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命題と恋愛  作者: 高居望
好きなのは?
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7 (四題命題その二)

 四題命題、二番手は僕だ。

「僕のところに来た命題は『それぞれの常識の違い』。常識の違いか・・・」

 頭の中で整理した内容を再確認。大丈夫、バッチリだ。

「そもそも常識とは何か? これは物事を判断するときのものさし。一人一人が持っている自己判断のふるい。そう考えてくれればいい。まず最初に言いたいことは、常識とは天から降ってきたものじゃあない」

 さっきのおとぎのように、結論から言ってみる。

 自分で言ってみるとわかるけど、この方法は、この手法は緊張する。自分の考えに自信がないなら絶対に使ってはいけない業だ。みなの注目を集められるけど、その分失敗は許されない。

 こんな方法をそれとなく使うなんて、さすがは幻だな!

 念のため三人の反応を見る。出だしはまずまずってところか。

 ここからの肉付けで良し悪しが決まる。

「常識、個人の倫理観っていうのは、その人が生まれてから教わったこと、経験したこと、その他諸々の後天的なものから成り立っている。親のしつけ、子供のときに読んだ本、最近見た映画、友達との会話、他にもいろいろなものが組み合わさって、それができている。それは神様から授けられてものなんかじゃない。生まれたと同時にもらった出生お祝いの品でもない。自分で、自分自身が生まれてからこれまでにやってきた努力の積み重ね、成功と失敗の盛り合わせ、それが今自分の持っている常識の糧となっているんだ」

 先天的でなく後天的。

 才能でなく努力。

 個人の常識はそうやって、時間をかけて積み上げられたものだ。

「そして、それは今、このときも変化している。一箇所にじっとしているんじゃなくて、あちらこちらへと絶えず動いている。三年前の自分と今の自分じゃ、手持ちも常識はまるっきり違う。昨日の僕と今日の僕ですら小さくても、間違えなく変化している。それが進化なのか退化なのか、はたまた横っ飛びなのかはわからないけど、確実に変わっている。そう、常識とは天からのギフトでないだけでなく、がしっとした固体でもないんだ。先天的なものであり、流動的なものであるんだ」

 完成なんてない。明日も明後日も、十年後も二十年後も、生きている限り自分の常識は、個人の価値観は変わり続けるのだ。

 常に動き続けるっていうと、魚の、あれ、何だっけ? ・・・そうそう、カツオだっけ。なんかそれみたいだね! 

 停滞は死! って感じ?

 ・・・うんちくすらまともに言えない自分って・・・

 事前の準備なしだとこういうところでぼろが出るな。まぁ、地の文だからいいか。・・いいのか?

 あ、僕が黙り込んでいる間に、皆がこっちを向いている。次の言葉への期待が高まっている!

 言葉と言葉の間の空白って、話してる側からはこんな風に感じるのか。だとしたら、さっきの幻の『お茶を飲む』とか、もう別次元の話だな。

 異世界の住人! いや、ただ言って見たかっただけで何のフラグでもないけど。

 皆の期待につぶされる前にそろそろ話を再開しよう。

「だから、だからこそ違いが生じる。ひとつひとつがお手製で、材料も加工方法も違って、その上ずっと動き続けるものだからこそ、違いが生まれる」

 たまたま発言者の主張みたいなところでよかった~。あれだけもったいぶって(そんなつもりはなかったけど、そう取られただろう)、もしさっきの言葉がどうでもいい所の話だったら、それこそカツオの件とかだったら、確実に終ってたな・・・

 とりあえず僕にはまだ、味な演出は使えないってことだ、同じ失敗を繰り返さないように、もう本題に戻ろう。

「家族兄弟ですら異なる倫理観を持っているのだから、学校の友達とか、会社の同僚とかならなおさらだろう。生まれも違えば暮らしも違う、そんな人同士が同じ常識を持っていろって方が無理な話だ。そうだろう?」

 一人っ子で学生の僕が、兄弟や同僚とか言ってみた。でも、あくまで想像だけれど、それは間違っていないだろう。

「さすがに、命は大事とか、人を殺してはいけない、みたいな大きな常識はどこでも教わるだろうから、誰の中にもあるだろう。でも、卵にはケチャップ! とか、ツンキャラは最後にはデレなければいけない! とかの常識は、その人の育ち次第、読んでいる本の傾向次第で、誰もが共有しているものじゃない。そういうところで違いが生まれている。国の風習が違えば、前に言った二つも決して共通の常識ではないしね」

 女の子にツンデレの話とかしてしまったけど、この一家はわりと幅広い『常識』を持ち合わせているので、特に変な顔はされなかった。この常識は共有していたようだ!

「だから、常識の違いは必ず生じるものなんだ。それで、問題はそのこと、『常識が異なるなんて常識』という常識を皆が共有しているわけじゃないってことだ」

 なんだかまどろっこしい言い方になってしまったけど、ここまで読み続けてくれている読者(いるのか? いると思おう!)なら理解してくっるだろう。一応語り部の義務としてやっておくけど、わかりやすく言えば、違いを認識していない人もいるということだ。わかり易かったかな?

「常識の違いを認めなければ衝突や誤解が生まれる、相手に自分の常識を押し付ければ、争いが生まれる。進行の違いから起きた戦争なんて、歴史を紐解けば例を挙げるに事欠かないだろう」

 世界史でそういう類のものを習った気がするけど、名前は思い出せない。

 受験生の僕、ピンチ! 冗談じゃなくて本当に!!

「だから、違いを認めること、常識の差異も常識の内っていえるようになること。これが大事だね。以上で僕の発表を終わりにします!」

 ふう、語りきった、今日は今までで一番語ったな。

「常識の違い、これって言われてみればそっか~って納得できるけど、自分から、そうだ!っていう風には思いつけないよね! コロンブスの卵的見たいな感じ?」

 言われてみれば当たり前、でもそれを思いつくこととは話が別。いい比喩を使うな、ナイスチョイス、まつりさん!

「お疲れ様でした。お飲み物はいかかですきゃ? ・・・いかがですか?」

 相変わらずの語尾かみ。これは彼女にとっての常識なのだろうか? 恥ずかしがってるし違うか・・

「ありがとうございます。じゃあ水をいただけますか?」

「えっ? あの・・すみません、お茶しか持ってきてません・・ 嫌ならコンビニまでいってきますが」

「すみません間違えました。僕は今お茶が飲みたかったんだ! キャンプにはお茶! それがじょうしきですよねっ!!」

 あわてて訂正する僕。

 コンビニって・・とりあえずここからのは見当たらないけど。何キロ先にあるんだろう?

 キャンプではお茶が彼女たちの常識なんだろう。僕は水派だけど。

 まぁ、違いを認めるってことが大事だってさっき言ったばかりだし、僕もそれに従おう。お茶も嫌いってわけじゃないし。なんか自家製っぽいから間違えなくおいしいし。

「春君、面白い意見だったわ。私も違いを認める寛容な心をもう持っているわ」

 もう持っている!? この話を聞いてとかじゃなくて!?

 僕の話をほめてるふりして、最後は自分褒めに落ち着くのかよ・・・

 相変わらずの幻に少し笑ってしまう。

「それじゃあ次はお待ちかね、私の妹にして幻ちゃんのお姉さん、春君にとっては専用コックのしろちゃんの番です。用意はいいですか? アーユーレディー? ヤー!!」

 自分で答えちゃうのかよ! あと、専用コックじゃない!

 一度に二つもボケを出されたので、普通なツッコミになってしまった。ゴメン!

 それにしても、またハードルあげるのか・・・ 自分の番にはどうするんだろう。

 自分にも厳しく、のスタンスでいくのだろうか、それとも・・・ まぁそのときは僕が代行しよう。

 あれ、地味に緊張が高まるし。というかこれに白さんが、僕の知る限りダントツ一番の恥ずかしがりやさんが絶えられるのだろうか。

 そっと、隣を見てみると・・・ 固まっていた。緊張を通り越して固まっていた。

 なんてことを! 姉妹なんだからこうなることぐらいわかっていたろうに。

 すると、幻が白さんの耳に何かを吹き込む。

 数秒後、白さんは一度目をつぶった。そして、目を開けたとき、彼女の緊張は完全におさまっていた。

 ・・・何をしたんだろう? 僕は隣に戻ってきた幻に聞いてみる。

「あぁ、ちょっと役者のスイッチを入れてきたのよ」

 なるほど・・これは僕も今日知ったことだが、彼女は意外というか、想定外というか、演技派なのだ。

 恥ずかしがりやを克服するために手に入れたスキルだそうだ。

 ものすごい荒療治だとおもったけど。

「わかりました。次は私、間淵家が四女、間淵白の意見をお聞きください」

 ・・何役なのだろう。高貴なお嬢様って感じだけど。

 でもそんなことより、白さんの命題の話を聞くのは初めてだ。どれほどのものなのかとても気になる。

「それではしばらくの間、お付き合いください」

 彼女の担当する命題は、僕の出題か? それとも・・・

 まだ続きますよ~

 あと二題!!

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