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狼の山荘  作者: 東雄
7/32

占い師の正体

 すると灰田さんが提案した。

「十分、休憩しませんか」

「賛成です。少し休みたいです」と桃井さんが言った。確かに会議に慣れていない人は疲れるだろう。私も、少し頭を冷やしたい。誰も反対しないので結局十分の休憩に入った。だが何か灰田さんが司会みたいになっている。ノートに「灰田・司会、何故?」と書く。

 青木さんが結城さんの所に言って何か話している。多分、煙草だなと思った。喫煙者なら、無性に煙草が欲しいところだろう。結城さんが何か指示した。なるほど一応喫煙場所はあるわけだ。だが極寒の冬、外は寒いだろうに、喫煙者は、やはり中毒なのだ。だが灰田さんはきっちり時計で十分数えていた。

「話し合いを始めましょう」


 それを聞いて、青木さんが急いで戻ってくる。煙草はお預けか、お気の毒だ。灰田さんは、もう完全に司会だ。仕事も出来る人なんだろうなと思う。すると紺野さんが言った。

「投票の仕方が決まっていませんが、どうします」

 そうだな。多数決とだけ決まっている。すると灰田さんが答えた。

「順番に追放者を口頭で指名すれば良いんじゃないですか」

「それでは、前に発言する人の意見に左右されます」

 灰田さんは少し考えて言った。

「一斉に指さすのは、どうでしょう」

 紺野さんはいやと首を振った。

「場所が広すぎます」

「それでは、ゲームマスターが誰を指したか聞いて見るのは」と灰田さんが提案した。結局、順番に言うのは変わらないが、指した方向に、その人がいないとおかしい。まあこれが妥協点だろう。

「では、結城さん、良いですか」と灰田さんが聞くと結城さんは「はい」と頷いた。

 投票方法は決まった。そして紺野さんが目を鋭くして言った。

「私、お話があります」

 紺野さん、かなり真剣な顔をしている。何だろう。ここまで口数が少なかったが。

「私、占い師です」

 何! これがカミングアウトというやつか、だが一回目の話し合いで言って良いのか。案の定、緑川さんが言った。

「良いんですか? 人狼に狙われますよ」


 青木さんも続けて言った。

「そうですよ、始まったばかりだ。ばかな私でも分かる」

 ここまで青木さんを見ていて、どうしても悪い人には見えないのだが。人の心配している場合では無いのだ。でもこれが演技なら、少なくとも私を騙している。しかし紺野さん、ここでそれを言うか。ここで占い師を名乗ったら不利なのは分かるはずだ。占い師→紺野COと書いて?を付けた。

「ここで、占い師を名乗るのは危険ですよ」と灰田さん。

 だが紺野さんが笑った。ここで笑える? 「ええ、分かっています。でも騎士が守ってくれます」

「あなたが、本物とは限らない」

「分かっています。でも、私は襲撃されない。そして今晩、人狼を追放すれば、人狼は一人、そして私は人狼を見つけます。それで終わりです」


 なんと! むちゃくちゃだ。そんな作戦、ありか?

「それに、もし私を追放するなら、占い師の私を追放するに投票した方の中に人狼はいます。私を追放したい方は誰ですか?」

 確かに、これは言えているかもしれない。これで紺野さんに投票すると人狼に近いと思われるということか。心理戦だな。だが、追放はされなくても、襲撃は受けるだろう。しばらく間を置いて緑川さんが言った。

「よく人狼では占い師自身が、占い師誰ですか? て聞くのはあるんですが」

 紺野さんはへーという顏をした。

「ああ、つまり、誰か手を挙げたら、その人が嘘つきで怪しいということですか」

「そうです」と緑川さんが頷いた。紺野さんは平然としていた。

「何故、その方法取らなかったのか、疑問です」

「気が付きませんでした」

「本当ですか?」

「はい、それにこのゲーム、占い師は簡単に死なない」

 紺野さんは笑っている。この自信の根拠は何だ。


 緑川さんは考え込んだ。

 このやりとりはかなり迫力があった。よく考えて見ると一回目の投票は多分割れる。それで紺野さんが生き残ったら、他の一人が脱落する。夜は紺野さんが騎士に守られるかどうかは分からないが、とにかく。誰かが襲撃される。ここで残りは九人、そして二日目で紺野さんが生きていたとして誰かの正体を言う、それがもし正解だったら、紺野さんは本物という確率が高い。この時点で昨日の脱落者が人間として残りは人間側五人、人狼と裏切り者と人狼側が三人、そして異常者。この状況で紺野さんを追放しようとしたら、その中に人狼がいることになるから、多分紺野さんは追放されない。誰かが追放される。もし人間が追放されたら人狼有利ともいえる。ここまで考えたらハッとした。もしかしたら人狼は一人勝ちを狙うかもしれない。だが人狼は人狼を殺せない。だから占い師を利用して人間にもう一人の人狼を追放する作戦が浮かぶ。そういう意味では、確かに人狼も占い師が必要なのだ。


 紺野さんは、ここまで考えてかどうかは分からないが、私が考え付くんだから分かっていると思う。だが今考えたことは仮定に過ぎない。すると、私もうっかりしていたことを、茶川君が言い当てた。

「紺野さんだっけ、すっかり占い師気取りだけど、あんた人狼じゃねえの、占い師と思わせた人狼、これ最強じゃん。なんせ吊られないし、襲撃も受けない」

 うかつだった。私の思考は紺野=占い師で成り立つ。

 皆、黙ってしまった。紺野さんは果たして人狼か占い師か。

 沈黙を破ったのは藍田さんだ。

「さきほど、能力を聞いて見たのは、儂も能力持ちだからだ」

 灰田さんはえ、という顏になった。

「と言うと、何でしょう」

 藍田さんは断として言った。

「儂が占い師だ」

 これには、びっくりした。二人目の占い師か。急いで、藍田→二番目占い師CO?と記す。

 すると桃井さんが声を挙げた。

「すると、どちらか嘘ということですか」

 赤城さんが、ゆっくりとした口調で言った。

「…どちらも嘘ということも、ありますよね」

 うーん、あり得るかな、即座に灰田さんが言った。

「可能性としては、あります。その場合どっちかが人狼かもしれない」 

「二人とも人狼では?」と赤城さんは聞いたが、

「まず、無いでしょう。人狼の一人が、占い師を名乗ったら、もう一人の人狼はサポートにまわるはず」と灰田さんは笑って返した。

 私は思わず女神像を見る。果たしてどちらに天秤は傾くだろうか。


「そこまで考えますか?」と赤城さんが首を傾げながら言った。

「なんかややこしいですねえ」とは桃井さん。

「まったくですね。紺野さんだけでも考えちゃうのに、藍田さんまで、いったいどうすればいいんでしょう」ともっとも単純なことを言ったのは金井さんだ。

 確かに藍田さんの参戦は、場をややこしくした。ここで藍田さんが参戦する理由は何か? ひとつは藍田さんが本物で、嘘を語った紺野さんを追放したい、その場合紺野さんは限りなく人狼に近い、これが一番簡単な理由だ。一方藍田さんが人狼の場合は、さきほど私が思いついた占い師は残るはずという論から紺野さんを偽占い師としているということになる.だが私は手を挙げた。挙手制ではないから挙げる必要はないのだが、癖だ。


「結局、この時点で、誰が占い師かって確定できないんですよね」

「何故ですか?」と手を挙げて聞いたのは桃井さん。

「つまりまだ誰も占っていないから、判断のしようがない」と私は答えた。

「なるほど、そうですね」と納得したように頷いた桃井さんだが、額面どおり、この態度を素直ととるのは早計すぎる。

「藍田さんは何故、告白したんですか?」と私は聞いて見た。

「儂が本物だからだ」と明快に答える藍田さん。こう単純に言われるのが一番むつかしい。


 このゲームは女性が多い。女性は直感をしばしば信じる。そして女性が多いから、人狼が女性である可能性が僅かだが高いということだ。一番高い確率は多分、男女の組み合わせだろう。次に女女、そして男男。すると、緑川さんが手を挙げて口を開いた。

「皆さん、紺野さんと藍田さんの話ばかりになっています」

 灰田さんが緑川さんを見た。

「確かに、でも話の成り行きでは」

「いいえ」と緑川さんが首を振った。

「何を言いたいですか」と灰田さん聞くと、緑川さんが答えた。

「私は基本的なことなんですが、私は皆さんが人狼ゲームの初心者ではないと思っています」

 どういうこと? と私は思った。緑川さんは続けた。

「私たちは、今日急に、ここに連れて来られたのではない、少なくとも十日の時間がありました。これだけあれば人狼ゲームについて勉強することは可能です。熱心な人なら、いや三億が手に入るためなら、確実に勉強しているはずです。それでここに臨んでいるはずです」


 なるほど、自分だけが人狼を考えていた訳では無い。条件は皆同じだというわけか。皆、人狼を勉強と記しておく。

「だから? 何ですか」と灰田さんは聞いた。

「紺野さんは決して、単純に告白しているのではない。何か戦略を持っている」

「どんな戦略?」

「いろいろ、ありますが、はっきりとは、今わからない」

 すると紺野さんが反撃する。

「緑川さんは、さっき、このゲームは通常の人狼ゲームとは違うと言いました。だったら、皆が人狼ゲームを勉強しても無駄ではないですか」

 結構、手厳しい。揚げ足取りではないかと思うが、緑川さんはいやと首を振った。

「私が、通常の人狼ゲームではないと思ったのは、この場に来て、結城さんの説明を聞いてからです。事前には通常の人狼ゲームと思っていました。だから皆さんも人狼ゲームを勉強しているはずと思ったわけです」

 なるほど、筋が通っている。紺野さんも平静に頷いた。緑川さんの答えは想定内だったのだろう。緑川さんの狙いは多分、経験者だけが戦略的だと思われるのを避けたのだろうと、私は思う。それは正しいかもしれない。


 茶川君がにやりと笑った。こいつ、本当に悪党の匂いがした。

「みんな、格好つけてるけど、結局三億円めあての強欲ばかりじゃねえか、こういうのは誰が一番強欲かで勝負が決まるんだ」

 まあ、本質を突いているな。その証拠に皆、黙っている。だが、それこそ私も含めて茶川君を嫌な奴だと思っているのは間違いない。だがそれでいて無視できない。まったく誰かを吊る、いや追放するのは難しい。占い師や騎士を除いたのでは人間側は不利になる。

 白田君が茶川君を無視するように手を挙げた。

「そう言えば、はじめに嘘を吐いたと言う場面は最初に自分の正体を言った時ですね。全員が同じ人間と言った。この時確実に嘘を吐いた人間が二人いる。ここで何か気になったことはありませんか」

 確かに、この時全員が意志表示をしたから二人が嘘つきだ。白田君は続けた。

「この時の印象を皆言ってみませんか」

 私はノートに告白の印象と記した。なるほど、こいつは案外いいかも。白田君、単純だが、良いかもしれない。こうやって、少しずつ情報が増える。


すると、桃井さんが手を挙げて灰田さんをじっと見て言った。

「灰田さん、私なんかと違って、とても落ち着いています」

 灰田さんは苦笑した。

「人狼ゲームを知っているし、私、いわゆる探偵ですから」

「だから、人狼だったら、一番怖い」と手を挙げて桃井さんはやや小さな声で言った。なるほど、やはり目立つ人はあれこれ言われやすい。灰田さんは再び苦笑して言った。

「私はまだ、正直分かりません」

 おや逃げたかな。

「私は、若いのに緑川さんの落ち着きと、頭が良いのが気になります。人狼だったら怖い」と言ったのは赤城さんだ。

「落ち着いているのが妙か、面白いな。が、儂は桃井さんが早口に言ったのが印象に残っている」と藍田さん。

 茶川君が相変わらずの口調で言った

「俺は青木さんだっけ、電気屋のおっさんの口数の多さが怪しい。特にわざわざクリスチャンて言ったのが怪しい。人狼をかくすためにクリスチャンって言ったんだ」

 もちろん青木さんも黙っていない。

「私は、茶川君だっけ、私を貶めるあんたが怪しい」

 茶川君は怪しいと思ったら、必ず口にする性格だろうと思うが、その言い方は悪いが、確かに怪しいと思う人間を一人選んで、挑発して確かめるという方法があるなと思う。

 すると金井さんが言った。

「私は、あえて言うと、黒田さんが、何となく気になります。発言は控えめだし、いつもじっと何か考えているようで」

 出た女の直感。まさか私に、まいったな。私は困って黙った。反論のしようがない。じっと考えているのは事実だからだ。金井→私を疑ったと書き留めておく。すると白田君が手を挙げた。

「僕も青木さんが、クリスチャンだとわざわざ断ったのが気になりました」


 ヤンキ―風の茶川君と好青年風の白田くんが同意見か、面白いな。

緑川さんが、手を挙げた。

「私は、まだ、迷っています。しかし紺野さんが気になるのは確か」と言った。確かに緑川さんは紺野さんに多く聞いていた。緑川さんもいろいろ考えるな。

「私は初めの意見では何とも言えませんが、私の後から占い師と言った藍田さんは、かなり怪しい」と言ったのはもちろん紺野さんだが、猛然と藍田さんが反撃する。

「儂は本当に占い師だ。あなたが偽物で、人狼にちがいない」

 藍田さん、気が短い。顔が赤らんで、口調がきつい。あんまり興奮しない方が良いのに。


 ここで、複数の人に気になると言われたのは紺野さんと青木さんか。まあ、青木さんはあんまり興奮するものでは無い。茶川君が外形的には一番怪しいと思うのだが、自分の状態がカードで決まったのだから、外見を見ても、あんまり意味がない。とにかく、人狼らしき行動を見抜くことが重要になるのだろうが、どうやって見抜くか、すると青木さんが腹立たし気に言った。

「なんで私が疑われるのか心外です。茶川君はまだしも、白田君までも。白田君、分かるように説明してください」

 白田君は冷静な顔をしていた。

「情報が少ないから、当然口数や、動作が大きい程、目立つのは仕方がありません」

 まあ単純だが、青木さんが、そう見えるのは確かだ。

「君は、もっとまじめな人間と思っていたが」

「僕の何が分かるんですか」

 青木さんは、茶川君よりはるかに、まともに見える白田君が、茶川君と同意見なのが気にいらないらしい。

「とにかく、紺野さんと同じにされるのは不愉快だ」

 複数に怪しいと言われて、焦っているな青木さん。紺野さんも当然反撃する。

「私と同じで気にいりませんか」

 青木さんは頷いた。

「そうです」

「何故?」

「私も実はあなたがおかしいと思っています、初めに占い師なんて言うのは不自然だ。占い師を語った人狼ではないのですか」

 紺野さんは笑いながら言った。

「いいですか、さっきも言いましたが、占い師は必要なんです」

「分かっていますよ」

「いや分かってらっしゃらない」

「何が」

 紺野さんは皆に顔を向けて言った。

「占い師は人間だけではない、人狼にも必要なんです。この三億円ひとり勝ち可能のルールでは。だから占い師は生き残る」

 やはり紺野さんは理解している。だが皆が理解したとは限らない。現に青木さんはポカンとしている。

「何を言っているのか、分かりません」

 そこに藍田さんが参戦した。


「分からんか?」

「はい、さっぱり」と青木さんは頭を掻く。

「頭をつかえ、少しは」

「すいません」と青木さんがあやまる。

「おっさんの頭じゃ分からないか」と茶川君が茶化す。

「何! 私を馬鹿にするのか」

「別に」とそっぽを向く茶川君を睨む青木さんだが、藍田さんは仕方が無いというふうに言った。

「このゲームは一人が三億円取る可能性が大きいんじゃ」

「はあ」

「人間は無理だが、人狼と異常者は独り占めできる」

「なるほど」

「人狼の場合、もう一人の人狼を除く必要がある」

「はい」

 藍田さんは、赤い顔がさらに赤くなる。藍田さんイライラしている。藍田さんは説明の必要がないのに、あえて話している。

「いいか、人狼は人狼を殺せない、人狼を消すためには、占い師に、片割れの人狼を見つけてもらって人間達に追放してもらうのが一番じゃ、それで三億円一人勝じゃ。だから占い師は簡単に排除できん、そう紺野さんは言っとるんじゃ」

 かなり乱暴だが、そういうことだ。すると、紺野さんがまた笑った。

「よく、分かっていらっしゃる」

 藍田さんが目を剥いた。

「あたりまえだ。儂が占い師だからだ。それくらい分かる」

 この応酬を見ていた青木さんは、やっと納得の顔になった。

「分かりました。でも異常者は別ですね」

「異常者は人狼に襲撃されれば死ぬ。異常者も占い師は必要じゃ」


 これで人狼も含めて、皆が占い師の重要性をあらためて認識できたかもしれない。だが、紺野さん、藍田さん、どちらが本当の占い師か、それとも人狼か。藍田さんは続けて言った。

「だから、紺野さん、あんたは、占い師を語り、自分を守ろうとした。何故か、それは、あんたが人狼だからだ」

しかし紺野さんも負けてない。

「それは、短絡ですね」

「何!」

 藍田さんが目を剥く。それだけ鋭いんだから、落ち着けば良いのに。

「いいですか、仮に私が占い師でないとする。でも人狼とは限らない」

「何故だ」

「私が騎士ということもあり得るんですよ。騎士は自分を守れない、しかし占い師は守りたい。だから本当の占い師が出てくるまでとりあえず占い師と言って待つ」

 なるほど、そういう考え方もあるか、しかし紺野さん、ゲームの初心者とは思えない。実は経験者か。

「では、儂を守ればいい」

「私を人狼と言った藍田さんを守ることは無い」

「へりくつだ」

「お互い様でしょ」

「何!」


 ちょっとヒートアップして、最後の方はケンカだ。これはゲームなんだ。灰田さんが口を挟んだ。

「ちょっと待って、二人で暴走しないでください」

 だが、茶川君は変わらずの薄笑いで言った。 

「そんなことねえよ、大金がかかっているんだ。徹底的にやれよ」

 藍田さんが再度目を剥いた。

「小僧、口のきき方に気をつけろ」

「じいさんもな」

「何!」

 女性陣がちょっと引いた。冷静なのは緑川さんだな。灰田さんが再び制する。

「やめてください。茶川君も目上の人に、じいさんは無いでしょ。さすがに駄目です」

「ふん」と茶川君は動じない。まあ挑発的な態度は徹底しているな。さらに茶川君は続けた。

「灰田さんだっけ、あんた中立って顔しているけど、この二人、どっちかが怪しいのは、あんたも分かるだろう。占い師は一人だけだ。どっちかが嘘をついていることになる。だろ」

 灰田さんは頷いた。

「まあ、そうですね」

「このゲームは嘘を吐いた奴を吊るゲームだ」

「吊るは、やめましょう」と灰田さんがたしなめるが、茶川君は平然としている。

「茶川君はどっちが嘘つきか、判断できるのですか」と緑川さんは聞いたが、茶川君は「さあ」と言って、そっぽを向いた。本当に無礼な奴だ。

「彼には何を言っても無駄だ」と青木さんが言うと、茶川君は相変わらずの笑いを浮かべる。

「おっさん、実はビビってんじゃないか。自分が疑われて」

「私はビビってなんかいない」と青木さんはあきらかに虚勢を張った。


「ふーん」と青木さんを眺める茶川君。茶川君は確かに横柄だが、完全に相手を追い詰めてはいない。つまりやり過ぎてない。ここで藍田対紺野、茶川対青木の対立構図が出来た訳だ。もっとも茶川君は誰にもいちゃもんを付けそうだが。

 すると緑川さんが言った。

「紺野さんに聞きます。あなたは何故、占い師は死なない理由を最初に言わなかったのですか」

紺野さんは、苦笑いをした。

「理由を言ったら、必ず追随者が出ます。だから、初めは言うつもりは無かった。投票前に言いたかった。まあ藍田さんが出ちゃいましたが」

「そうですか」と緑川さんは頷き、それ以上、追及しなかった。ただ納得したかは分からない。二人の掛け合いは迫力があったな。

 時計を見ると決め手を欠く話し合いは、終わりに近づいている。はて、噓つきは誰か。皆正直そうにも、ほら吹きにも見える。


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