7聖騎士の誇り
ラファイアは神気で倒れていく聖騎士や神官を見回して吐息をつく。
神々の不穏な空気に相まって、彼らから発せられる神気が増している。ここは天界とは違うのだと怒鳴りたくなる衝動を抑えて、介助に奔走するファーレ神殿聖騎士たちを眺める。
今、神以外で席に残っているのはへルーシュ神の神殿から来たラファイアたち一行とベルシルク家の聖騎士、そしてファーレ神殿の聖騎士と神官たちだ。
ガラリと空いた席を見回す余裕がある彼らに比べて、青い顔の神官長が荒れ気味の神々の様子に天を仰いでいる。
「へルーシュ神、あなたは魔人を作った神をどのように分析されますか」
神官長が恐る恐る尋ねると、雄々しい美貌をそちらに向けたへルーシュ神が眉を寄せる。
「禍ツ神」
「禍ツ神?それはどのような?」
「説明する前に主に許可を頂かなくてはならない。主よ、人間たちに話しても宜しいでしょうか」
へルーシュ神の言葉にハーヴェ神はぞんざいに「構わない」と言い放つ。
「では。まずこの世界を作ったのは私を含め、七つの神だと君たちは知っているね」
へルーシュ神の問いに神官長は大きく頷く。
最高神ハーヴェ、そして戦神へルーシュ、人に姿を見せたことがなかったアライア神ほか、順位七位の神々が力を分け与えてこの世界を作った。
「その神々が最初に生み出されたのが天界。原初の神が生み出した世界だ」
「原初の神ですか」
「かの方は最初に女神とそれに準ずる者を生み出された。その時お生まれになった神がミューゼ様だ。万物の生死を司る偉大なる女神。彼女は世界に他の神々が生まれるように力を注がれた。そうして私たちが生まれたのだ。天界は彩り豊かになった。ミューゼ様はそうして次の世界の創生を願われた。それが人間たちの世界だ」
「まず前提として、神々の前に創生主がおられるということですね」
益々青い顔をしながら神官長が確認した。
「そうだ。原初の神はミューゼ様が愛する人間の世界を忌み嫌われた。そこで世界を元に戻そうと考えられたらしい。天界だけの世界に」
「なんと」
残っていた人間たちが息を呑む。
「ミューゼ様は原初の神に逆らわれ、人間の世界を守るために原初の神を力を以て諌められたという。原初の神は怒り、禍ツ神になった」
「そうだ。ミューゼがいなければ、今この世界はなかった」
ハーヴェ神はどこか遠くを見つめて言った。
「ミューゼ様と禍ツ神は同時に消えた。人の時間に換算すれば三千年ほど前の話になる」
へルーシュ神は気遣うような視線をハーヴェ神に送る。
「考えられるのは原初の神が復活し、念願である神だけの世界に戻すため、人間を全滅させようとしているということ。それ以前にミューゼ様によって力を削られた原初の神は元のものとは全くの別物。禍ツ神としてどんな力を有しているのか分からないということ」
アライア神が引き継ぐように話す。
その言葉に頷いてハーヴェ神が一同を見回す。
「異例なことだが人間たちに我々の加護を与えよう。禍ツ神の作り出した魔人に対抗するには人間の力だけでは無理がある」
特別な人間、例えば聖女だとか聖騎士にしか与えられない加護を他の人間にも与えると最高神が宣言した。
「お待ちを、ハーヴェ神。普通の人間に神々の加護は負担が大きすぎる。何が起こるか分かりません」
フィーランがギロリとハーヴェ神を睨む。
「しかし、人間の世界を壊されては困る」
「そうでしょうけど、あんたは細やかなようで大雑把だから人間たちに変な変化が起こるかもしれない。それは女神の意向に叶うことじゃねえって言ってるんだよ」
「それは些末なことだろう。人間が生き延びることが目的なのだから構うことはない」
「いやいや、女神が目指していたのは人間たちの自然な営みだ。神が介入した世界を望んでなんかいなかった。何を見てきたんだ、この馬鹿神様は」
「お前こそ、私たちの元から消えて何を考えている、このバカモノ」
言い争う最高神と聖騎士フィーランに戸惑ったような視線があちこちから突き刺さる。
「どうか静粛に。ところで質問があります。最高神ハーヴェ、そして聖騎士フィーラン」
神官長が恐る恐る口を出す。
「なんだ、申してみよ」
ハーヴェ神の目が神官長に向く。
「お二人はとても気安いご関係のようですが、一体どのようなご関係なのでしょうか」
当然の質問だというように回りもハーヴェ神が答えるのを待つ。
「ああ、そうか。知らぬのも無理はないが」
ハーヴェ神はチラッとフィーランを伺う。彼は彼でそっぽを向いてしまう。
「私が過去にただ一人だけ人間を世話係に任命したことは知っている者も多いだろう。それがこのフィーランの前身。そしてフィーランは何度生まれ変わっても、『フィーラン』という人間になるように定められている。なぜならば、原初の神に作り出されたのは女神ミューゼだけではない。ミューゼの弟的なものとしてこの人間『フィーラン』を作り出された。つまり、この者は神が最初で最後に作り出した人間だということだ。ちなみに、元の身体は天界に保存してある。彼は姉である女神ミューゼに頼み込んで普通の人間の生に交じることができるように元の身体を捨て、魂だけ人間界に落として貰った」
「そりゃそうだろう。ただの人間なのに、老いることも死ぬこともできないなんて地獄じゃないか。それなのに記憶も性格も元の俺が続いてるなんて、もう諦めたが、人間であることを放棄したくなるくらいには呪ってしまう人生だ」
フィーランがポツリと言い、肩をすくめる。
「姉さんには感謝している。いつも守り、導いてくれる。だから俺は聖騎士になり、女神の聖騎士になったんだ。そのことに誇りを持っている。どこにいようと何度目の人生だろうと、変わりなく俺は彼女の聖騎士だ」
重々しい口調とは真逆の晴れやかな表情に人々は驚きと畏敬の念を抱いているようだった。
原初の神が作った最初で最後の人間だという存在にどう接していいものか態度が定まらない。




