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命題と恋愛  作者: 高居望
結婚相手!?
28/36

舞台変わらず

「お待たせっ!! ありゃ? はるっちも着いてたんだ! おはよっ!」


 ましろさんが出してくれた飲み物も残すところあと一口という時、二人が居間へやってきた。

「こんにちは、まつりさん・・・」

 まずは元気な声の主に挨拶。ちなみに現在時刻、十二時半で、おはようの時刻はとっくに過ぎているわけだけど・・・。そのあたりは価値観の違いなのかな。とりあえずこちらは昼用の『こんにちは』で返しておいた。

「幻も、こんにちは。なんか結構時間かかってたみたいだけど・・・、もう準備は終わったの?」

 そしてもう一人、僕の同級生であり、今年の夏に初対面で命題を吹っかけてきた変人であり、僕の恋人である間淵家が末女(おとぎ)。恋人、そうきちんと確認したことはなかったけれど、ここまできてただの友達だと思われていた、なんて顛末てんまつはないだろう。それはギャグを通り越して、もはや読者への冒涜ぼうとくだ。ましてや今日の僕の計画は、そこのあいまいなところを明確にするものだといえばそうだけれど、彼女おとぎ彼女こいびとでないと、僕がただの奇人変人、かなり痛い人になってしまう。

「ええ春くん。ご機嫌麗しゅう」

 ご機嫌麗しゅう。まぁそれも挨拶だけれど、僕の脳内にも挨拶カテゴリーに含まれているれけど、僕はそのフレーズを使用する人間を初めて見た。まぁ彼女の場合、お嬢様、ではあるからそれを使うに値するのかもしれないが、始めの会話ぐらいふざけないでほしいと思う僕であった。


「どうやらこれで全員そろったようね。時間は・・・予定より少し早いくらいかしら。まだだいぶ余裕があるわね。でも、向こうでドタバタして疲れるのも嫌だし、早めの出発としましょうか。皆、異存はないかしら?」

 そろそろ出発ごろかな? なんて思っていたとき、そんな声が聞こえてきた。声の主のほうを、いやもう既に正体はわかっているのだけれど、それでも万が一の聞き違いをの可能性を排除すべく、振り向いた。

 皆の指揮をとっているのは、やはり幻だ。まるでそれがそうあるのが当然であるかのような、不自然な感を一切与えないような、そんなリードだった。僕たちを待たせたことなんてなかったかのように、一切悪びれることなく出発を促した。

「いや、いやいやいや。幻、進行の主導権を握ろうとする前に、いろいろ言うことがあるだろう?」

 怒っていないよ。怒っているわけじゃあない。感情的にならないで理性的にいこう。怒るのはあまりうまくない。でも、僕が何か言いたくなる、その気持ちはわかってくれるだろう?



 遅れたこと謝れし!! とか言うキャラって、ほぼ確実にセコいやつだと認識される。もしくはストーリーにおけるリアクション役。あとは、正常ぶって周りの人間の面白さの引き立てる役とか。それは語尾がなんであっても、おそらく変わらないだろう。


 そう、『謝れフレーズ』は百パーセントで発言者のランクを下げる、鉄板ワードなのさ!


 そんなフラグを踏むのは面白くない。僕にそこまでの自虐的趣味はないことだし。

 まぁ、とはいっても悪いものは悪いわけで、だからそれとなく『言うことはないか?』なんていてみたんだけど。悪を良しとするのは、幻のためにもよくないしねっ!

 そんな僕のへっぴり腰主張でも、幻ならきっと気づくだろう。そして謝るだろう。なんだかさっきから謝る謝るばっかり言っている気がするけど、そんな疑いもかき消してくれるような、満点の返答をしてくれるだろう。

 まぁ満点は言い過ぎかもしれないけれど、九十点は取ってくれるだろう。なんて批評家ぶってみる僕。



「言うこと? ・・・。えっと・・・・・・。あら、私としたことが・・・うっかりしていたわ」

 よかった、幻が空気の読める女の子で。これが話の通じないような間抜けだったら、さらに『謝れ』に近いことを言わされて、つまりは地雷の近くまで進まされて、僕がセコいやつにならざるを得なかったところだ。


「言い忘れていたけれど、私、この前の試験は学年一位だったわ」


「えぇ? 幻ちゃんまた一位取っちゃったの? すごいねっ!」

「勉強は得意だもんなぁ。ま、あたしの血族なだけはあるな」


 ・・・。百二十点っ!!

 ダメだ。彼女のほうが一歩も二歩も上手だった。

 こんなときのために隠してあった懐刀『学年一位』、そしてそれに反応する姉二人。完全に計算されつくしている。

 僕の謝罪要求プレッシャーを感じていないことはまずありえないから、それを避けるために、自分が謝らないためのとんちだろう。

 そんなに頭をひらめかせて、そこまでして謝りたくないか? と思ってしまうが、僕の想像を超えるパフォーマンスを見せてくれたということで、今回は百二十点をつけさせていただきました。

 彼女のとんちを採点することで、なんとなく僕のほうが上みたいなオーラをだしておいて、心を落ちつけようとする僕。


「そうだな。そろそろ出発してもいい頃合だろう。だがその前に、幻、約束の時間を守れなかったことを春君に謝りなさい。私たちにはいい。もちろん遅刻自体は許すべき行為ではないが、私たちは家族だから、お前と祭が遅れることは想像に易かった。それを踏まえての行動そしていたのだからそれほど迷惑はかかっていない。だが春君には謝りなさい。たとえどんな理由があったところで、彼の貴重な時間を無駄にしてしまったのだから、そういうところはきちんとしておきなさい。今後のためにもね」

「・・・はい」

 父親の威厳。

 僕のこしゃくな変化球にうまく対応してしてやったりのところに、回避不可の直球が飛んできた。

 なるほど、謝罪要求でも己の品位を落とさない、そんなやり方もあったのか。まぁこんなかっこよすぎる台詞が似合う程度の品を持った人間にしか使えようがないけど・・・。なんだか格の差がはっきりと見せられたたな。


「春くん。待たせてしまってごめんなさい。それと猪口才な攻撃を華麗によけてしまってごめんなさい。・・・許して、くれる?」


 僕の方へ歩み寄ってきて、いすに座っていた僕の元へ、方ひざを立ててがかんで両手を取り、うるっとした目で上目使いにそう聞いてきた。

 ドキンときた。

 かなり芝居がかった動作だが、幻のような美人がこれをやると、正直かなりこたえる。明らかに失礼なフレーズや不自然な振る舞いに目がいかなくなるほどの、彼女の瞳に吸い込まれしまうほどの、そんな魅力を持っていた。

 それを客観的に描写できている時点で、僕の心にもいくらかの余裕はあるのだろうけれど、心臓の鼓動、思考の停止具合、どんなに強がってもいつもどおりとはいえまい。


 二言どころか一言で許してしまいたい、そんな風に思わされたけれど、ここで許してしまえばこれから先、同じような手口で言いくるめられてしまう気がする。ここはちゃんと考えて行動すべきだ。それこそ、今後のためにも。


 僕は取られた手を握り返し、自分が立ちあがるとともに彼女も立たせて、その魅惑的な瞳、目と目を合わせてやっしく微笑むようにして言葉を紡いだ。


「当たり前だろ。僕は君が好きなんだから。たとえ幻を待っている時でも、それが無駄な時間だなんてことはない。僕はそう思っているんだから」

 そういって、軽く彼女を抱き寄せる。


 策には策を技には技を、そういう思惑もあるけれど、僕のこの言葉に嘘偽りはない。それは確かだ。

 僕の言葉の効果はどうか。抱擁をといて。彼女の反応を待つ。


 ・・・。ぷしゅー。


 彼女はまるで音を立てるように、顔が真っ赤に染まった。

 そういえば、今まで彼女が僕に演技がかった振る舞いをしたことはよくあったけれど、僕が彼女にそれをしたのはおそらく初めてだった。幻、不意の出来事に意外と耐性がないのかもしれないな。

 というか、僕も自分の台詞を反芻して、だんだん恥ずかしくなってきたんだけど。恥ずかしっ!!


 そんな甘い(のか?)言葉を返して、その気恥ずかしさも少し落ち着いたところで、僕は今、二人きりじゃないことを思い出させられた。忘れていたほうがどうかしていたと思うかもしれないが、彼女の言葉、それに対する僕の言葉、僕の頭はそれがけに集中していて、それ以外をシャットアウトしてしまっていたようだ。

 僕を現実に引き戻したのは、幻の肩越しにいた、にやけ顔の光さんだ。彼女のにやけ具合が目に入った瞬間、僕は幻にも劣らず真っ赤になった。

「いや~、お熱いことで。すごいもん見せてもらったぜ」

「うわっ、幻ちゃん真っ赤だよ! はるっちにほれちゃったかな?」

「ラブラブですね・・・」

「あらあら、愛は人を盲目にするって言うけど、春君も意外と大胆なのね」

「これなら今後も安心だな。幻を君に頼んでもいいようだ」

 ・・・。とりあえず、いいですか?

 うわぁぁぁぁ!!! 恥っ!! 恥かしっ!!!

 なんてことをやってしまったんだ! 幻の部屋で二人きりならいざ知らず、ここは彼女の家の居間。彼女の父母、ついでに姉が三人。ほぼ全員集合状態でやってしまった!!

 やっぱり慣れないことはしてはいけないということなのか? だとしても、それを悟るための教訓だとしても、これはあんまりだ! あまりにもひどいよ!

 今の僕には、行動の責任ぐらい自分で持つべしとか、そんな戯言を言っている余裕はない。まったくない。

 かなり恥ずかしい目にあってしまった。幻はどうしているかと、再び目を向けてみると、彼女は僕に微笑んでいた。周りなど意に介さず、ギャラリーには目もくれず。

「春くん、ありがとう」

 そして、今度は彼女の方が抱擁をしてきた。

 このタイミングでっ!? この場面でっ!? この状況でっ!?

 回りを気にしないといっても、限度があるだろう。いや本当に!

 僕を抱擁する幻、それを温かい目で見守る幻一家。・・・まるで悪夢だ。

 さっきは気づかなかったけれど、これだけ密着していると、その、なんていうか、やわらかい感触が伝わってきたりしているのだが、僕はこの状況でそれを喜べるほどにたがが外れた人間ではない。気恥ずかしさよりも、気まずさが何倍も勝っている。ああ、何でこんなことに・・・。


「さて、二人の問題も解決したようだし、そろそろ出発しよう」

 改めて、少々のごたごたを終えて、幻パパが出発を促した。やはりこういうのは、一家の大黒柱の役目だろう。先ほどの痛手も、幻が台詞を奪ったことに起因するのか・・・、というか痛手を受けたのは僕だけだけど・・・。

 そういえば、僕たちの目的地はまだ触れていなかったっけ? 触れていなかったな。

 でも、今日は散々ひどい目にあったし、なんだか素直に話す気にはなれないな、なんて意地悪なことを考えてみる。

 よし、今回も恒例のアレで終わらせよう。僕の恥ずかしいシーンをこれでもかってほど見たんだがら、それくらいは我慢してくれるだろう、僕の八つ当たりのために!!


 んん、ゴホン。僕たちのこれから赴く場所、紆余曲折をこえてついに進みだす僕らが向かう先。

 それは   。





「よし、いざ音楽会へ、レッツゴー!!」


 ・・・。祭さん・・・。

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