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制服と会獣と私  作者: 水瀬 理音


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第5話 段ボール三島

 三島さんは、営業三課の残業モンスターだ。

 私が入社したときにはすでにいて、いつ見てもパソコンに向かって何かを打っていた。

 出社すると、いる。帰ろうとしても、まだいる。

 だから「三島さんが会社にいないのを見たことがない」が、私の中での通説だった。

 ロッカーの上段には、なぜか私物がギュウギュウに詰まっている。

 予備のワイシャツに、黒い靴下。冬場は毛布。

 それに、マイお箸と、マイお椀と、マイふりかけ。

 もはや「会社に置いてある」ではなく、「住んでいる」に近い。

 一度、「お昼はどこで食べてるんですか」と聞いたら、

「ここが一番落ち着くんだよね〜」と、空の会議室でカップ味噌汁をすする姿を見せてくれた。

 その姿がなんだか、悟りを開いた仙人のようだった。

 そして伝説の夜は、ある日の早朝にやってきた。

 朝七時半。始業一時間前に出社すると、給湯室で人だかりができていた。

 誰かが「マジでやってたよ」「ほんとに寝てたんだよ」と騒いでいる。

 覗いてみると、会議室の隅にある備品棚の前、

 折りたたまれた段ボールの上で、毛布にくるまって三島さんが寝ていた。

 綺麗に角を揃えられた段ボール。

 薄手のクッション材。

 隣にはペットボトルとタオルが置かれている。

 完璧なホームレスセットだった。

 起こしてしまったらしい。三島さんは、ゆっくりと上半身を起こした。

「……あれ、もう朝か。おつかれ〜」

 と、いつもの声で私たちに手を振った。

 誰も突っ込めなかった。

 誰も笑えなかった。

 ただ、

「すげぇ……」

 という声が、ぽつりぽつりと漏れただけだった。

 その後、総務から「会社に泊まるのは非常時以外やめてください」という通達が出た。

 でもその張り紙を見るたびに、私は段ボールベッドを思い出す。

 三島さんは今日も、誰よりも遅くまで会社にいる。

 もう段ボールは使っていないけれど、毛布とお椀は、今もロッカーの中にあるらしい。


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