序:居間にて
間淵家の居間。一家全員がここにいる。それと僕が。
入り口から一番奥にある椅子。一家の主のそれの正面に、僕と幻は立っている。僕たち二人の左右にはそれぞれ三つずつの椅子。それぞれにその持ち主が腰を下ろしている。
「では、契命題を受けるということでいいのだね」
正面の椅子の所有者、一家の主人からの最後の確認。それを見守っている全員の表情に、かすかな緊張が走る。僕の返事はもう決まっている。
「はい。お願いします」
皆の視線が僕へ向く。契を結んだ僕に。決断をした僕に。
啓さんが、凪さんが、光さんが、祭さんが、鞘さんが、白さんが、影さんが、契の証人となった。
もう引き返すことはできない、なかったことにはできない、決定的な一歩を踏み出した。
ーーもちろん、引き返すつもりもない。なかったことにするつもりもない。
ーー己が決めて進んだ一歩なのだから。
恐れはある。おびえはある。それでも、迷いはない。
体は震えている。鼓動は高鳴っている。それでも、その表情に曇りはない。覚悟を決めた男のそれだ。
「幻は、それを了承するか?」
続いて、彼は幻に、僕の契相手に問うた。
「ええ。私は彼を契相手として認めます」
彼女もまた、迷いなく、曇りなく、己で決断してそう答えた。ーーそう答えた。
「わかった。十坂春と間淵幻。二人の契命題をここに認めよう」
そのとき、左右の六人は同時に腰を上げた。
彼もまた立ち上がり、右の手を差し出した。僕も右手を差し出し、握手をした。
「がんばりなさい。君がこの契を果たせることを、切に願おう」
「ありがとうございます、啓さん」
体ごと右へ向き、一番左の椅子の主のところへ、歩を進める。
「応援しているわ。幻ちゃんのこと、よろしくね」
「こちらこそ。凪さん」
その右となりへ。
「期待しているよ。といっても、もちろん手は抜かない。妥協しない僕を納得させるんだよ」
「がんばります、影さん」
さらに右となり、こちら側の列の右端へ。
「ついに腹を決めたな。やるからには最後まで貫け。全員を納得させて妹をもらっていきな」
「もちろんです、光さん」
続いて、振り返り、その正面の彼女の下へ。
「はるっちと幻ちゃん、二人なら大丈夫。そうに決まってるよ!」
「そう願います。祭さん」
右へ。
「やっぱりあの子の相手は君よね。幻ちゃんと二人で、二人の力を合わせてこの試練を潜り抜けなさい」
「わかりました。鞘さん」
最後の一人。
「あ、あの、その・・・。ん、こほん。あなた方のこれからの道、そのはじまりが契命題。この坂を越えて、それからもずっと二人で歩んでください」
「はい、白さん」
そして、僕の隣の彼女。
「春くん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。幻」
十二月二十日。午後九時三十七分。僕達の契命題の参加が認められた。
全員との握手が終わり。再び啓さんの前へ戻る。
「それでは、契命題、最初の一人は祭だ」
「はい」
祭さんはもう一度立ち上がり、啓さんの隣、僕達の正面へと歩む。
「それじゃあ、最初はわたしだね。日時は十二月二十四日、四日後だね。その日の午後七時、夕食前にここで。都合は大丈夫かな?」
「はい」
「ええ」
「それじゃあ決まり。それと肝心の契命題ね。『なぜ努力するのか』これが最初の命題。二人とも、クリスマス・イブまでに自分の考えを整理してきてね。契を認める条件は、わたしを納得させること。二人のうちどちらかでもちぐはぐな意見だったら、決して認めません。相談とかは自由にしてくれていいけど、最終的に発表するのは自分の中にある思いだからね」
「はい」
「わかったわ」
契命題。間淵家の幻を除く七人。それぞれの納得する考えを発表することで、幻との契が認められる。その第一題が今、祭さんの口から伝えられた。




