車窓にみる
久しぶりに、遠くへと電車に揺られる機会を得た
乗り始めのころは、人の世が築き上げた四角く硬き景色ばかりが、窓の外を淡々と流れてゆく
灰色のビル群は冬の光を受けて白く光り、ガラス窓には空の淡き影が映り込んでいた
車輪の響きが一定の調べを刻み、まるで時間そのものが後ろへと退いていくようである
都会だなぁ、と胸のうちでつぶやく
今なお、あの憧れの念は薄れていない
やがて東へ進むほどに、視界の先に海が姿を現した。
淡い陽光の下、蒼と銀の境に水平線が延びている
波間にきらめく白が、まるで誰かの記憶のように穏やかに揺れる
寒の季節にもかかわらず、その光景はなお人を誘うようで、思わず「まだ泳げるのでは」とさえ思うほどに魅惑的だった
潮の香がかすかに窓の隙間から入り、胸の奥をやさしくくすぐる
やがて、景色はまた変わる
田の広がる里の風情に包まれ、どこか懐かしさが胸を打つ
遠く霞む山の稜線は夕日に照らされ、わずかに橙を帯びていた
面に実った稲穂は、すでにきつね色に染まり、風が通るたびさざ波のごとく揺れている
まるで故郷の匂いが、遠い記憶を呼び覚ますようだ
やがて電車は川を渡る橋に差しかかる
昨日の雨のせいか、水面はやや濁り、流れは急を帯びていた
橋の下を見やれば、岩にぶつかる波が白き泡を立て、自然の厳しさを訴えるようである
その力強さに、しばし言葉を失う
レールの上しか進めぬ鉄の車輪
ゆえにこそ、移ろいゆく景の美を、心ゆくまで眺めることができるのだろう
いつしかこの旅そのものが、日常の疲れを洗い流すようであった
電車に乗ることが、趣味になりそうだ
そんな思いを胸に、私はまた静かに窓の外を見つめた




