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狼の山荘  作者: 東雄
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運命の輪舞

 皆は無言で、深夜のしんと静まり返った廊下を、ホールに向かって歩き始めた。紺野さんは、少し離れてついてくる。

 真っ暗なホールに、明かりがともされ、皆はそれぞれの椅子に座った。だが、紺野さんだけは、皆と一緒に座らない。結城さんの机の近くに立って、我々を、じっと見ている。その目は鋭く、そして冷たい。

 結城さんは、自分の机に置いたパソコンの操作を始めた。キーを叩く音が、はっきり聞こえる。皆無言だった。

 そして、やがてスクリーンに聳え立つ崖に、すっと立った狼の姿と、W財団の文字が現れた。


 そして、黒いレザー張りの椅子に座ったひとりの男が現れた。

それは、間違いなく藍田さんだった。藍田さんは目をつむっている。 動画はしばらく無言の藍田さんを映し続け、そして、何分か経った。藍田さんはゆっくり目を開いた。その目はひどく冷たい様に感じた。何も恐れず、何にも左右されない意志を持った目だった。

 やがて声がホールに発せられた。その目と同じく断固たる意志が感じられる声だった。


「これが流されるということは、儂が死んだということだな。出来るなら、最後まで見届けたかったが、これも運命ということか。若かったころは運命など、考えもしなかったが。死んでもおかしくない年齢に達して、運命とは、とどのつまり死ということに気が付いた。人間の運命は、死に向かって行進する人生だ。人間は運命に逆らえない。

 だが、やはり、若くして死ぬということは、悲しい。それが自殺という結末は絶え難い。これは運命などではない。人は病気で、怪我で死ぬ。これはやむをえない。しかし、自分の意志ではなく。悪意によって自殺に追い込まれたとしたら。絶対に容認できない。それは殺人だ。


 純子は、私の孫は自殺で、この世を去った。相馬純子は、儂の息子の子供だ。だが、儂の息子は残念ながら、社会人としては、欠けたところがある。結婚生活には不向きな、女好きすぎた人間だ。度重なる浮気は、息子の嫁には耐えがたいことだったことだろう。儂の会社の総帥の二代目として息子は、ある意味二代目らしい男だ。街の金融屋から会社を興し、あらゆる手段を使ってのし上がった儂に、政治家、企業家、裏社会までも逆らう人間は居ない。儂の息子は、何の苦労も知らない。典型的な馬鹿息子の二代目だ。儂の嫁に息子の教育を一切まかせ、甘え切った幼少期を過ごした息子は儂の息子という以外に、何のとりえもない、下らん男になった。だから儂は離婚に反対はしなかった


 だが、馬鹿な息子だが、その孫には何の罪もない。純子は小さいころから活発な娘で、儂のお気に入りだった。純子も儂を慕ってくれていると思っていた。高校のインターハイの陸上の代表選手と聞いて、嬉しかった。こんな喜びはない。能力があるなら、才能を伸ばしてやる機会を、儂はできる限り与えてやるつもりだった。オリンピックなどに出たらと、じじ馬鹿な話と思われるだろうが、本気で考えた。儂は純子を生涯、必ず守ってやると誓ったのだ。それが、いじめで自殺だと、聞いたときは、気が動転し、気絶しそうになった。そして誓った。いじめが事実なら、儂は絶対に許さん。どんなことをしても罪は償わせる。儂は、あらゆる手段を使って、光亮高校の調査をした。学校、教育委員会、警察、興信所、暴力団を使って、関係者を追い詰めた。結果は、最悪だった。光亮高校は、いじめの温床だったのだ。しかも、それを隠蔽しようとしていたのだ。儂は絶対許さん。司直の手など借りぬ。儂が直接、手を下す。光亮高校は多少時間がかかるが、必ず潰す。ただし、純子のいじめに関わった高校生は殺さぬ。その肉親を殺す。自分の行った行為で、肉親が死ぬのだ。肉親を殺された人間の痛みを、知ってもらう。だが、それを感じぬものもいるかもしれない。だが、彼らの一生を潰す。彼らはまともな学校にも行けない、まともな職業にもつけない。それでこそ、自分の犯した罪が、どれほどのものか知るだろう。その苦しみを与えることで、死よりもつらい人生が待っているだろう。儂を怒らせたら、どうなるか知るがいい。だが、一人例外が居る。陸上部の顧問だ。お前は許さん。無能で、役立たずの教師など、この世で必要ない。儂は、お前が憎い。お前は学校で一番に純子に近かったし、部員のいじめを止めうる立場にあったはずだ。この無能者め。


 儂にかかれば、お前ら全員を葬ることなど造作もない。だが、お前らにも生きるチャンスを与えることにした。ゲームに勝てば、お前らにも希望はある。それもまた運命だろう。

そして、儂はゲームをするためだけにW財団、すなわちWOLF財団を立ち上げたのだ。そして、元は研修所だった、この建物を改装した。まずはお前たちを金で誘い、集めてゲームを行わせる。人狼ゲームだ。通常の人狼ゲームとは違う、実際に人が居なくなり、殺されるゲーム、殺し合いのゲームを三億という、いささか一般市民には法外な金を用意した。これでお前らは食いつくと思ったのだ。そして殺し合いをリアルにするために、紺野さんと儂がゲームに参加することにした。紺野さんと儂が居なくなった時点で、ゲームを中止するという選択もあるが、そうはならない。二人が居なくなっても、誰かが殺されても、神に、いや悪魔に誓って、ゲームは続行される。人間とはそういう生き物なのだ。そして儂は純子のいじめとはまったく関係のない強欲な人間を混ぜることにした。このゲームの参加者は、どうしても金が必要な訳があるはずだ。ゲームで、このいじめと関係のない人間を殺せば、罪ある人間の誰かは生き残ることになる。これがチャンスだ。


儂もまた死をかける。実は儂はがんだ。余命は短い、モルヒネを常用している。儂はこれを利用する。そして死ぬ寸前まで、いくつもりだ。だが、儂が死んでも、あとは結城と武藤と、紺野春子さんに任せる。それで話は決まった。すべては運命に身を委ねるのだ。儂はそう決心したのだ。そしてもうひとつ一興を講じた。ゲームの死に、密室トリックを使うのだ。死を不可解な状況のもとで執行する。このトリックが分かったら、このゲームの迷路を潜り抜ける道が分かるかもしれぬ。見破った者こそ三億の価値があるかもしれぬ。そして紺野さんと、儂がグルだと言うことが分かるだろう。そうなったら、デスゲームは終わる。だが三億を賭けたゲームを続けるかどうかは好きにするがいい。さてどうなるかな。まあ生き残った者は幸運と思うべきだろう。私は運命に身を試す。言っておくが、お前らが死んでも儂は警察には捕まらない。儂の代理はいくらでもいる。今の世の中には金のために死んでくれる者などいくらでもいる。歪んでいると言いたければ言え。だが、これが儂の人生の最後の死を賭した仕事だ。さあ、結果はどうだったかな」


そこで動画は終わった。

藍田さんの狂気は凄いとしか言いようがない。愛する者を失ったとき、人は鬼にも蛇にもなりうるわけだ。だが狡猾で歪んでいる。

いじめに関係の無い人間までも巻き込んで、この老人こそ運命を弄んでいる。私は心からぞっとした。このゲームは、いじめに、まったく関係のないものも犠牲になる可能性があったわけだ。そして動画の藍田さんは大雪と地震には触れていない。つまり、動画は、私たちが山荘に着く前に作成されたものだろう。


 私は結城さんに聞いた。

「大雪は計算の内ですか」

「この地方は、かなりの確率で、この季節、大雪になります。雪国ですから。しかし大雪にならず、また地震が起こらなければ、あるいは」

「あるいは」

「山荘に着いた時点で、皆さまを亡き者とするということになったかと」

 私は声を失った。大量殺人の可能性があったということか。

 結城さんは続けた。

「その場合、いじめに関係の無い方々が犯人ということになったと思われますが」

 私は、殺された側か、私を殺す犯人は、やはり茶川君あたり。主犯は緑川さんあたり。実際手を下すのは武藤さんが率いる殺人軍団ということか。私は聞いた

「大量殺人のストーリーも出来ていたんですか」

 結城さんは冷たく頷いた。

「はい、我々は二年をかけて計画を練ったのです。大量殺人の方が簡単だったでしょう。また、初回に会長、紺野さんがそれぞれ追放あるいは襲撃を受けなければ、一気にことを決めていたかもしれません」


 緑川さんは唇を噛んで、結城さんを睨んだ。

「わたしの推理は甘いと仰るんですね」

 結城さんは当然という顔になった。

「そのとおりです。緑川さんの推理は、その点だけ間違っています」

 藍田、紺野が最初に居なくならなければ、大量殺人か。私たちは結局運がよかったのか。この事実は、真に戦慄する。

 結城さんは淡々と続ける。

「実は、藍田会長は、一回、一気にことを決めようとしました。あの地震が起こる前、一回、殺人を行使しようとしました、が、地震が起こった」


恐るべきことを淡々と言う結城さんは、実に恐ろしい。そ我々は集まった時点で、生殺与奪の権利は藍田さんにあった。大雪も降らず、地震も起こらなければ、我々は、殺人犯、あるいは殺人被害者になっていたかもしれない。私達は、間一髪で殺されるところだったのだ。

「地震は、もちろん偶然ですよね」

「もちろん偶然です。だが地震が起こったのです」と結城さんは、微かに笑って頷いた。この場面で笑うというのは、怖い。私は結城さんに犯罪者の影を感じた。


 雪と地震で、山荘は完璧に孤立した故に我々がデスゲームを行うことになった。まさに運命としか言いようがない。

「藍田さんは死んだんですね」と私が聞くと、

「はい、藍田会長は、あの朝以来、体調が急変して亡くなりました。モルヒネの中毒死です」と結城さんは答えた。

「藍田さんの死で、終わりにならなかったんですか」

「ゲーム続行は、藍田会長の意志です。私たちは命令にしたがっただけです」

 やはり藍田さんは、自分の死は織り込み済みか。

「灰田さんは、どうなったのですか」と桃井さんが結城さんに恐る恐る聞いた。結城さんは顔色を変えずに言った。

「灰田さんのことは、気にせずとも良いでしょう。あなたがたには二度と会うことは無いでしょう」

 青木さんが、青ざめた顔で聞いた。

「それは、いったい、どういうこと」

「あなたがたの知らないところに居ます。しかし、私は警察には知らないと言いますが」

「紺野さんは、警察にはどう言うんです」

「紺野さんは、第一回目で追放されて、山荘から消えました。だからここには居ません」


 私は、それを聞いて、結城さんに問いかけた。

「紺野さんは、いったい何者なんです」

「紺野さんは相馬純子のお姉さんです。結婚されていますが」

 すると黙っていた紺野さんが口を開いた。

「もう、私から、何も付け加えることは無いですが、残念なのは、

意外に早く、ことの真実が分かってしまったことです。私は、あなたがたが、一人の少女を殺した人間の肉親であるにも関わらず、金のために必死で殺し合いのゲームをするところを見たかった。人の死を軽んじたあなたがたは、それゆえに、自らの手を汚して、人を殺すさまを眺めて、そして一人残らず、この世から消してしまいたかった。しかし緑川さんを引っ張り込んだのは私たちのミスだった。しかし黒田さん、あなたを一番目に追放か襲撃の的にかけたかった。だが、それではゲームが成り立たないと藍田さんに言われた。私一人では、何もできない。だから、このゲームに乗った。すべては藍田さんの手の中にあった」

 紺野さんはそう言うと、ホールから静かに去って行った。


 やはり私が、一番憎いか、そうだろうな。紺野さんにすれば、この中で直接の加害者は私だけだ。だが、私は生き残った。

 桃井さんが怪訝な顔で聞いた。

「でも紺野さんは、今までどこにいたんですか。私たちの知らない部屋にでもいたんですか」

「そんな部屋はございません」

 緑川さんが、ハッとしたように口を開いた。

「誰も、近づかなかった部屋がある」

 結城さんは、ほうと目を見張った。感情をあらわにしたのは二回目だ。緑川さんは結城さんに問うた。

「死んだ藍田さんの部屋ですね。最初は管理人室、しかし、私たちが紺野さんの行方不明で騒いだあと、多分隙を狙って藍田さんの部屋に入った」

「ご明察のとおり」


 私が管理人室を訪れた、最初の時に多分、紺野さんが居た。だから、結城さんは管理人室に私を入れないで、紺野さんの部屋に行った。その時点で、全員が紺野さんを探してホールには誰も居なかった。その隙を狙って、もはや関心が薄れた藍田さんの部屋に入った、そういうことだろう。

 茶川君がチッと舌打ちをした。

「死人の居る部屋にいるなんて誰も思わない、わけか」

 緑川さんは鋭い目で問うた。

「赤城さんは殺人ですよ。どう決着させるのですか」

 結城さんは、ちょっと笑ったように見えた。

「答える義務はございませんが、探偵の緑川さんに敬意を表してお答えしましょう。赤城さんは、この山荘に入った何者かに、殺された。緑川さんの言ったトリックを使って、そして逃げた。外に足跡があったので明白です。私どもには関係ない。という訳です」

 緑川さんも顔を青ざめていた。

「つまり、その犯人も、何らかの動機も用意されているわけ」

 結城さんは、頭を下げて言った。

「そのとおりですが、これ以上の詮索は無用というよりは、おやめになった方がよろしかろうと思います」

 桃井さんが、また恐る恐る聞いた。

「灰田さんと赤城さんも、その純子という人のいじめに関わった人ですか」

「灰田さんは、いじめのあった陸上部キャプテンの灰田明子の母親。赤城さんは、いじめの首謀者の赤城涼子の母親です」

 まさに復讐だ。いじめの当事者ではなく、その親に狂気は放たれた。私を除いては。

「ほかの人たちは、どういう関係ですか」

「それは本人に聞くのがよろしいかと」

私は、青木、赤城、白田、金井の四人を見た。皆、呆然とした顔だ。すると緑川さんはフーとため息を吐いた。


「これは、本当に煙草を吸いたくなった」

 え、じゃ、話し合いの終わった後のあれは何?

「緑川さん、煙草を吸うんじゃないんですか」と私が聞くと、

「ああ、あれ、芝居なの。私、派遣やっているけど、実は小さな劇団の役者、だからみんな芝居なの。私がホステスなわけないでしょ」

 うーん、さすが役者、騙された。

「おねーさん、あんた大したタマだ」と茶川君が、本当に感心したように言った。

「それはどうも」

 私は座っている皆に向かって言った。

「さきほど結城さんがゲームは終わっていないと言いました。そこでゲームを続行しますか。止めますか」

 私の言葉に茶川君が、すぐに反応した。

「GMが、続行と言っているんだ。人狼ゲームは続行というからには三億はまだ取る可能性があるっていうことだ」

 緑川さんが聞いた。

「茶川君、人狼ゲームをやるというの?」

 茶川君は笑った。ここで笑えるのは凄い。

「俺はイジメには関係ない。俺はまだ生きている。三億が欲しいだけだ。それに全員脱落したら何が起こるか分からねえぜ。俺はGMが一番怖い」

 ありえるな。結城さんは、いったいどういう人生の経歴を踏んできたのか、どれだけの修羅場を潜ってきたか。

 だが緑川さんが手を挙げた。

「その前に知りたいことが、あります。相馬純子さんという少女の自殺から、このゲームは始まったと結城さんは言いました。相馬純子さんを知らない私には、いったい何が起こったのか分かりません。相馬純子とは、何者。いじめによる自殺、これ、いったい三年前何が起こったのか、教えてください。いいですね結城さん」

 結城さんは頷いた。

「今日の午後九時までに投票があれば、何の問題もありません」

「だ、そうです。黒田さん」と緑川さんは私を見た。やはり、ここは私が適任だろう。

「もはや話すしかない、金井さん、青木さん。白田君良いですね」

 三人は黙っている、しかし止めろとは言わない。


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