9 (四題命題その四)
四題小説も残すところあと一つ。最後の話し手は祭さん。
白さん同様、祭さんの命題を聞くのも今日が初めてだ。単なる序列で言えば、祭さんは幻や白さんよりも上。
でもその理屈でいくと光さんが一位ってことになるけど・・・ それはどうなんだろう?
「ついに私の出番ですっ! 出番なのです!! わたしはね、三人の命題を聞いて、早く自分もやりたいなっ! 話を聞いてほしいなっ! って、ずっと楽しみにしていたのですっ!!」
始まり早々、いや、まだ始まってもないけど・・・とにかくのっけからノリノリの祭さん。
普通なら、そんなに興奮したら途中で疲れちゃうよ、とか言いたくなるけど、相手は祭さん。
彼女には、日ごろの運動で培ってきた無尽蔵のスタミナがあるので、そんな心配は無駄なのだ! えっへん!
まぁ、僕が威張れることでもないけど。
「えっとね、わたしの考察した命題はね、『カリスマとは何か』だよ!」
・・・カリスマとは何かだって? そんなもの、十分の思考時間で自分の意見を言えるほどにまとめられるのだろうか?
少なくとも僕には不可能だ。たとえその猶予が二十分に延びたところで、その確信は覆らないだろう。
できない確信というのも、情けない話だけど・・・
それでも、それとも、彼女ならそれができるというのだろうか? 祭さんには可能だというのだろうか?
そうなら、そうだとしたら、彼女は飛び抜けすぎている。
僕はともかく幻や白さんのいるステージとは、一線を画している。
僕は彼女の言葉を待つ。
期待と恐れを持って。
「カリスマっていうのはさ、一言で簡単に言っちゃえばさ、人を引き付けるポイント、つまりは魅力だよね! だから、『カリスマとは何か』を『魅力とは何か』に変えて考えてみよー! オー!!」
カリスマと魅力。確かにそれらは、同類というか、入れ替えても意味が伝わるほどにはリンクしている。
命題を自分の考えやすい物に変える、取っ掛かりが見えなければ自分が移動する。
時間が少ないからといって焦らず、闇雲に取り組むのではなく、全体を見通して、どのように進めば近道になるかを考える。
命題の変形、位置の変換、それは確かに効率的である。
でも、わずか時間しか与えられていないのに、そんなことを考える余裕があろうか? そんなに正しくいられようか?
刻一刻と迫ってくるタイムアップにひるんで、我先にと近くにある取り掛かりに走っていってしまわないと、言えるだろうか?
それは、そんなことは、命題に慣れすぎるほどになれていなければ無理だ。
幾度となく考え抜いた人間でないと不可能だ。
凡人には不可能だ。
つまり、彼女は、一線の向こう側、熟練者の一員なのだ。
最も大トリに相応しい人だったのだ。
「魅力とは何なんだろうって考えるには、まずは自分がどんな人に魅力を感じるのかを考えることから始めてみよっか! これが第一歩だねっ!」
これまでのことは一歩にも含まれない、彼女にとってはスタート前の深呼吸、単なる前準備と同じレベルの話だったのか。
ますます凄さが際立ってくる。
「わたしが魅力を感じる人はね、そうだなぁ。頭がよくていてそれを鼻にかけない、そんな人かな! お勉強ができてもそれは数ある個性のひとつ、そういえる人に憧れちゃうかも。白ちゃんはどんな人に魅力を感じるかな?」
ほかの人に話を振ることはもちろんルール違反じゃない。むしろ、自分以外の人の意見を取り入れるという、命題を考えるにおいては有効な手段だろう。
問題は、自分の意見の発表に集中している一方で、それをやってみせるほどの余裕があるかどうか。
ちなみに、祭さん以外のメンバーはそれをやらなかった。できなかったのかはわからないけど、やらなかった。
さらに言えば、僕はできなかった。
「えっと・・・自分に自信を持っていて、それでいて人の話も聞いてくれる人、です」
「うんうん、続いて幻ちゃんとはるっちもお願い!」
「私は、そうですね、ゆるぎない自分を持っている人には惹かれるかもしれません」
「僕は、どうだろう・・・。文武両道な人というか、オールラウンダーに魅力を感じます」
四人それぞれの、魅力を感じる人について聞いてみると、結構バラバラっていうのが正直な感想だな。
何に魅力を感じるかってのは、人によってこんなに違うものなのか。
「皆答えてくれてありがとね! これでわかったと思うけど、どんな人に魅力を感じるのかってのはあんまり一貫性がないよね。強いて言えば、すごいっ!! ってことくらいかな。どうしてそうなるのかっていうとそれは、人は、自分の理想を体現している人に憧れるからだって思うのです!」
自分の目標を達成している人がいたら、その人のことをすごいと思い、魅力を感じて、憧れる。
それがカリスマ。
「でも理想ってのは、叶わないからこそ、現実になりえないからこそ理想であるわけです! それに、皆が憧れるには、皆の理想を満たしていないといけないってことになっちゃう。これは、ちょっと無理だよね?」
不可能と想定されているものを達成する。それもひとつだけでなくいくつも。
それは、マンガの世界、空想の話だろう。現実にはありえない。
「それでも実際に、カリスマを持っている! このひとはすごいっ!! って言われている人は存在するよね。それはどうして?」
確かに、よくテレビとかでカリスマって紹介されている人がいるけど、その人たち全員が達成不可能な理想の体現をやって見せたとは思えない。
「それはね、そういう人たちには魅せる力があるからだよ」
魅せる力、それはどういうものなんだろう。
「もちろん、努力による実力がないとただの大口のペテンシになっちゃう。だからそういうのはあるんだろうけど、それはあくまで必要条件。それだけじゃ足りない、不足です! それで、そこに足されるべきものは、自分を理想だと思わせる力だと思うんだ!」
自分を理想だと思わせる力、正直まだよくわからない。
「それは平たく言っちゃえば、演技力とでも言うのかな。人にそうと思わせるように振舞うこと。聞こえは悪いけど、これはぜんぜん悪いことじゃないし、すごすぎるぐらいすごいことだよね!!」
演技とか言われると何か”嘘”のようなイメージをもつけど、それは違うってことなのか。
「それをやるには、何よりも自信が必要! 自らをを信じる自信が、自らの力を信じる自信が、自分がカリスマを持っているという自信が」
「カリスマとはそれを演じる自信。能力を持っている上で、それを演じるための、不敵すぎるぐらい素敵な自信が必要。・・・えっと、こんな感じでどうかな?」
正直、まだ整理できていない。彼女が言った事を理解しきれていない自分がいる。
今僕が感じているのは、彼女のカリスマ性。人を引き込む力。
これも、彼女の自信によるものなのだろうか。自信があるからこそ、引き付けることができる。
「みんな、そんな難しい顔しないでっ! わかり難かったかな? 今日はもう終わりにしようよ。こういうことは夜布団に入ってから、ゆっくりと時間をかけて考えればいいんだからさっ!!」
今この場でこれ以上考えても、ますますわからなくなるだけな気もする。祭さんの言うとおり、リラックスした状態で少しずつ考えることにしよう。
「それにしても疲れちゃったね! 一日に四題もの命題について考えるなんて、ピクニックでもなきゃやってられないよ! 何かお菓子食べたいな、白ちゃん、チョコレートとかって持ってきてるよね? 疲れた頭にはチョコレートが一番! 二番はかりんとうかな?」
あれだけ語り倒してもまだそんなにしゃべる元気があるのか。
これぞカリスマ!!
それからは普通のピクニックの様に、お菓子を食べたり、他愛もない会話をしたりで夕方までくつろいだ。
「そろそろ帰る時間ね。日が暮れてからの坂道は危ないから、そろそろ帰りましょう」
あと一時間もしたら日が沈んでしまいそうな赤い空を見て、幻はそう言った。
「そ、そうですね。ではそろそろ片付けましょうか」
「そうだね、帰りは下り道だからそんなに疲れはしないけど、暗くなってからは危ないからねっ!!」
「それじゃあ、帰りますか」
四題命題、白さんの思考、祭さんの手法、今日はたくさんのことを学んだ。
『本音と建前』、『それぞれの常識の違い』、『自由とは何か』、そして『カリスマとは何か』。これらの命題からもたくさんのことを学んだ。
でも、一番の収穫は、僕がまだまだアマチュアなんんだと思い知ったこと。まだまだ、彼女たちのステージまでたどりつけてない。
そんな苦い自覚を胸に抱き、カリスマを持つ彼女たちとともに、いつもの町へ、日常へ帰っていく。
これで四題命題は終わりです。
次回からは、またストーリー編を少し多めで投稿したいと思います。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。