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命題と恋愛  作者: 高居望
好きなのは?
12/36

メインテーマ

「ご馳走様でした!」

「いえいえ、お粗末さまでした」

 昼食終了。

 全員自分の分を残さずに食べきった。これは当然の結果だろう、ましろさんの料理を残す輩がいたとしたら、そいつには味覚がないとしか考えられないな!

「ふう、満腹満腹大満足だねっ! ご飯も食べたし、体力も回復したよね? そろそろ遊ぼうよ!」

 そう言って、まつりさんは荷物の中からフリスビーを二つ出した。

 ・・・。こんなものまで持ってきていたのか。通りで重いわけだ。

「二つ持ってきたから、二人一組になってキャッチフリスビーやろうよ!」

「楽しそうね。でも、フリスビーなんて家にあったかしら?」

「フリスビーは買ってきたんだよ! それじゃあチーム決めよっか。わたしとおとぎちゃん、はるっちと白ちゃんでいいよね!」

 おそらく到着順だろう。文句を言うべきところではないので、皆がうなずく。

 僕は白さんとか。彼女がどの程度運動できるのかわからないから、とりあえず軽くやってみよう。

「よ、よろしく、お願いします」

「よろしくお願いします」

「そうだ、言い忘れていたけど、このゲームには特別ルールがあります!」

 特別ルール? まあ確かに、ただフリスビーを投げ合うってのも味気ないし、そういうものがあった方が盛り上がるかもしれない。こんなところにまで粋な細工をしてくるとは、さすがは祭さん。

「なんと、なんとなんと! フリスビーをとれなかった方は、相手に犬、メイド、妹のどれかになって次にどちらかが失敗するまでなりきること! それと、はるっちは男の子だから、お兄ちゃん、執事、カエルのどれかね!」

 祭さんを除く全員がずっこけた。な、何だって!? 

「異論はわたしが認めません! じゃあ開始!!」

 年長者の強制開始しやがった。年功序列制、こんなところにも潜んでいたのか・・・

 幻と白さんは、ルールの撤回をあきらめているようだ。

 きっと家族間では日常茶飯事な無茶振りなのだろう。ならば僕も二人に倣って従うとしよう。

 混乱のあまり、カエルという突っ込み待ちをスルーしてしまった。でも、これくらいのミスは許してほしい。


「じゃあ、とりあえずゆっくり投げるんで。まずは腕慣らしからにしましょう」

「は、はい。どうぞ」

 一投目、僕がなぜる番だ。まさか始めから失敗するわけには行かない、最初なのだから確実に取れるように投げよう。

 僕はできるだけ力を抜いて、万が一にも取れないなんてことがないように、ゆっくりと、相手が一歩も動かなくていいように、そんな気持ちをこめて投げた。

 フリスビーのほうも空気を読んだらしく、僕の狙い通り、顔の前に手を出せばそれだけで取れるような軌道を描いて白さんに向かっていった。

そして・・・万が一がおきた。

「いたっ!」

 理想の軌道で進んでいったそれは、そのまま、彼女の顔面に激突した。

「あ」

 やはりというか、セオリー通りというか、彼女は運動音痴だった。

「だ、大丈夫ですか?」

「へ、平気です」

 鼻に当たったのだろう、彼女は涙ぐんで、それでも僕を心配させないように、微笑んでそう言った。

 ・・・今僕に、半端じゃない罪悪感がのしかかっている。

「白ちゃんアウト!! 罰ゲームを忘れちゃだめだよ~」

 このミスをもみ消してしまおうかと思ったけれど、それは祭さんによって阻まれた。

 退路を断たれた白さん。そして、彼女が口を動かす!!

「申し訳ございません、ご主人しゃま」

 メイドとか語尾かみの混合技! 言葉だけで吹っ飛ばされそうになった。 

 彼女は真っ赤になりながらも、実によどみなくそう言った。

 ・・・きっと普段から罰ゲームと称して、間淵家で愛でられているのだろう。

「そ、それでは、今度はこちらから投げますね」

 ひゅっ。

 キャッチはあんなに残念な感じだったのに、投げるのはそれなりだった。

 ・・・この勝負、もう展開が見えたな。


 三十分後。僕たちは再びシートに座っている。

 ゲームのその後の展開を、ざっくりと説明しておこう。

 ゲームの終盤は彼女も多少取れるようになっていたが、僕は終始ノーミスだったので、罰ゲームは彼女のみが受けていた。

 それに、彼女も最初こそ恥ずかしがっていたものの、途中からは彼女の演劇スイッチがはいったらしく、ドキッとするワードがいくつも飛び出してきた(彼女は実は、料理だけでなく、演劇もできるのだ!)。

 すべてを紹介して、彼女の魅力を知ってもらいたいところだが、そんなことをすれば万単位の文字をお読みいただくことになる。それは、こちらとしても避けたいので、一部抜粋というところに落ち着かせてもらおう。

「お兄ちゃん、とってとって!」

「こっちに投げてほしいワン」

「あ! 申し訳ございません」

「べつに、とってくれてもうれしくないんだからね!」

「きゃう~ん」

 以下略。

 そして、僕の心を幸せにしてくれた白さんはゲーム終了後、スイッチが切れて急に恥ずかしさを取り戻して、どこかへ走り去ってしまった。


「春君、あなたがルールにかこつけて白姉さんをあんなにいじめるなんて・・・正直引いているわ」

「はるっちひどかったよ! 悪魔だったねっ!!」

 僕は現在、二人からお叱りを受けている。どうにも納得できないけど。

 だってさ、そんなのってないよな!

 しかしそれを口にすることはできないので、謹んで説教を受けていた。


 それからさらに五分たって、白さんがもどってきた。目が少し赤くなっている。

「大丈夫だった? お姉ちゃんがちゃんと言っておいたからね!」

 いや、本を正せばあなたのせいなんですけど・・・

「大丈夫、それにゲームだったんだから。春さん、勝手に走っていってごめんなさい。いやな気分になったでしょう?」

「い、いえ。そんなことありませんよ。こちらこそ、何かすみませんでした」

「うんうん、悪いと思ったら素直に謝る。それが大事だねっ!」

 完全に天然百パーセントの祭さん。でも、この場にいる中で一番ひどいのは、祭さんと一緒にさんざん僕を叱った、幻だろう。策士幻! なんか強そうだな。

 とにもかくにも、こうして僕への言われなきいじめも終わった。それはよかった。本当に。

「さて、一件落着したところで、今日のメインイベントに移りましょうか」

 幻が促す。

 メインテーマ。

 今日の本題。

 ここまで自転車で来たことや、自然の中での昼食、それに先ほどのフリスビーは、言うならば序章。メインは別にあるのだ。

「そうだね、そろそろ始めよっか! わたしもちゃんと考えてきたよ!」

「私も、大丈夫です」

 皆準備はしてきたようだ。当然だが、僕もそれを怠っていない。

「それでは、はじめましょうか。四題命題」

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