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狼の山荘  作者: 東雄
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地震

 突如眠りは破られた。眠ったと思ったら、いきなりドーンと地鳴りがしたのだ。

ガタガタと部屋が揺れ始めた。とっさに地震! と思った。揺れは初め大きな縦揺れ、そして横揺れが続いた。思わず身体を硬直させる。かなり大きな地震だ。東日本大地震とはいかなくとも、かなりの地震と思った。

 揺れは数分続いて、いったん止まった。が、揺れ戻しに備えた。やはり、3・11の地震が思い出される。まさか電気が止まるか、と部屋の灯りを試した。幸い電気は止まっていない。揺れが収まったところを見計らって私は部屋を出た。


 やはり、全員、部屋を出ていた。

 さすがに、皆本気で心配しているようだった。大雪に地震、こんな山奥で心配しない方がおかしい。

 青木さんが、目を見張らせている。

「かなり大きいですね」

 白田君が言った。

「僕達、孤立するんですかね」

「まあ、建物が壊れた訳でも無い。大丈夫でしょう」と私は言ったが、多少の不安はある。


 すると茶髪の茶川君がすたすた歩く。

「何処に行くんです?」と青木さんが聞くと、茶川君が振り向いた。

「ホールに、何か情報あるでしょ」と面倒くさそうに茶川君が答える。こいつ横柄だ、しかしもっともだ。ここは結城さんに聞くのが良いだろう。我々五人はホールに向かった。 ホールに出ると、やはり不安そうな顔をした女性陣も集まっていた。結城さんはいない。多分、どこかで情報の収集を行っているのだろう。頼りは結城さんだけだ。皆、戸惑いの顔をしている。外部と閉ざされている。携帯もないとなると不安がこみあげてくる。


「結城さんは、どこへ行ったんでしょうね」と青木さんが聞くが、

私に聞かれても困る。だが、私はなるべく平静に言った。

「多分、ラジオかテレビで情報が流れるでしょう。ここにはテレビやラジオはありませんが、結城さんの部屋にはあるでしょう」

「結城さんの部屋は?」

 私は面倒くさくなったので、

「さあ」と答えた。

「黒田さんに聞いてもしょうがないですよ、全員、知らないんですから。とにかく待ちましょう」と白田君。

 すると灰田さんが、落ち着いた声で言った。

「携帯は繋がりませんが、電気は通っています。水も大丈夫です。

落ち着きましょう」

 緑川さんが頷いて言った。

「そうですね、皆さん、もともと何処か分からないところに連れて来られたんですから、たいして状況は変わりません」

 だが、桃井さんが不安そうに言った。

「食料は、どうなるんでしょうね?」

 赤城さんがそれに答えた。

「少なくとも、一週間は大丈夫なはずです」


 災害時に人の本性は分かる。発言した人のうち白田君、灰田さん、緑川さんは、多分冷静な人だ。青木さん、桃井さんは不安を口に出す人だ。黙っている藍田さんは老齢らしく無駄なことは言わない人だろうか、茶川君はむっつりポケットに手を突っ込んで、ふてぶてしく立っている。紺野さんは先ほどの質問で馬鹿ではないのが分かっている。赤城さん、金井さんは、今のところ分からない。

 すると、ホールの玄関へのドアが開いて、結城さんがホールに入ってきた。皆、いっせいに彼を見た。


 結城さんは表情を変えずに口を開いた。

「皆さんにお知らせいたします。さきほどの地震は震度五強、震源地は長野県です。さいわい、電気、水、ガスは通っています。ただし電話は固定、携帯ともに繋がりません。内線は通じます。また、道路がどうなっているか、運転手の武藤が四駆の車で確かめに行っています。その報告をお待ちください」

 やはり電話は駄目か、すると桃井さんが聞いた。

「食料は、どうなるのでしょう」

 結城さんは淡々と答えた。

「この建物の地下に食料一か月分が備蓄されております」

 なるほど地下か、どこかに地下に通じる入口がある。案外結城さんや他の人たちの部屋も地下かもしれない。目立たない訳だ。

「食料やライフラインが大丈夫なら、まず心配は無いですね」と灰田さんが頷きながら言った。

 桃井さんが、おずおずと言った。

「地震は想定外です。よってゲームは中止?」

 すると茶川君が声を放った。

「止めるなんて、冗談じゃない。もともと一週間缶詰だったんだ。地震で三億をあきらめるなんて、あり得えねえ」

 口調は乱暴だが、皆の腹の中の代弁者だ。

「そ、そうですよね、結局、状況は、あまり変わらないんですよね」と青木さんが追従する。青木さん、金への欲望がまさったか。

「止めると言う方いますか」と結城さんが一同を見回して聞いた。

 皆、無言になった。だが、「降りる」と言った人間はいなかった。あの三億の札束を、そう簡単にあきらめられない、ということか。


 すると運転手の武藤君がドアを開けて入ってきた。案外早く帰ってきた、ということは、あまり歓迎できない情報か。

 武藤君は無表情で、皆に告げた。

「この先の道路で、木が何本か倒れて道路がふさがっています。復旧にはかなりかかりますね」

 否が応でも、閉じ込められたわけだ。そして、私はスクリーン脇に部屋番号と名前が載った表が貼られているのを見た。私はそれに近づき、それを確認した。

 女性がNO1 緑川。NO2 金井。NO3・灰田。NO4・桃井。NO5・紺野。NO6・赤城。

男性がNO7・黒田。NO8・白田。NO9・藍田。NO10・

青木。NO11・茶川。男の部屋は私がホールに一番近い。そして隣が白田君か、まあいい、彼が額面通りの好青年ならいいのだが。

すると茶川君が言った。

「携帯、繋がんないなら、返してよ。ゲームでもやるから、じゃなきゃ、暇を持て余す」

 この一言には、全員頷いた。結城さんは、我々を見回し、そして言った。

「分かりました。ただし、電話機能が復旧しだい、また回収します」

 こうして、また携帯電話が戻った。画面には圏外の文字が示されていた。


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