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6 交錯する視線

 華やぎに満ちた命の象徴。

 最高神ハーヴェは圧倒的存在感を放ちながら歩いてくる。

 隣には小柄な少女が。

 聖女ナッシュ。可憐で庇護欲をそそる見た目と自信のなさそうないたいけで純粋な瞳に聖騎士も神官も視線が離せないようだ。不可解なのは神々の様子である。

 ある神は不快そうに彼女を見つめ、その度にビクビクとナッシュは肩を小さくしてハーヴェ神の後ろに隠れる。そんな彼女を愛し気に見つめて、ハーヴェ神は鷹揚に彼の為の玉座へ腰掛ける。

「よく集まってくれた」

 麗しい声が空気を震わせる。その瞬間、何人かの神官が意識を失う。慌ててファーレ神殿の聖騎士たちが失神した者たちを運び出していく。

「皆も知っているかと思うが魔人なる魔の者が現れた。彼らは捧げ物と称して人間たちをいたぶり、殺していく。魔人討伐に我が騎士たちは苦戦を強いられているあり様だ。これは我々、世界を創造した神々に対する挑戦だと受け止めねばならない」

 途中、厳かな様子で語るハーヴェ神に見惚れていた聖女の一人が倒れる。そして聖騎士たちが彼女を運び出す、という一幕があったがハーヴェ神は気にもしない。

「魔人はへルーシュ神の領域に現れたが、他の神々の領域にも現れるだろう。皆で情報を共有し、かの者たちを殲滅する」

 ハーヴェ神がへルーシュ神を見、そして誰にも気付かれない一瞬の間にラファイアを目に入れた。

「へルーシュ神、魔人と会った感触はどうでしたか」

 ゲッテン神が興味津々で尋ねる。

「魔人は彼らを作り出した者の魔力を分けて作られているようだ。それも個々に魔力が違う。そして彼らは共鳴行動を取るようだ」

「共鳴行動?」

「ああ。瞬時に情報、経験を共有する。そして創生者は彼らを自由に作っては消す」

「魔人には意思があるのでしょう?消えたくなければ反発するのでは」

 人間は神が作ったが勝手に消すことはできない。理が許せば神は人間たちをいとも簡単に消すのだろうが。

 そのことに思い至り、人間たちの表情が固くなる。

 その中でラファイアは遠い記憶を思い出す。でもそれは微かに掴めた風のように輪郭がなく、おぼろげだ。

 人間を消す。

 その言葉に引っかかりを覚えただけで、何も記憶はないのか。ラファイアはともすれば溢れだしそうな不安にぎゅっと両手を握りしめる。そうしている彼女の手に両側から温かく大きな手が伸びてくる。

 へルーシュ神とアライア神の大きな手が彼女の守るように添えられる。

 次第に彼女の心が落ち着きを取り戻す。そして射るような視線に彼女は気が付いた。

 誰も気が付いていない視線の先。

 ハーヴェ神の燃えるような瞳がラファイアの手に注がれている。

 そして彼は視線をあげてラファイアを見つめる。

 熱い。

 太陽の熱に焦がされるようだ。

 その視線はラファイアを捕らえて燃え盛る炎の中に閉じ込める。

 交錯する視線は絡み合い、逃れるすべがない。

 彼の激情が体に流れ込んでくる。その奔流に溺れて息ができなくなる。

 けれど。

 ふいに彼は目をそらした。

 冷たく何の感情もない金色の瞳が宙を睨んでいる。

 ラファイアは心を丸裸にされているような気になってくる。

 彼は彼女の恋心を知っているのか。

 それとも弄んでいるだけで気が付いていない?否、神殿から追い払った女がおめおめと聖騎士として顔を出したことを怒っている?怒るどころか憎んでも足りないような目で睨まれたのだが。

 頭がパンクしそうだ。

 それでも。

 両側から差し出された温かい手に、此の世に存在して良いのだと言ってもらえているようで幸せな気持ちになる。

 これが現実。ハーヴェ神から注がれていたあの眼差しは、もう得られない。

 ハーヴェ神のことは幻だと思おうと決めたのだ。だって彼は彼女を自分の聖女と勘違いしたから。だから彼女もハーヴェ神のことを勘違いだと思うことにした。いや、そもそも、彼女の最終目的は神々からの人間の解放だ。ラスボスに恋していいはずがない。

 恋しく思う心は幻想なのだ。

 彼は敵。彼は倒すべき相手。

 でも。

 もう一度彼の瞳に自分を映してもらいたい。

 震える心には鎧を着せて、まずは魔人を片付けるところからだ。

 聖騎士ラファイアとして彼女は揺れる心を整えて決意を固める。

「最高神ハーヴェ、発言をお許しいただけますか」

 ラファイアは挙手をしてまっすぐに彼を見つめる。

 彼は吐息をついたようだった。そして圧迫を強めてラファイアを見据える。

 その神気に何人かの聖騎士が倒れてしまう。

「発言を許そう、聖騎士よ」

 何の感慨もない声。その他大勢と同じ場所にいるラファイアは彼の金色の瞳に映っているのだろうか。

「感謝します。まず魔人のことですが、それを作り出したのは女性の神であると思われます」

「その根拠は」

 ハーヴェ神が低い声で問う。

 女性の神と聞いて他の神々の間に何か不穏な空気が流れている。

「私は魔人が消える寸前に、その女性の神の声を聞きました。ここにおられるへルーシュ神、そして私の所属する隊の隊長もそれを聞いています」

 ラファイアの言葉にへルーシュ神が頷いてみせる。

「女性の神など、ただ一人ではないか」

 ゲッテン神が呻くように言う。

「彼女は違う」

 すぐにアライア神が否定する。

「神々よ、それは誰のことを言っているのですか」

 神官長が戸惑ったように尋ねる。

「天界で女神と言えばミューゼ様ただおひとり。しかしミューゼ様のことを生きている人間は知らないですからね。命と再生の女神です。ですが彼女は特別な方。我々と同様に語ってはいけない。神々の中でも最も尊いお方だ。そして人間を愛してやまないあの方が人間を苦しめるものを作るわけがない。ゲッテンよ、ミューゼ様に対する不信を口にするのも許せぬが、今は主の御前だ。私から制裁は加えぬ」

 ラファイアの知る限り、穏やかな表情を崩さなかったアライア神が序列第三位の圧を以てゲッテン神を射すくめる。

「申し訳、ありません」

 青い顔にかすれた声でゲッテン神は頭を下げた。








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