終章
空は青く澄み渡っていた。雪も昨夜から降っていない、久しぶりの和らいだ光で、窓の外に垂らされていた氷柱も溶けかかっていた。
私が玄関の外に出ると、珍しく、緑川さんが喫煙所で煙草を吸っていた。私が見ると、緑川さんは、ちょっと困ったように微笑んだ。ちょっと校令に反した、生徒のようだ。
「青木さんに、もらったの。一本吸うとだめね。また禁煙はいちから、やり直しね」
煙草を吸いたくなるのは分かる。ゲームの結末は、皆いちおうに驚いたし、疲れてしまった。今の今まで論を尽くしていたのに、最後にテミスが選んだのは、むちゃくちゃの青木さんだ。はっきり言って、彼は何もしてはいない。仲間も、自分も守る論理は一切持っていなかった。なのに、勝ったのは彼、まったく人生はうまくいかないもんだ。そういうことが身に染みて分かった。
「彼は賞金、どうするんでしょうね」
緑川さんは、少し考えて言った。
「悪銭身につかず。こういう賞金は、多分、あっという間になくなる。彼はそういう人よ」
なるほど、そうかもしれないが、できるなら、慎重になってほしいものだ。彼は自分の幸運を喜ぶべきだ。本当に殺されかけたのだから。相馬純子のためにも、そうあってほしい。
「ところで、緑川さんは、赤城グループには何と言っていたのですか」と私が聞くと、緑川さんはにやりと悪魔的な表情をした。
「もちろん、グループに入りますと言っていましたよ」
何と! 二股かけていたわけだ。
「でも灰田さん追放までですよ。そこは矛盾しなかったでしょ」
もう一人の人狼は灰田さんだと結城さんは言った。予想通りだったが。それにしても、緑川さんは女優を目指しているのなら、大した役者になれるかもしれない。
すると、「黒田さん」と緑川さんは私に声をかけた。
「何ですか?」
「黒田さんは、教員免許を持っているんですよね」
ふいの質問に、少し驚いたが、頷いた。緑川さんは私の目をまっすぐ見て言った。
「先生、もうやらないの」
これには、正直答えられない。
「分からない」
緑川さんは「そう」というと、もう一本煙草を咥えて、すうと吸い込んでフーと吐いた。
煙は、白い山並みを超えて、どこまでも青く高い空に向かって溶けて行った。
「運命の輪舞」章の次に「告白」章を付け加えました。すいません。よろしければ読み直してください(6月21日)
長い物語を読んでくださりありがとうございました。