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幻の兄、影さんと対面してから三日後、今日は命題の日だ。場所は相変わらず幻の部屋。
「今日は僕が出題の日だったね。それじゃあ早速、今日の命題は”名前にはどのような意味があるのか”。名前って生き物にはもちろん、無生物につけることもあるだろう。それってどういう意味があるんだと思う」
命題については事前にメールで知らせるのがルールなのでここで話がとまってしまうことはまずない。彼女もすでに考えてきた持論を発表する。
「名前を付ける、名付けるね。まず名前をつけることで生まれるのは、他との差異。無数にいる同種のなかで他との違い、大勢の仲間の中で個性を作るため。別に名前だけが個性というわけではないけど、名前が個人の特徴のなかで決して小さくないのは確かだわ。よく店とかで、自分と同じ苗字もしくは同じ名前が呼ばれたりすると、思わずドキッっとすることってない? あのドキッが名前がアイデンティティの中の大きなひとつであることの証拠といえるわ。子供に珍しい名前をつけるというのも具体例のひとつね。あれも名前が個人の大きな要因であることが真だからこそのことでしょうね。もっとも、私はそういう奇をてらったようなものはあまり好みじゃないのだけど」
さすがは幻。言われてみればそうだけど、実際に考えたことがない、もしくは考えたことを忘れてしまっている、そんなところを拾ってくるとは。やっぱりこういうところがスゴイと思わせるところなのだろうか。
「名は体を表すってことか。じゃあ無生物については?」
「無生物へのネーミング、それもやはり他との差異というのが大きいと思うわね。名前を付けると愛着がわく、まったく同じものは実際はたくさんあるけど、自分が名付けたこれはこれだけ。でも生物の場合とと違う点もあるにはあるわ。生物に名前を付けるのはあくまでその生物のためでしょう。でも物に名前を付けるのは、そのものを所有する自分のため。物のためではなく者のためってね。ふふ、面白い冗談だわ。」
自分の言ったジョークに笑う幻。でもいまのが面白かったかどうかはかなり微妙だ。
「ん、何? あなたも笑ったら? 別に今笑っても私を蔑んでいるなんて勘違いしないから安心して。さあ、笑っていいのよ」
笑いフリ来た!! これはどうすれはいいのだろう。
僕は何とか笑おうとして見せる。たぶん、いや間違えなく引きつっていただろう。
「もしかして・・・春君、今の面白くなかった? そんな・・・ヒドい・・・」
急に悲しい表情になる彼女。え? いや、そういうつもりだったんじゃないのに・・
この窮地を切り抜ける手段は一つ、それは・・・
「そんなに落ち込むなよ。さっきのジョーク、結構よかったじょう、クックック」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・え、いいじょう、クックック・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すみませんでした・・・」
あれ? やらかした? この場を収めようとしたつもりが、クーラー要らずのクールな部屋を作ってしまった。
なんかいろいろ終わったけど、命題についてはもう終わっていただろう。名は個性、それに尽きるね!
「・・ふふっ」
アレ!? さっきのがいまさらになってきた? というか駄洒落好き?
彼女の一面がさらに見れた、そう思えば凍える大火傷をした甲斐があったってもんだね!
こんにちは。
もうお分かりだと思いますが命題に取り組む話では数字、それ以外では話の題名がサブタイトルになっております。
すでにラストまでの流れは決めてあるので、一日一話投稿できると思います。
稚拙な文ですが、どうぞお付き合いください