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命題と恋愛  作者: 高居望
はじまり
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影の登場、命題の理由

「命題だって? 面白いことやってるじゃない。いまどきの彼氏彼女が集まってやることじゃあないけど、それは面白いね。おや失礼、自己紹介がまだだったね、ぼくは間淵影まふちかげりおとぎの兄だよ。もっとも幻には僕のほかに四人の姉がいるから、二人っ子ってわけではないよ。君のことはもう知っているから自己紹介はいいよ、春くん。君は今、幻と付き合っているそうだね。いやいや、勘違いしないでくれ、ぼくは何も反対しようってわけじゃあない。むしろ応援してあげたいぐらいだよ。それにしても命題ね・・・こんな時期から命題に触れているとは、幻は本気で君のことが好きなようだね。君と幻が結ばれるには命題は不可欠だからね。ははっ、といっても今はまだわからないだろう。まぁこういうことは幻に聞いたほうがいいだろうから、ぼくは余計な口出しはやめておこう。こういうことは当人同士でやるのが一番だからね」

 始まり早々に長々と語っていらっしゃるのは本人の言うとおり、幻のお兄さんの影さんだ。

 僕と幻が彼女の部屋で遊んでいたら、急に部屋に入ってきた。

 ちなみに遊びというのはテレビゲーム。幻は実はゲーム漫画アニメのオールラウンダーだったのだ(これは本当に驚いた)。

 僕はあまりゲームをするほうではないので、さっきから幻に助けられている形だった。

 


 ・・・話が脱線してしまったので無理やり元に戻そう。

 この部屋には今、僕と彼女と彼女の兄がいる。ゲームはゲームオーバーの画面になっている。幻は僕のひざの上に座っている。

 ・・・これが修羅場ってやつか。この言い訳のできない状況、ここからどう挽回すればよいのだろうか。

 なんて考えていると影さんが口を開く。どんな叱咤が出てくるのだろう。

「幻、今日はあくまで挨拶にきただけだから落ち着きなさい。ぼくも自分の妹が付き合っている男に興味がないほどに、無関心な兄ではないからね。今日は春君がどんな子なのか見に来ただけだから。それももうすんだことだし、邪魔者は立ち去ることにするよ。ぼくはこれから出かけるから。それじゃあ中睦まじいお二人さん、ごきげんよう」

 そう言うと、影さんは去っていった。

 本当に去っていった。

 ・・・僕たちの格好に一切触れてこなかったな。放置されるのもそれはそれで気まずいのだけど。


 部屋に静寂が訪れる・・・なんてことはなく、幻が僕に座ったまま語りだす。

「ついに影兄さんに見つかってしまったわね。まだ兄弟との遭遇はさけたかったのに・・・。でも見つかってしまったからにはしょうがないわね。いいわ、あなたに隠していた真実を、今ここで打ち明けましょう。まさかこんな序盤で明かされるなんて、思っても見なかったけど。実を言うと、私の家は芸術一家というのかなんと言うのか、とにかく芸術を好いているのよ。まぁここまではちょっと珍しい一家ということぐらいですむのだけれど、問題はここから。家族ルールで、恋人ができたら家族全員からの命題に答えること、というのがあるのよ。お父さんが哲学好きでその影響なんだけど。そして家族全員の命題に答えること、これが結婚の条件でもあるわ。つまりはそういうことよ」

 突然の急展開についていけない僕。

 そんなことにはお構いなしに、幻が再び話を始める。

「勘違いしないでね、何もあなたに暗に結婚しなさいと言っているわけではないのよ。これはもしもそういうことになったら、という時に少しでも力になるようにやっていることなのだから」

 彼女の”勘違いしないでね”には真に残念なことに、ツンデレの要素が完全に欠落していた

 。これは主柱のない家、タイヤのない自転車、主人公のいないドラマ、そういう類のものだった。

 惜しい! 素直にそう思った。いや、本当に。

 そういえば冒頭でお兄さんも”勘違いしないで”って言ってた様な・・・はやっているのだろうか。

 しかしこの場合、そんな瑣末なことはどうでもいい。

 問題なのは命題に隠されていた理由。まさかそんな重大なことが隠されていたとは。

 さっきは混乱してしまった僕だが、実際幻とのことを考えてみると、このまま付き合って結婚まで行きたい、と思っていないことはなかった。むしろ口にこそ出さなかったが、そのことは考えていた。その条件が命題ってわけか。なるほどなるほど。


 命題という、なんだかんだ言ってもやはり不自然なものに答えが与えられて、頭がすっきりした。

 やっぱりなんて言っても変だったもん!

 すっきりしたついでに少し幻をいじってみる僕。

「なるほどね、話は大体分かったよ。つまり君は僕と結婚したいから、こうして毎週命題について語り合っているというわけだね」

「な、何を言っているの、勘違いしないでって言ったでしょう。別にあなたと結婚したいってわけじゃないんだからね!」

 おおっ、ツンデレ度が少し含まれていた。

 ツンデレってたな!

「まあ冗談はさておき、そういうことならもっと命題に励まなくちゃね」

「・・それはどういう意味かしら」

「おいおい、最後まで言わす気かい? 命題の理由を考えてみれば明らかだろう。つまりは、そういうことさ」

 かっこいい台詞で占めてみる僕。

 今日は珍しいことに僕が主導権を握れたな。これはたぶん、影さんのおかげだろう。ありがとう、影さん。

 会話をリードできて少し機嫌のいい僕、僕の言った言葉の意味に気づいて少し頬を染めている幻。

 結婚という途方もなく遠い位置ではあるが、確実に存在するそれを意識して、僕たちはそこに向かって一歩、歩き出した。

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