白田対緑川・決着
人間は、決断した後、必ず後悔する生き物だ。白田君は部屋に帰って、再度考えたのだろう。白田君はきっと前を見て言った。
「緑川さんは人狼です」
何! こいつは驚いた。この状況で、それを言うのは金井、茶川、人狼説より、突拍子もない。みんなを敵に回すぞ。
白田君は、テーブルに置いたノートを手に持つと、それをめくりながら言った。ノートに答えがあるのか。
白田君は続けた。
「結論から言いましたが。灰田さんは人狼です。だが、人狼はもう一人いますね、それは緑川さんです。皆さん、今日、緑川さんに説得されてゲームをやっているわけですよね。そりゃ、やりたいでしょ。緑川さんは人狼なんですから。緑川さんは味方を切って、一人勝ちを狙ったんです」
それは、おかしい。私は反論した。
「君、それはⅩ仮説だろう。人狼は連携すると言っていたじゃないか」
白田君は、平然と答えた。
「はい、僕なら、連携するということです。だが、緑川さんはギャンブラーです。灰田さんを騙し、皆を騙して、ここまで来た人狼です」
当の緑川さんは、一応、平静な顔をして白田君をみているが、心中はどうか、分からない。確かに緑川さんは昨日来、多分誰にも疑問符を打たれてない。だが考えてみたら、緑川さんは自ら、それを演出したと言えなくもない。
白田君はさらに続ける。
「第一に、緑川さんは人狼ゲームの経験者です。アドバンテージを握っている。第二に、緑川さんは、皆、人狼ゲームを勉強しているから、同じだと言った。これは明らかにおかしい」
緑川さんは、美しい瞳を煌かせた。
「何故です?」
「つまり、皆を錯覚させた。ゲームの経験値は、やって初めて得られるものです。黒田さん、体育教師だったんですよね」
おや、私に向けてきた。
「そうです」と私は答えた。
「では聞きますが、マラソンを見て知っているものが、すぐにマラソンを走れますか」
私は苦笑した。なるほど。
「いや、走れません」
「何故ですか」
「トレーニングしないと走れない」
白田君はうんと頷いた。こいつ、結構詭弁家か。
「人狼ゲームも同じです。経験していなければ、うまくいかない。だから、緑川さんの言葉は、ごまかしです。経験者なら、頼りにもされるが、恐れも抱かせる。そのどっちも、持たれたくなかった。何故か、緑川さんはⅩ仮説を利用して、占い師狩りをしたんです」
緑川さんが反論する。
「Ⅹ仮説を考えたのは、藍田さんであり、紺野さんです。それをⅩ仮説としたのは黒田さんです」
また火の粉が飛んできた。仕方が無いな。
「緑川さんの言うように、Ⅹ仮説と名付けたのは私です」
白田君は、私をまっすぐ見た。
「名前を付けたのは、黒田さんかもしれませんが、皆の前で、Ⅹ仮説と言ったのは緑川さんです。緑川さんは、とっくに気がついていたはず」
緑川さんは、平然としている。
「だから、何」
そうだ、だから何だと言うのか。
「緑川さんは言いました。今、行われているゲームは、尋常のゲームではないと、これを何回か口に出している。ということは、Ⅹ仮説なる論を、緑川さんは初めから分かっていた。これを利用して、仲間の灰田さんを二回目は占い師に仕立て上げた。茶川君が言ったように、占い師を名乗る人狼は最強です。ただし、占い師と信じさせるには、Ⅹ仮説を信じさせなければならない。緑川さんの行動は、この意図に沿っているんです」
「私の意図とは何」と緑川さんが聞くと、
「あなたは占い師を名乗る人間を待っていた。そして紺野さんと藍田さんが出てきたんです。あなたはこれを待っていた」
「私の行動に、いや言葉に、そのような意図はありません」
いやと白田君は首を振った。
「まあ、そう言うでしょうが、あなたは、もうひとつ策を練っていた。一回目の段階で灰田さんを司会にして、皆に頼りの人物と作り上げた。一回目で灰田さんを追放しにくい雰囲気に持って行った。常に灰田さんが進行し、あなたが補完する、そういう図式があったのではないですか」
緑川さんが反論する。
「私の言葉に灰田さんを補完するものがあったというのですか」
「あなたは灰田さんが能力の説明に不備があったことを、一回目から知っていた。そして一回目はスルーし、二回目にとっておくことにした」
「あの時、話し合いは終わっていました」
「話し合い以外に話してはならないというルールは無いと言ったのは、緑川さん、あなたです。あの時言わなかったのは灰田さんが人狼と疑われるかもしれないから、あなたは黙った。そして訂正する人間が現れないかと網を張ったんです」
「訂正する人は居なかったですよ」
「それは結果論です。緑川さんは人狼だから、緑川さんは一回だけ灰田さんを守ったんです。そして紺野さんを追放し、藍田さんを襲撃した」
茶川君が、珍しく手を挙げた。
「俺は、緑川が人狼だとは言ってないぜ。でも白田の意見も面白いな」
緑川さんは茶川君を見ながら言った。茶川君のような柄の悪い人間に、女性は普通忌避するものだが、緑川さんは平然と受け答えする。つまり慣れている。
「赤城さんの占いでは、私は人間でしたが」
白田君は、すかさず言った。
「赤城さんは偽占い師です」
「何故」
「先ほども言いました。赤城さんは実は非Ⅹ仮説論者だからⅩ仮説を唱えて占い師を装う人を待っていた。赤城さんは偽占い師です。赤城さんの占いは嘘です」
茶川くんが「はーい質問と」と手を挙げた。
白田君がじろりと茶川君を見て言った。
「何」
茶川君が、さきほどの騒ぎを、けろりとも思わない顔で言った。
「あんた、そういうけど、あきらかに美人のおねーさんは、灰田を追い込んでいたぜ、あれ計算だって言うの」
白田君は頷いた。
「そうだ」
「何故、そう思う」
白田君は冷静に返す
「言ったろ、一回目で、緑川さんは、灰田さんの説明の不備に気が付いていたんだ」
「何故、そう思う」
「考えてみろ。灰田さんが言い損ねたのは、第一回目の討論だ。緑川さんはこの時に気が付いたはずなんだ。二回目に緑川さんが実は私は知っていましたなんて本来はかえって疑わしいんだ。でも、緑川さんは二回目に言っても、誰もおかしいとは言わなかった。その理由は何だ」
「俺に聞かれてもな、分かんねえ」
「思い出せ、あの時、灰田さんは金井さんと言い合っていた。つまり、皆どっちかが疑わしいと思っていた。そのタイミングで、緑川さんは灰田さんの不備を指摘した。皆、どっちか迷っていたタイミングで答えを出してやったんだ。灰田さんは人狼だと」
「裏切られて、灰田さんは言わなかったぜ、本当は美人のお姉さんが人狼だって」
「あの時点で、そう言っても、何の説得力もない。それに追放された者がゲームの情報は言ってはならない。そういうルールだからな。これを破ると、恐ろしいことになる。そうですね、結城さん」
結城さんは、この疑問に即座に答えた。
「そうです」
なるほど、結城さんはしっかり話は聞いているわけだ。この人怖いな。
「ちぇ、論破されちゃったよ」と茶川君はそっぽを向いた。場の雰囲気が変わった。白田君、説得力があるな。それにしても緑川さんが人狼か、私がそういうふうに思わなかったが、これも緑川さんの計算か。
だが、緑川さんは反撃を開始した。
「白田君の論理は、結局、灰田さんが人狼であり、灰田さんと対立した私が、実は人狼で、初めから一人勝ちを狙ったものという仮定で話しているようですが、仮に私が人狼であったとしても、何故私が一人勝ちしたいと思っているか、白田さんはその根拠を示していません。仮に私が人狼としても、一人勝ちしたいと思わなければ、灰田さんを追放する必要は無いんです」
なるほど、確かに、白田君の論は、緑川さんが一人勝ちしたいというⅹ仮説に拠っているが、その根拠は十分ではない。
白田君は、ちょっと顔を硬くした、ここが正念場だ。
「紺野さんと藍田さんは、占い師と名乗った、それはⅩ仮説があったから、つまり自分の行動の根拠です。一方緑川さんは、自分は人間の振りをして、もともと、占い師が告白する根拠として使うべきⅩ仮説を、人狼、人間に共通する論理に仕立て上げた」
へりくつもここまでくると、だんだん信じたくなるが、白田君考えてきたな。
「でも、Ⅹ仮説も絶対ではありませんよ」と緑川さんが主張すると、
「絶対の真理なんて存在しません。だが、正しいかもと思わせることができる。だから灰田さんを占い師に仕立て上げたんです。あの時点で、仮に非Ⅹ仮説論者でも、灰田さんが偽だと断言できたと言えた人いますか」と白田君は言って皆を見回す。
そんな人いるかと思う。白田君はさらに続ける。
「灰田さんに釣られて、何人かの占い師が出ればいい。その中に確実に本物はいる。そういうことです。占い師を追放、あるいは襲撃すれば人狼に有利なのは明白です」
緑川さんは、すかさず反論する。
「灰田さんを、人狼の私が追放したら、私一人になります。灰田さんが抜けて、人狼1対市民6です。まったく不利です」
「いいや、藍田さんと紺野さんは、多分裏切り者でも、異常者でもない。とすると、人間6の中に、純粋の人間は4、充分勝利の目はあります」
私は白田君に聞いた。
「その状況で人狼が勝てると何故思うんです」
白田君は答えた。
「人狼は一人ですが、裏切り者は味方です。これが誰か分かれば、有利です。また異常者は厄介ですが、異常者には弱点がある」
「異常者の弱点とは何です」
「異常者は、人間だから襲撃を出来ません。皆を追放するしか手は無いんです。だから襲撃を恐れるんです。ということは人狼に目をつけられてはならない」
なるほど、異常者も制約を受ける。人狼に襲撃されたら、何にもならない。
「だから、実質は三対四なんですよ。これはギャンブラーならやる」
だが、緑川さんは白田君を見据えて言う。迫力あるな。
「白田さんの論から言うと、占い師、騎士、裏切り者、異常者が誰か分かっていないと成り立たない」
白田君は冷たい目で、緑川さんを見た。
「緑川さん、だいたい検討ついているんじゃないですか」
緑川さんは、ちょっと視線を白田君から目を外した。まるで、この二人の勝負は囲碁か将棋の対戦みたいだ。我々は観衆か。
「私は、まだ分かりません」
「嘘だ、少なくとも占い師は分かるはずだ」
緑川さんはちょっと考えた後言った。
「占い師はね」
「誰です」
「茶川君」
指された茶川君は「ひゅー」と口笛を吹いた。図星か。確かに、白田君の言うことを全否定していてはまずいと思ったのだろう。しかし、茶川君=占い師は、私も含めて、かなりの人が思っているだろう。しかし、
「今、緑川さんは嘘を言った」と白田君が言った。
「何故」
「茶川君が、本物なら人狼は桃井さんになる。今、あなた、それを狙った」
確かに、茶川君が占ったのは桃井さんで、結果は人狼だった。
「確かに、そうなりますね。私は桃井さんが人狼だと思っている」
「やっぱり、予想したとおりだ。僕は、あなたがそう言うのを待っていた。あなたも言う機会を待っていた。あなたが人狼だからだ」
「見解の相違ですね」
おや緑川さんが逃げた。多分初めてだ。白田君はさらに追及する。
「裏切り者は、誰ですか」
「白田さん、あなたです」
白田君は驚いたように目を見張った。
「私が何故、裏切り者ですか」
「簡単な算数です。人狼の灰田さんを擁護して、赤城さんを偽占い師とした、あなたは人狼か、裏切り者です。そして桃井さんが人狼なら。あなたは裏切り者です」
白田君は余裕の笑みを浮かべた。なんか皆、殺人があったことを忘れて、ゲームに入り込んでいる。
「ほらね、緑川さんは、少なくとも、皆の正体の検討をつけているんです」
金井さんが手を挙げた。
「だったら、白田さんが、裏切り者なんですか」
「もちろん、違います」
「だったら、何を言いたいですか」
「もちろん、緑川さんは、僕を裏切り者にしたいんです。本当の裏切り者を隠して」
金井さんは目を瞬いた。当惑したようだ。
「では、誰が、裏切り者なの」
「あなたです。金井さん」
「私」と金井さんはびっくりしたようだ。これは本物か擬態か。
これで、緑川・金井VS桃井・白田の図式が出来たわけだ。緑川と桃井が人狼候補。金井と白田が裏切り者という訳だ。だが、この中でグループを作っていたのが明白なのは金井さんだ。金井さんは赤城さんと組んでいた。すると緑川さんは聞いた、
「白田君に聞きます。金井さんは裏切り者なのに赤城さんと手を組んだ。つまり騙したことになりますね」
白田君は当然という顔になった。
「そうです」
「何のために」
「人狼は、緑川さんと灰田さんです。金井さんは裏切り者だから、残りは人間です。だから赤城さんを占い師として仕立て上げた。多分、赤城さんは、偽占い師ですから、いずれぼろが出る。これで人間を追放できる、そう考えたんですよ。裏切り者の務めは、人間を追放することですよね」
私は金井さんを見て聞いた。
「金井さんは、白田君の意見に、どう思われますか」
金井さんは顔を引き締めて言った。
「赤城さんと組んだのは、あくまで、人間を守る行動です」
こいつは判定が難しい。緑川さんが人狼だと言うのは、一定の正しさがあるように思えてきたが、裏切り者は分からない。
そして自信に満ちた顔で白田君は言った。
「僕が、決定的に、緑川さんが怪しいと思う理由があります」
決定的だと、何だ、それは。皆が一斉に白田君を見る。
「皆さん、思い出してください。今日の朝です。スクリーンに映された赤城七瀬の名を、前の晩に灰田さんが追放されました。そして襲撃されたのは赤城さんです。朝にスクリーンで、それを知った。そして二人が、その場に居ないことに気が付いた。これは紺野さん、藍田さんと、まったく同じです。そして我々は、二人の部屋に向かった。すると、どうだったでしょう」
白田君はいったん話を切った。こいつもったいぶっているな。ミステリーじゃあるまいし。白田君は続けた。
「我々が、女子の部屋の空間に入った時、そこに居たのは」
私はハッとした。こいつは、うっかりしていた。そこに居たのは。
「そこに居たのは、開けられた灰田さんの部屋のドアと赤城さんの部屋の前にたたずむ、ある人間の姿です」
なるほど、どさくさに紛れて、うっかりしていた。確かにおかしい。
「我々は、あの朝、灰田さんと赤城さんを、ホールでは見ていない。しかし、もう一人、ホールに居ない人物がいた」
もはや言うまでもない。
「それは緑川さんです。緑川さんはホールに居なかった、スクリーンを見ていない。なのに、赤城さんの部屋の前に居た」
緑川さんは、黙って唇を噛みしめている。これは、珍しく動揺しているか。
「スクリーンを見ていない緑川さんが赤城さんの部屋の前に何故、立つことができたか、それは緑川さんが人狼だから。人狼だから、襲撃した相手を知っているのは当然ですよね」
これは、決定的だな。緑川さん、どうする。緑川さんはゆっくりと口を開いた。
「私は、皆さんが、集まる前に、スクリーンを見て、知ったのです」
白田君は、いやと首を振った。
「一番に、スクリーンを見たのは、僕です。あなたは居なかった」
緑川さんの顔は、明らかに動揺していた。
「いえ、一番は私です」
「それで、誰とも会わなかったと」
「そうです」
そいつは、思い切って疑わしい。緑川さんがスクリーンを見て、行動したとすると、かなり早い時間にホールにいたことになる。だが、白田君は言った。
「私は、午後六時半ちょうどにホールに入ったんです。その時、誰も居なかった。その後皆さんが来ましたが、緑川さんは来なかった」
緑川さんはきっと前を見つめて言った。
「私は、スクリーンを見て、赤城さんの襲撃を知った。そして、灰田さんの部屋に行き、鍵が掛かっていないことを知って、部屋の中に灰田さんが居ないことを知った。そして赤城さんのことが気になって、赤城さんの部屋に行ったところ、皆さんが、来たんです」
そう言うしか、あるまい。だが、白田君は更に追及する。
「緑川さんの行動を立証できる人はいますか」
皆、黙っている。これで緑川さんのアリバイが無いということになる。緑川さんの色白の顔が明らかに固くなっている。すると白田君はすばやく提案した。
「皆さん、投票しましょう」と白田君が言った。確かに時間は迫っている。白田君をとるか緑川さんをとるか。
結城さんのカウントダウンが始まった。
「ファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン、ゼロ」
投票は緑川→桃井、金井→桃井、桃井→緑川、白田→緑川、ここまでは当然割れる。残る三人が問題だ。そして茶川君→緑川、青木さん→金井、最後の私は、葛藤の末、緑川さんを選んだのだ。
緑川四票、桃井二票、金井一票、緑川さん追放だ。やはり、赤城さんの部屋に立つ緑川さんが忘れられない。ゲームに沿えば、ここは緑川さんしかあるまい。
皆、結城さんを見た。
ゲームオーバーのコールは無い。
当の緑川さんは「フー」とため息を吐いた。そして青木さんに向かって言った。
「青木さん」
「はい」と青木さんは困ったように返事をした。やっぱり居心地はよくないらしい。
「青木さん、煙草、一本頂戴。ライターは良いわ。私持っているから」
緑川さん、煙草を吸うのか。
青木さんが、ポケットからラークを一本取り出して緑川さんに渡した。緑川さんは長い人差し指と中指に一本の煙草を挟み、紅い唇に持ってゆく。形の良い唇がすぼまり、ニコチンを吸い込み、そして紫煙を吐き出す。煙はゆっくりホールの天井に昇っていった。
「止めようと思ったけど、駄目ね」と緑川さんは美しい笑みを浮かべる。ちょっとしたクラブのホステスのように、それは様になっていた。煙草を口に咥えたままバックから黒い携帯の吸殻入れを取り出し、灰をその小物に落とす、その様は、確かに素人ではない。
「私、夜は、六本木のクラブで働いているの。キャバクラじゃない。ちゃんとしたクラブよ。それで、三百万の売掛金、パーにされたわけ、私もお金が必要なの」
茶川君も、さすがに目をぱちくりして、驚いたようだ。
「あんた、素人じゃないんだ」
「そうよ、悪い」
「派遣業じゃなかったのか」
「昼間の派遣の時給が安すぎるのよ、だから夜は接客業」
「へー、美人は得だね」
「ありがとう」
私は二の句が継げなかった。どうりで腹が座っているわけだ。六本木で、海千山千の親父の相手をしているということだ。
「まあ、残念だけど、仕方ないわね」
私は、かろうじて聞いた。
「あなたの目的は、金」
緑川さんは頷いた。
「そうよ」
「あなた、金のほかにゲームには何か別のものがあると言ったじゃないですか」
「そう、私には分からないけど、三枚の画像の意味を知っている人、いるわよね、この中に」
私はうっと詰まった。
「多分、その意味が分かっている人には、なにか思い当たることがあるんじゃないかな」
「そんなことは、終わって見なければ分からない」
「そうよ」と緑川さんは頷いた。何だか、緑川さんの言葉使いが茶川君みたいになってきた。
「でも、追放されたら、しょうがない」
しかしと私は思った。
「あなたは、人狼ではないんですか」
美女は意味深な笑顔を湛えた。
「さあ?」
結局緑川さんが人狼であっても、無くてもまた襲撃の夜が来る。
「今晩は、皆ホールに居ましょう」
緑川さんはきらり真剣な目をした。
「すると多分、怖いことになる。もう、私たちは逃げられない」
緑川さんは黙って立った。そして、緑川さんは、ドアの向こう側に消えた。
皆、一様に、疲れた顔になった。多分皆、終わりと期待したはずだ。私たちは根本的なところで間違っているのかもしれない。
すると、白田君、茶川君が立ち上がった。
「どこに行くんですか」
茶川君が憮然と答えた。
「部屋に帰るんだよ」
茶川君は帰って行った。白田君は黙って、男子の空間に帰ってゆく。残る男は私と青木さんだけ。妙な静けさが漂った。
残るは、青木さんと私だ。青木さんと残っても意味は無い。
「どうなるんでしょうね」と青木さんはぼやく。
「明日、誰かが死ぬんですよ」と捨て鉢に、私は言った。青木さんの顔が青くなっている。
「殺人犯が居ると言うんですか」
「赤城さんを見たでしょ、あれは殺人だ」
「もしかして、赤城さんは自分で死んだんじゃ」
「自殺なんて、ありえない」
「だって、どうやって、殺したんです。ドアも窓も鍵が掛かっていたじゃないですか」
ここで分からなくなる。襲撃された者だけが不可解な死を遂げる。この意味はいったい何だ。結城さんは絶対何か知っているはずだが、あの鉄面皮を崩せない。腕力を使えば、必ず武藤君が出てくるに違いない。
青木さんが立った。
「もう、私たち、何もできないんですよ。コーヒーでも買って、私は部屋に戻ります」
ホールに、私一人残った。今十時二十分前。ただ机の上のテミスの見えない眼が、確かに私たちをみていた。




