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命題と恋愛  作者: 高居望
契命題
36/36

風の子かける二

「こんにちワン!」


「お疲れさん!」


 例えるなら突風。

 本来なら運転手の方があけてくれるはずだった車のドアを──間違えなく高級車であるこの車の両側のドアを──二人の子供が勢いよく開けた。

 バン、と。


 大きく元気のよい声、飛ぶ出すように現れた二人の子供の顔はこれ以上ないくらいニコニコしていた。


おとぎお姉ちゃん久しぶりぃ!」


ましろねえも久しぶりっ!」


「それで」


「そんで」


「「あなたは誰ですかい??」」


 息のそろった二人、見ていて妙な感じがするほどにピッタリな二人は、同時に僕を指差した。ニコニコとした笑顔で。


「あ、えっと……」


 ビックリするくらいハイテンションの二人に、僕はなんて答えればいいのかわからなくなった。何となく頭の中に詰まれていたものがすべて崩れ去ったイメージ。

 音を立てて崩れたのかもわからないほどのあっけなさ。

 二人は、そんな僕の、動揺する僕の返事を待つことも無く続けた。


「まぁまぁ、とりあえずは車の外へっ」


「詳しい話は歩きながらだぜ!」


 何がなんだかわからないうちに、僕は二人組みの一人、天然パーマが可愛らしい少女に手を引かれて車から降りた。小さな柔らかい手を、僕はどのくらいの力で握っていいのか迷った。

 子供と接することはあまり無い僕だ。


 ちなみに、二人組みのもう一人は八重歯が印象的な少年。ツンツンとした短髪は、なんとなくスポーツマン的に、運動神経がよさそうに見えた。


 僕の見たことの無い二人。僕を見たことの無い二人。


 彼と彼女、なんて小学生をさすには変な言葉か。とにかくこの嵐のような二人はどちらも小学校の高学年か、せいぜい中学生くらいに見える。

 僕は、いまさらながら二人がおとぎのいとこであることに気がついた。頭がようやく追いついた。


 駐車場に降りる僕。ちなみに、ここには間淵家(幻の家)の三大の車のほかには一台のスポーツカーしか止まっていなかった。広い敷地に四台の車というのは、なんと言うか、少しさびしい感じがする。まつりさんたちがいないところを見ると、彼らはもう既に間淵家本家へ向かっているのだろう。

 ガイト役の二人の子供を残して。もしくは僕らに押し付けて。


 ……。むぅ。


 話は変わるが、外ははっきりいって寒い。だいぶ坂を上がっていた気がするから、もしかしたら山の中なのかもしれない。

 長く伸びることが使命だといわんばかりの細長い、枝の無い木々。あちこちに生えている名前の知らない草花。

 僕の想像を裏付ける程度には、周囲の景色は自然にあふれていた。


 僕たちの住んでいる場所もどちらかといえば田舎だが、ここはそんなものじゃない。『自然』という言葉が似合うような土地だ。まさに田舎だ。


 まず第一に広い。何も無い場所がいちいち広い。広大な景色、そういえばいいのだろうか。この駐車場、何十台という規模で車を止められるここから三百六十度、とりあえず建物のようなものは見えない。

 かといってその景色の中に本当に何も無いわけではない。森があって、川があって、坂があって、地面は小石大石が転がっていて…… 無機質と感じさせるような空白ではなく、無機物が無い『自然』なのだ。

 そして空気。これが一番の決め手だろうが、空気がすんでいる。吸ってもおいしいし、風に吹かれて流れてきても気持ちいいし、遠くまで見渡しやすい。


 とても心地がよい。空気の件は、もしかしたら僕の勝手な思い込みかもしれないが、とにかく、そんな風に思わず入られない雰囲気がにじみ出ている場所だ。


 今度から僕は、心地よさとは何かと聞かれたら、『心地よさとは空気である』と言うことにしよう。空気というのは、もちろん僕が今言っている空気もあるが、雰囲気というのも空気と呼べる。僕が気づいていないだけで、重なった意味はもっともっとあるかも知れないけど。

 まぁそんな質問をしてくる人がいるかも謎だけどね。なんて。




「ほらほら幻お姉ちゃん早くして!」


「そんなに急かさないでくれるかしら。まったく」


「そんなのんびりしてると、いつの間にか老人になってしまうのだぞぉ!!」


「な、何ですって……」


 と、僕は今、頭の中でふけっている場合じゃなかった。風の子という代名詞がまさに似合う二人の子供の声、それに対応する幻の声で現実に呼び戻された。白さんはいつの間にか僕の隣にいて、この空気を味わうように深呼吸をしていた。幻のほうは、二人組みにあれこれ騒がれている。

 幻の静かな怒り、大人の苛立ちを吹き飛ばすような風の子の動きっぷりに、僕は思わず笑ってしまった。子供って、無邪気だなぁ、そんなありきたりなことを感じる僕であった。




「さてさて」


「ほいほい」


「それじゃあ出発!」


「おぉ!」


 二人でどんどん話を進めていく風の子達。そういえば、僕はまだこの二人の名前を知らない。二人も僕の名前すら知らない。なのに僕は女の子に手を引っ張られて、男の子にニコニコと笑顔を向けられている。コレは…… 僕とは文化が違うのか??

 ジェネレーションギャップ?

 それとも、カルチャーギャップ?

 って、そんな言葉はあるのだろうか??


「ちょっと待ちなさい」


 幻が──車から降りるだけでもうだいぶ疲れた顔をしていた幻が呼び止める。子供たちはピタッと制動距離ゼロで止まったので、僕は思わず転びそうになった。不安定な地面なので少し危ない。石ころで転ぶのはご免だ。


「まずは自己紹介でしょう?」


 それは僕への言葉なのか、二人への言葉なのか、それとも僕も含めた三人への言葉なのか…… とりあえずわかることは、幻の言っている事は、的確で適切だということだ。その通り過ぎて、何もいえない。


「しまったぁ、うっかり忘れてたぜ!」


「うっかりうっかり」


 二人はテヘヘと笑ってから、僕の前に並んだ。僕から見て、右が天然パーマちゃん、左が八重歯くんだ。

 いまさらながら、僕はようやく二人の顔をじっくりと見ることが出来た。まじまじと見た二人の姿は、うん、第一印象とあんまり変わらなかった。

 やっぱり彼らは風の子、というイメージがピッタリだった。


「わたしは間淵仄まふちほのか。よろしくよろしくっ」


「オレは間淵(しゅう)。はじめましてだねっ」


 ペコリ、両手をおなかの辺りに重ねてお辞儀をする仄ちゃん。ニカッと笑顔でグットサインを向けてくる集くん。二人の催促するような視線で、ようやく次は僕の自己紹介の晩であることを思い出した。


「あ、僕は十坂春じっさかはる。仄ちゃんに集くん、よろしくね」


 赤の集くんに、黄の仄ちゃん、この挨拶から受けた新しい印象としてはそんな感じだ。どちらも小柄な体形で、すばしっこそうだ。


「これで全員お知り合いですね」


 白さんは立ったままストレッチをして体をほぐしている。ずっと車に座っていたから、僕も体の筋を伸ばしたい。


「なんとなくわかっているだろうけれど、この二人は私たちのいとこね」


 指を立てて補足する幻。彼らに絡まれないようにか、僕らとは少し離れたところで背伸びしている。幻にも避けるものってあるんだなぁ、と当たり前なことに感慨にふける僕。


 何も避けるものが無い人がいたら、それはまともな人ではないだろう。それを強者と呼ぶか、馬鹿と呼ぶかは人によるだろうが。



「それじゃあ、改めて出発進行!」


 僕の何の意味も無い心のつぶやきをかき消すような声。こういうものを持っている人のことをうらやましく思うのは、僕だけなのだろうか。


 まぁ、人には必ず何かしらの特徴があって、得てして自分のものはよく見ずに…… 

 いや、やめておこう。人がいるのに一人で考え事ばかりするのもよくない。そんなことは、寝る前に天上を見ながら好きなだけやればいいのだから。


「春お兄ちゃんは初めてだから知らないかもだけど、お家はここから歩いて五、六分だよ。ちょっと大変だけど、がんばってね!」


 だいぶ歩くんだなぁ。別に家の前まで行けばいいのに、と思わないことも無い。そういえば、あそこの駐車場は誰のものなんだろう。このあたりに住んでいる人たちの共有スペースで、そこから先は空気を汚さないために車禁止となっている、そう考えるのが自然かな。

 自然でもないか。

 自然って何だろ。


 疑問ばっか並べてないで、さっさとしらみつぶしに解いていけよ。他人が僕のようなことを言っていたら、そう思うんだろうなぁ。まったく自分勝手な奴だ。



 すっごく久しぶりの、「命題と恋愛」の投稿です。


 実は、あと三、四話で最終回になる予定です。


 いや、もしかしたらあと五話かも……


 とにかく、終わりは近いです。


 最後まで読んでくださりありがとうございました。この話が終わるまでは、出来るだけ間隔をあけずに投稿していくつもりですので、よかったらよろしくお願いします^^

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