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異世界クラウドファンディング 〜研究室の殺人事件から、舞台はドバイ、そして異世界へ〜  作者: 稲盛 皆藤


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4/7

ドバイ案件

 石黒は目覚めた。起きた。

 遮光性の黒のカーテンを閉めていたので朝なのか夜なのかは分からなかったが部屋の電気は

付いたままだった。

 机に突っ伏して寝ていたようだった。

 まだ書き物の途中だったが、なんかそれももうどうでも良くなっていた。

 何もかもがどうでも良くなっていたのだろう。もうやれることは一つしか残っていなかった。

 実験用の備品として以前ホームセンターで買ってきたロープを手にした。


 いよいよこれからそれを実行しようとしたときに、突然何かの音が鳴り響いた。

 ノートパソコンから何かのアラートが入った。

 石黒は無意識に条件反射で咄嗟にパソコンの前に戻った。

 クラウドファンディングの入金か何かのアラート音だと思った。

 しかしそれは残念ながら入金のお知らせでは無かった。


 それはメールの着信音だった。タイトルも中身も英語で書かれていた。

「あー、また詐欺か。」

と石黒は思わずため息交じりに独り言を言った。

 最近この手のメールが忘れた頃にやってくるので不用意に中身を見ないようにしていた。

 しかもメールのタイトルが「Hi, Ken!で始まっていたので余計に怪しかった。

 確かに自分の名前は石黒賢治だったので海外の研究者とやり取りした際は決まってケンと

呼ばれていたのでそれは間違ってはいなかった。


 最後に為すべきそれを実行するはずだったのだが、石黒は研究者の性分からか、

その英文メールの真偽が気になってしまって懐疑的になりながらも結局のところは、

気が付くと躊躇なくそれに目を通していた。

 石黒はしばらく理解が追いつかなかった。

 詐欺メールなのかとも思った。

 そんな上手い話などとても信じられる精神状態では無かったはずだった。


 それは、ドバイのとある研究所からのメールということだった。

 内容はざっくりスカウトのお誘いであった。

 どこで調べたのだろうか、石黒の辞めた大学名や故大西教授のことなどが書かれていた。

 もうそこからは詐欺メールと疑うことなく素直に読み進める自分が居た。


 もっと読み進めると、そこには石黒が願っても止まないことがつらつらと文字になっていた。

 その内容とは、

<プラズマ発生装置の自由な使用>と

<給与毎月月3万ドル>と

<研究費年間100万ドル>と、しかも

<着手金10万ドルを先払い>するから、銀行口座を教えろとの内容がしれっと書かれていた。


「あまりに話がうますぎる。やはりこれは100パーセント詐欺ではないか」

と石黒は思った。

「まあ、どうせ死ぬのだから、詐欺でも乗ってやろうじゃないか、最後に笑わせてくれたな。」

とも思ったりで、

「まあどうでも良いか」

と思いつつ、

「ダメもとだ、糞食らえ」

と思いながらも、

 本文も挨拶文も書かずに本当に自分の銀行名と口座番号だけメールの返信をしてやった。

「どうせ詐欺なんだろ、これでも食らえ」

と言いながら右指の音が聞こえるんじゃないかと思われるほどの勢いでマウスを操作して、

メールの送信ボタンを押した。

「本当、糞食らえだぜ」

と思ったし、もう思い残すことも無くなったので、また振り出しに戻って、

先程の最後にやるべきことをやるべく、再びロープを手に取った。


 ほんの数分だろうか、また再びパソコンから通知の電子音が鳴り響いた、まさかと思ったが、

タメ息をつきつつロープを床に落として、パソコンの前に戻った。

「まだ死なせてもらえないのか」

と部屋には他の誰も居なかったのだが、大きな独り言を口に出しながら、パソコンを覗くと、

なんとそれは銀行アプリから入金のお知らせだった。


<14,696,000円>が振り込まれていた。


見たこともない数字だった。

「わー、わー、わー」

と石黒は狂ったように室内を駆け回りながら手足をバタバタさせながら、叫び声を上げた。

 決して事切れた訳ではなかった。

 人間って全く予想外のことが起こると無意識で飛び上がるらしい。

 石黒はしばらくして我に返ることができた。


 石黒の顔は高揚して真っ赤になった。

 血が巡っているのが自分でも生まれて初めて分かる位に手足や顔が熱くなった。

 自分が震えているのが分かった。

 しかし頭は冴えていたので、自分に為すべきことが更新されたことがしっかりと

理解できるようになった。

 早速、入金のお礼と、先ほどの口座番号だけをメールした非礼を正直に謝罪した。

 もちろん詐欺かと思ったことも言い訳として書いた。

 すると、先方は全く動じた様子も無くて、そんなことはぜんぜん気にして無いようで、

むしろ折り返しのメールが早かったことに感謝されたのだった。

 今後の打ち合わせはZOOMで行いたいと書かれていたので、早速ZOOMを繋いだ。

 もちろんここからのやりとりは全部英語だった。

 先述の申し出は全て本当だった。

 さらによく聞くと公的な研究機関ではなくて、個人の研究所で地図にも載ってない、

悪い言い方をすればオイルマネーで掃いて捨てる程のお金を持っていた金持ちの道楽の

ようであった。

 他にはUMAや心霊現象など、いわゆるオカルトに興味があって、有名な研究者を個人で

自分のラボに引き抜いて研究させている施設とのことであった。

 場所は大まかには、ドバイのアル・マルカズィというところで、自然保護区に隣接した

砂漠地帯に大きな個人所有の土地があってそこを研究施設として所有しているとのことであった。


 石黒がYESの返事をしてから数日で、成田発ドバイ行きのファーストクラスの飛行機が最短で

準備されて、フライトは11時間程もあるはずなのに、快適な空の旅はあっと言う間に過ぎ去って

しまって、無事現地に到着することができた。

 到着後はいわゆるスウィートルームなのか、こちらではこれで普通のサイズなのか分から

なかったが、石黒が学会に出席するときに泊まっていたビジネスホテルの少なくとも20倍は

広さがあって、高級そうな調度品が煌びやかに備わっていたホテルの部屋が準備されていた。

 しかも呼んでもないのに、日本人のコンパニオンらしき顔立ちの整った女優さんなのかと

思う程の女性たち3名がメイド服の格好で食事の世話などしてくれた。


「これが最近話題のドバイ案件ってやつなのか?」とか石黒は心の中で呟いた。

 しかし、正直なところついこのあいだ迄、この世からおさらばする予定だった者が急に

綺麗な女性たちに囲まれてもあまりピンと来なくて、嬉しいとも思わなかったし、

しかも井口を早く助け出したいという思いは変わらず持ち続けていたこともあって、

自分だけが遊んで良いという思考には石黒の頭の回路は回らなかった。


「Hi, Ken!」翌日にはいわゆるリムジンで自然保護区に隣接した砂漠地帯まで移動してきた。

 先日ZOOMで話したその見覚えのある顔と声であった人が出迎えてくれた。

 特にターバンのような物を着用している訳でもなく普通にスーツ姿だったのでなぜか

少し驚いた。

 しかも大金持ちなのに秘書も護衛もつけずに一人でふらっと玄関口まで現れたので二度驚いた。


「昨日はゆっくりできましたか?」

とAkilahさんは満面の笑顔で話しかけてきた。

 余程昨日のもてなしに自信があったのだろうと石黒は推測できた。

「盛大なおもてなしに感謝いたします。アキラさん」

と石黒も素直に相手の気持ちを汲み取った返事を快く返した。

 その後の話では、この研究施設内に石黒のラボを作るのに必要な知恵を出して欲しいとの

ことで、石黒の望む研究ができる装置の設営には約1年かかるとのお話だった。

 自然保護のため、地下施設でカモフラージュ建築が必要なことも工期を長くする要因の

一つらしかった。

 その話をしている最中にも、石黒はとにかく井口に申し訳なく思うのだが、現実的な工期は

必要不可欠であった。

 一年以上も歪みの向こう側の異次元か異空間の世界で生きている望みなどは、今の石黒には

ほとんど抱くことはできなかった。

 最悪、井口君の骨でも拾えれば、ご両親に詫びを入れる際のけじめとして自身がやるべきこと

なのかと思い詰めていた。


 石黒は新ラボの完成までは小規模な実験を既存の研究室の一部を間借りして繰り返していた。

 その間にサポートメンバーを集めるのには結構苦労した。最初は日本人が良いかと思って、

 日本の求人サイトに募集を掛けてみたものの、いわゆる詐欺グループでは無いかなどと

書き込みされたり、大学時代の事件を持ち出す者の書き込みなどで、いわゆる特定班に

荒されたりで求人募集は不調に終わった。

 既にクラウドファンドは終了させていたのだが、そちらも特定班の荒しにさらされて

石黒の周囲はもう日本ではボロボロにされてしまっていたのだった。

 結局、こちらで現地のサポートメンバーで男女1名ずつを採用することにした。

 男性の名前はAblaで元大学の核融合の研究室で助手を勤めていた者で実験装置の扱いには

慣れているため即戦力と思われた。

 女性の名前はSaidaでこちらはこの研究所内のスピリット研に居たのだが、以前から大西研の

事をよく知っており機会があれば自分もこの研究に参加したいと考えていたということを

面接でも言っていたので、まさに即戦力で間違いなかった。

 日本ではこちらの女性はヒジャブを着用しているものと思い込んでいたが実際には日本人と

同じで白衣に身を包んでいたので特に抵抗も問題も無かった。

 アブラとサイダで日本語みたいで語呂が良く覚えやすい名前だと石黒はにんまりした。


 二人のサポートメンバーたちも石黒のこれまでの研究内容をしっかりと理解し、あとは装置が

稼働できればいつでも異世界へ旅立てる準備は整っていた。

 当初の計画通りに新ラボの設営は進んでいたが、もう井口が異世界に行ってから約1年という

月日が経過してしまっていた。

 ようやく石黒の新ラボの実験装置の設営が完了し、今日は工事業者からの引き渡しの日を

迎えることができたのであった。

 今日はアキラさんも久しぶりに顔を出していた。

 石黒の新ラボを見に来たのであった。


「ケン、お待たせ。」

とアキラさんは片言の日本語で石黒に話しかけてきた。

「やったー。」

と石黒はそんなキャラでは無い筈だったのだが、思わず両手を上に上げて日本語で叫んでいた。

 明日からは、とうとう待ち望んだ新ラボでの研究がスタートできるのであった。

「やったー。」

とアブラとサイダも石黒を真似してお道化て見せた。

 日本語は話せなかった二人も、石黒が時々発声する日本語の単語レベルは何となく分かる

ようになっていた。

 チームとしての結束もかなり良い流れになっていたのがこの件からも分かり、

誰よりも石黒の研究を期待していたパトロンのアキラさんもその光景を見て喜んでいるようだった。

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