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異世界クラウドファンディング 〜研究室の殺人事件から、舞台はドバイ、そして異世界へ〜  作者: 稲盛 皆藤


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2/7

歪みの向こう側に行って見た

 石黒は大西教授への週次報告を四回もすっ飛ばしてしまったことを悔やんでいた。

もちろんお亡くなりになられたことが一番引きずった原因であることは明らかだったが、

大西教授に投げ掛けられていたテーマ、「歪みの向こう側に行ったのか」という人類史上

初めての大発見の報告ができなかったことが、これまで研究者として多大なるお世話になった

恩師への考えられない程の大きな不義理に思えたことが、自分を赦せなかった。

 石黒が大西教授に報告したかった、その研究報告とは、

《歪みの向こう側に行けた》

ことが第一、さらに

《向こう側から土や石、空気を持ち帰ることができた》

という大発見の二つであった。


「お前ら、卒論研究ちゃんとやってるのか、卒業できなくなるぞ」

と石黒はいつも遊んでばかりいる、学部生の三バカトリオにいつもより厳しめの口調で

話しかけた。

 三人はまた研究室を抜け出して遊びに行く計画を立てているように何となく聞こえてきた

からだった。

 大西教授が入院する前までは、プールにナンパに出かけたり、琵琶湖一周のドライブに

出かけたり、ボーリングやビリヤードなどが楽しめるアミューズメント施設へ出かけたりと

やりたい放題だったのだが、大西教授が入院してからは、簡単に単位をくれたり、卒業させて

くれる先生があてに出来ない状況を察したのか、以前よりは研究室で見かけることが、

多かったので、少しは改心したのだろうと思っていたのにだった。


「石黒先輩、俺らは就職組なんで、まあ適当な修士の先輩たちの卒論パクってちょこちょこって

 実験結果載せとけば、卒業できるっす。」

と三バカの内、一番身長が大きく、目鼻立ちがしっかりとした杉岡があっけらかんと答えた。

「知らんぞー、大西教授が長引いたら、松本准教授が審査するからな。」

と石黒は三バカたちを脅した。

 松本准教授は、潔癖な性格で真面目でやや融通が利かないことで有名だったので、

自分の研究室に配属された多くの学部生を留年させてしまうという実績の持ち主だった。


「じゃあ、先輩教えて下さいよ。何したらいいんですか?」

と三バカの内の去年までアメフト部のキャプテンをやっていた巨漢の藤見が噛みついた。

「えー、もう秋だぞ、研究テーマも決まってないの?」

と呆れた様子で石黒は答えた。


「それじゃあ、俺先輩のアシスタントするから、先輩の過去の論文見せて下さいよ。」

と三バカの内、一番要領が良さそうな井口がすり寄って来た。

「分かった、分かった、じゃあもう時間も無いし、俺がお前らのテーマ決めてやるから、

 明日から真面目に卒論するんだぞ。」

と石黒は三バカたちを説得した。


 翌日には三バカたちのテーマと実験方針を各位に伝えた。

 杉岡にはもう就職先も決まっていたので、過去の卒業生の修士論文から比較的実験回数が

少なくて済むテーマを与えた。

 藤見には卒業生の修士論文で、先日学部生の引き抜き目的で挨拶に来ていた先輩の論文を

選んでテーマに与えた。これで就職先も確保できるであろうとの石黒の配慮からであった。

 井口には本人の望み通りに、石黒の修士生時代の論文を与えてテーマとさせ、さらに今

取り組んでいる実験のアシスタントとして実験に協力することを約束させた。


「井口、準備良いか?鉛の防護服しっかり着用できてるな。」

と大学に一つしかない核融合やプラズマの発生に使う大きな実験装置の前で、石黒は部下と

なった井口の安全確保に万全の準備を行った上で今回の実験に臨んでいた。

 使用には月次での事前申請が必要で、大西教授のサインのおかげで、今はいつでも使用したい

タイミングでこのプラズマ発生装置を使用することができた。

「先輩OKでーす。マジックハンド投入、行きまーす。」

と井口は放射線の影響を受けない様にしっかりと鉛の防護服を着用し、右手には長さ2M程度の

マジックハンドを持ってプラズマ発生装置内で身体を張った実験に取り組んでいた。

 もちろん、井口がこの役目を引き受けるまでには過程があった。

 引き受けることになった一番大きな理由は、石黒の研究を過去の論文で知ることになった

のだが、その内容に心を打たれてしまい、自分もこの世界初となるかも知れない実験に是非とも

参加させて欲しいと願い出たからであった。


「よし、井口頼んだぞー。」

と石黒はプラズマ発生装置の制御盤の操作のために井口と事前に何度も打ち合わせた通りに

その場は井口に任せた。石黒は、自らが発見した鉱石Cを触媒とした歪みの発生を、より安定化、

増大化させるために制御盤のコントロールに集中した。

 今では歪みは10分程度の安定化に成功していたし、サイズも700mm程度まで大きくすることが

できるようになっていた。

 鉱石Cによって分散する光を共鳴するポイントにさらに鉱石Cを触媒に使用する方法を

発見したので、それによる安定化と増大化が可能となったのであった。

 その時間は10分程度ではあったが、二人には魔法の時間のように長く感じられた。

「ピーピーピー、ピーピーピー、ピー、ピー、ピー。」と実験終了の合図が鳴った。

井口は五体満足だった。マジックハンドには、何か固体で石のような物を掴んでいた。

「やったー、先輩ー。」

「おー、井口ー。」

 二人は初めての異世界からと思われる物質の採取に歓喜した。

 防護服を脱いだ井口は緊張とそれから解放されたことでアドレナリンが出まくっていた

せいなのか、あまりの興奮状態で石黒に抱き着いて来た。

 石黒も井口の成功を普段の冷静沈着さはどこへやらで子供のように

抱き合って飛び上がって喜んだ。


 翌日からも、プラズマ発生装置の使用許可が出ている時間の全てを使って二人は実験を

夢中で行った。

 物質の採取とその構成元素の分析がセットだったので、プラズマ発生装置以外の分析装置は

大西研の研究室にあったので、そこの往復とコンビニへの食糧の買い出しの3拠点の

トライアングルの移動だけの毎日が続いた。

研究者あるあるではあったが、睡眠は取れる時に近くのソファで順番に取っていた。


 二週間後には、採取できた物がかなり多くなっていた。歪みの先にあったのは、地球には無い

元素記号で表さざるを得ない砂や石だった。大気は地球のそれと似ていて、窒素が約8割、

酸素が約2割、残りの数パーセントには地球では、アルゴンや二酸化炭素が多かったが組成の

分からない物質が混じっていた。


 さらに二人の欲は留まるところを知らず、とうとう三週間後のプラズマ発生装置で事件は

起こった。


「今日は、20分まで安定させるつもりだから、安心して落ち着いて採取を行って欲しい。」

と石黒は井口に伝えた。

 この実験はもう何十回も行っていたので、二人もあまり交わす言葉を必要としていなかった。

「分かりました。なるべく今までとは違う物を持ち帰ってきます。」

と井口は最初の頃とは違って、今ではもう落ち着いて採取には熟練していた様子だった。

「じゃー、井口、今回もよろしく。」

と石黒は装置内の井口をいつも通りに見送って、プラズマ発生装置の制御盤の方へ向かった。

二人は20分後に落ち合う予定でそれぞれの任務に就いた。

 石黒はいつも通り順調に、鉱石Cの共鳴配置に成功したので、手が空いたため、中の様子を

見るために装置内を見渡した。

「えー、おーい、井口、井口。」

と石黒は井口の姿が見えなくなったので、反射的に大声で名前を叫んだ。

 しかし、そこは放射線漏れを防ぐため遮断されていたので、声が聞こえることは無かった。

 石黒はとうとう事故が起こってしまったことで、頭が真っ白になった。その時タイマーを見ると

15分が経過していたのだが、石黒は半ばパニックになりそうだったが、実験者魂なのか何なのか

分からなかったが、体中から汗が噴き出ていたのだが、そのまま実験は予定の20まで継続された。

「ピーピーピー、ピーピーピー、ピー、ピー、ピー。」

と実験終了の合図が鳴った。

「井口ー、、、、。」

と石黒が首を垂れた、そのときだった。

 何も無い空間から井口が現れた。

 一瞬何が起こったのか理解が追い付かない石黒だったが、井口の姿が確認できたことで、

それまで抱いていたネガティブな感情が一気に吹き飛んで、研究者魂に火が付いたように、

今成すべきことに身体が動いた。

 石黒は実験装置の中から井口を取り出した。

井口は強者の様だった。

手にはマジックハンドではなく、植物が握られていた。


「やったー、先輩ー。ノーベル賞すっかね。」

と井口は無邪気な笑顔で笑っていた。

「おー、井口ー。無事で良かったー。」

と、石黒は反対に号泣していた。井口の無事、事故が起こらなかったこと、植物が採取されたこと

などなどで、喜び、驚き、安心感などの感情が入り混じってぐちゃぐちゃになって泣いていたのだった。


 その後の井口の報告で分かったことは、歪みの向こう側は、見たことも無い世界だったこと、

これまでの実験で採取していた場所と毎回全く同じ場所と繋がっていたことなどの確証が得られた。

向こうに置いて来たマジックハンドが二回目の時に回収できたことからもその根拠となったのだった。


 石黒と井口はどんどんとやってみたいことが増えてもういつ食事を口にしたのか分からない

状態だった。

「井口、お前大丈夫か、たまには息抜き行かねー?」

と井口の様子を心配した杉浦と藤見が最初の頃は声をかけてくれていたが、

「うん、ありがと、実験が面白くって、それどころじゃないんだよねー。」

と井口が顔は疲れたようなやつれ気味なのだが、満面の笑顔で答えるので、

二人ももう今では誘わなくなってしまっていた。

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