参加者は間淵一家と僕だけ、料理は幻のお姉さんとお母さんの手作りだそうだ(幻は料理がからっきしできない)。こんな屋敷に住んでいるだけあって、普段はシェフに作ってもらうっているらしいが、今回は僕の歓迎の気持ちを込めて手作り料理を振舞ってくれるらしい。
なんて現状把握をしていると、間淵家の門が開いた。そして中から三人の女性が出てきた。そして僕のほうに歩いてきた。
「こんにちは。あなたが春君ね。私は間淵凪、お母さんってよんでいいわよ」
凪さんの年はどう考えても四十近くあるはずだが、三十台、いや二十台後半と言っても通用する見た目だ。背は幻よりも高い170センチってところだろうか、雑誌に載っていそうな見事なプロポーションを持っている。彼女の表情はどこか、人を安心させるようなところがあり、優しいお母さんという感じだ。
「へえ、君が春くんか~。思ってたより可愛いじゃん。あたしは長女の間淵光。こっちが四女の間淵白。よろしくな!」
今喋っている光さんは幻や凪さんを凌駕するプロポーションと抜群の美貌の持ち主だ。髪は少し赤みがあり肩を超えるぐらいの長さで、ポニーテールにしている。口調が男っぽいかっこいい感じで、それと見た目とのギャップがまたいい。
彼女の後ろでもじもじしているのが白さんか。第一印象はお嬢様。背は150ちょっとの小さめで、ドレスのような服を着ている。髪は金髪のカールだ。おそらく恥ずかしがりやなのだろう。僕と目が合ったとたん真っ赤になってしまった。
「ま、白です。よろしくお願いしましゅ」
・・・沈黙が訪れた。いい間違えなのかわざとなのか分からないので、とりあえず黙ってみる。
すると、彼女は消え入りそうな声で「よろしく、お願いします」といい直した。やっぱりいい間違えか。まぁ本当は分かっていたけど。
「えっと、よろしくお願いします。三人でお出かけに行ってくるんですか?」
「いえいえ、あなたも一緒に行くのよ」
「そうそう、これから夕食の買出しに行くんだ。一緒に来てくれるだろ?」
夕食の買出し。そこからすでに手作りなのか。
「はい、そういうことなら。店までは歩いていくんですか?」
「いえ、車で行く予定だけど乗り物に酔っちゃう人かしら?」
「あ、いえ、大丈夫です」
会話をしていると家の方から車が走ってきた。僕はあまり車に詳しくないので車種は分からないが、外車であることだけは確かだ。運転手の方は執事だろうか?
「よし、乗った乗った。母さんは助手席であたしたちが後ろな。後ろは狭いから白は春くんのひざの上だな」
「「えっ!!」」
僕と白さんがシンクロした。いや、それはさすがに・・・
「あははは、冗談冗談。つめれば三人ぐらい座れるぜ。なんならあたしが春くんのひざ上に座ってもいいけど」
「もう、からかうのはよしなさい。大丈夫よ、十分に座れる広さだから。気になるならもう一台車を用意するけど」
「だ、大丈夫です!」
僕はあわててそう答える。よく見れば三列シートだし、もう一台車を用意するなんてそんな贅沢なことは、貧乏性の僕には考えられないことだった。
僕たちは車に乗り込む。
「それじゃあ出発!」
光さんの掛け声とともに車が発進した。非常に特徴のあるメンバーをのせて。
そして二時間後。買い物を終えて再び家に帰ってきた。車の中は、そこが車の中と感じさせないような車の中だった。きっとものすごくいい車なのだろう。
「今日買ったものは重ねると危ないから三列目のシートに置こうか」という明らかないたずらによって、帰り道はいすが二つで乗る人が三人、つまり本当に僕がひざを貸す羽目になりかけたが、トランクという救済によって僕は無事に三列目に座れた。光さんのいたずら心、半端ないな。
ようやく光さんから解放された僕。車の荷物は家の人(メイドだろうか)がやってくれるらしいので、僕たちは家に入った。
「おじゃましまーす」
彼女たちはこれから料理作りを開始するらしく、僕はそのまま幻の部屋に行くように言われた。ちなみに買い物には付き合ったが、何を作るつもりなのかまったく分からなかった。幻の部屋へはもう何度も来ているので、案内なしでつくことができた。
僕はノックをした。
「幻~、僕だけど、入るよ」
そういって入ると、中には三人いた。
一人はもちろん幻、あと二人は知らない女性だ。と言っても間違えなく彼女の姉だろう。
「あらもう着いたの。お疲れ様、じゃあ早速だけど参加してくれるかしら」
幻たちはゲームをしていたらしい。そして僕に参加を促した。
いや、その前にそこの二人の姉さんを紹介してくれよ! ほかの二人もそう思ったらしく、僕のほうを向いた。
「その前に自己紹介させてね! わたし、間淵祭、ヨロシクねっ!!」
ハイテンションな彼女はスポーツでもやっていそうなさわやか系美少女。髪は茶色で、肩に届かないぐらいのさっぱりした髪型。彼女の例に漏れず見事な体形をしている。
「私は間淵鞘。間淵家の三女よ。春君だっけ? よろしくね」
もう一人は凛としているお姉さんって感じだ。見た目は幻に似ているけど、幻より背が高い。
これで僕は幻のお父さんを除く全員と顔を合わせたわけか。なんていうか・・キャラ強すぎ! 家族のうち誰一人として”ノーマル”な人がいない、そんな印象の間淵一家であった。