予想外はつきもの
今現在、僕の前には、ここに来る前には想像だにしなかった光景が流れている。
何なんだ、これは?
どうしてこんなことに?
さまざまな疑問が僕の頭で、浮かんではまだ解決しないままに次に疑問に押しやられていった。
次から次へ湧き出る疑問、そのどれ一つにも答えを見出せない。
彼女は、そんな僕の心情にまるで気づいていなく、今もこちらへさわやかな笑顔を見せてくれる。
きっと、彼女はただ楽しんでいるだけなのだろう。そしてそれは確かに悪いことでもないのだろう。
ただ、僕にはついていけないだけで、僕には慣れていない出来事なだけで、僕とは次元の違う世界の話だというだけで。
誰にも迷惑をかけていないし、もちろん法律やらなにやらの、社会のルールにも引っかからない。
ただひとえに僕の世界の、人間の小ささが、事を大げさに見せているだけなのかもしれない。
それでもやっぱり、目の前の現象は、僕のような人間には、異常としか言いようがない。
僕たちは当初の予定通り、ショッピングモールにたどり着いた。ここまではよかった、予定通りのバッチリだ。 途中にほんのちょっとだけ些細なこともあったりしたけど、それを織り込んでもよくできているほうだと思う。
「ここがショッピングモールが。想像してたよりも大きいんだね。さて、靴屋はどこにあるんだろう」
「あそこに大きな地図があるよ! あそこで調べてみましょう!!」
祭さんの提案通り、入り口付近に設置されている地図を見に行った。
「靴屋は二階にあるんだね。後は食事できるところとかチェックしておこう。祭ちゃんはどこか見たいところある?
「はい! わたしここ行きたいな!!」
彼女の指差した場所を見ると、そこは『服屋通り』と書いてある。名前の通り、さまざまなブランドの店が集まって一つのエリアをつくっているらしい。そのエリアは一階にあり、ここからそれほど遠くない。
「じゃあ行ってみようよ」
「うん! 春くんに服見てもらいたいし!!」
こう言われたら、かわいい女の子に(年上だけど)頼りにされたら、誰だって断らないだろ? それにこちらとしては買い物に付き合ってもらっている身なのだから、それぐらいの寄り道は認めるのが筋ってものだろう。
「うん、構わないよ。女の子の服ってあんまりよく知らないから、役に立てるかはわからないけど」
「春くんが似合うって思った服なら、それが一番の服なんだよ!!」
う~ん、それは違うと思うけど? もしそうだったなら、僕はファッションの仕事に就くべきだろう。
この場合は、祭ちゃんにとって一番の服なのだろうか。一番かどうかは例の”気になる子”の好みで判断するのが普通な気がするけど。一緒に買い物するほどの仲までは進展していないのかな。彼女が誘って断る男なんて存在しないと思うけど・・・まぁそれは彼女の問題だから、僕があれこれ言うことでもないか。
「それじゃあ行こう、服探しの旅に!」
「祭ちゃん、服屋通りはあっちだよ・・・」
ため息をつきながらもこの時はまだ、これから起こることをこれぽっちも予想していなかった。
「まずはここのお店に入ろうよ!!」
まず? ああ、ノットオシャレな僕には信じられないことだけど、オシャレな人は一度の買い物でいくつもの店をはしごするって、聞いたことがるな。彼女はスポーツ少女でかつオシャレガールでもあるから、お店はしごなんて普通のことなんだろう。
「はやくはやくぅ!」
「はいはい、わかってるよ」
店は女性服専門店だけど、中には男性もそこそこいる。彼女と服を見に来ているようだ。
祭ちゃんはどこに行ったのだろうと探していると、彼女はすでに何枚か服を持っている。
「春くーん、こっちこっち! 服持ってくれるとうれしいな!」
彼女のさりげなくもない『服持って催促』をうけて、僕は差し出された服を受け取る。
「えへへ、ありがとね!」
お礼を言いながら、次々と服を選んでいく。選ばれた服にはあまり一貫性がないけど、どの服もそれなりにかわいい。どうやらファッションセンスは確かなようだ。
「すみません、試着したいのですけど、いいですか?」
「はい、試着室はこちらになります」
服も十分に選び終え、店員に試着室へ案内してもらう。
ちなみに僕が現在手にしている服は計十五着。 ちらりと周りを見てみても、どの人も三着から六着程度しか手にしていない。
普段から服をかうオシャレさんたちから見ても十五着というのは異常なのだろう。さっきからたくさんの人からじろじろ見られる。
「こちらでどうぞ。何か御用がありましたらお呼び下さい」
実に丁寧な口調でそう告げる。きっと店を潤してくれるお金持ちだと思っているのだろう。
まぁ、祭ちゃんはお金持ちだけどね。
「それじゃあ試着タイムだねっ! どの服が似合ってるかちゃんと見てね!!」
そう言ってカーテンを閉める。数秒後には中からゴソゴソと音が。
・・・こういうシチュエイションって少し緊張するな。
待つこと二、三分。お待たせ~と言って彼女はカーテンを開く。
「どうかな? 結構かわいいって思ったんだけど」
中からは胸元にレースのついたワンピースを着た女の子が現れた。正直、想像以上にかわらしい。
今日着てきた服とはタイプが違ったから、似合うのかな? なんて思っていたけど、そんな心配は無用だったようだ。
忘れがちだけど、彼女は元からかなりかわいらしい。それに加えて、プロポーションもかなりのものなのだ。
「・・・・」
「ど、どうかな??」
「似合うんじゃないかな?」
「そう? ありがとう!!」
素直にかわいいというのは恥ずかしいので、少し濁してそう答えた。
「それじゃあ、次の服にすぐ着替えるから、待っててねっ!」
ここにいたってもまだ、かわいい女の子がかわいい服を着るのを見るだけなら、むしろこっちがうれしいぐらいだな~、なんて考えていた。
一時間後。
「これとこれも下さい!」
依然として買い物をしている。彼女は次々と服を買っている。
僕は少し疲れてきたけど、女の子の買い物はこんなものなんだろう、と我慢していた。
二時間後。
ここが冒頭のシーン。シーンというか、僕の思考だけど。
ちなみに現在状況は、五軒目の店で服を買い終わったところだ。
彼女はすでに十着以上の服を買っている。どうやら本当に気に入った服しか買わないようだ。
「もう結構買っちゃったなぁ。にもつもいっぱいになっちゃったね」
「もうそろそろいいんじゃない」
本当にもう終わりにして欲しい。そう願いながら提案してみた。
「そうかなぁ? もうちょっと買ってもいい気もするけど」
まずい、これ以上は僕のヒットポイントが持たない。どうにかしないと・・・
「祭ちゃん」
「ん? なに?」
「服を買う、自分を着飾るものを買う。それは確かにいいことだ。服は人の外見を着飾ってるだけだっていう人もいるかもしれないけど、それは違う、服はそれを選んだ人の内面も表しているんだ。つまり服とは、その人の外見と内面をあらわしてしまう、だからそれに気を使うことはいいことだ。だけど、今祭ちゃんに本当に必要なのはそれじゃない。そうだろう?」
「いま必要なもの? それって、なにかな?」
「それは、昼食だ!!」
「え? ご飯??」
「そう、服はあくまで自分を飾るもの。つまり、服を着る人、祭ちゃん自身が万全の状態じゃないとその効果も十分に発揮できない。いま、お腹がすいているだろう?」
「あ、確かにすいてる。服選びに夢中になってたからぜんぜん気づいてなかったよ!!」
「ということは、次はどこに行けばいいのかな?」
「ご飯だねっ!!」
やった。何とかご飯に誘導できた。
これ以上の疲労は僕を爆発へ導くかもしれなかったから(嘘)、本当によかった。
「じゃあご飯にしようか! でもちょっとだけ待ってね、荷物取りに来てもらっちゃうから」
荷物?
そういえば僕は今、かなりとまでは言わなくても、そこそこの量の荷物を持っている。
でも、取りに来てもらうって、どういうことだろう?
彼女は携帯電話を取り出して、電話をかけた。
「あ、もしもし。荷物を取りに来てもらえますか? あ、はい、今いる所は・・・」
電話相手に現在位置を伝え電話を切った。
「三分で来るって! ちょっとトイレに行ってきていいかな?」
「あ、うん」
トイレに行ってしまった。ということは、僕が荷物を渡せばいいのだろうか?
誰が来るのかわからないから緊張するな・・・
三分後。彼女はまだトイレから戻ってきていない。
そして、僕の前に一人のメイドが立っている。
「お久しぶりです、春様。祭様のお荷物は私が家に運んでおきます」
「あ、はぁ・・」
突然のメイドに対応できるほどに僕のレベルは高くない。しどろもどろな返事をして、なんとかこの場をやり過ごす。
「それでは、お嬢様とのデート、お楽しみください」
きれいなお辞儀をして、彼女は去っていく。
ほかの人からデートとかいわれると、少し恥ずかしいな・・・
「お待たせ! メイドさんに荷物渡してくれてありがとう」
メイドさんが去ってから、メイドの語源を考えているうちに彼女が戻ってきた。
語源はわからなかったけど、たぶん外国語だろう。そうあいまいな結論に落ち着いておこう。
帰ったら調べようと思うけど、おそらく忘れてしまっているだろう。
「それじゃあ、待ちに待ったご飯にレッツゴー!!」
待ちに待ったのは僕だけどね。まぁ無駄口はたたかないでおこう。
これじゃあ靴屋までたどりつけるかなぁ、なんて思ったりもするけど、とりあえず昼食だ。
これからの憂いよりも今食べることを優先して、レストランへ向かう。
しょうがないよ、だって人じゃん?




