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狼の山荘  作者: 東雄
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紛糾・討論

 結城さんが、この騒ぎにも平然と自分の位置に立っている、このひと感情は無いのか? すると緑川さんが結城さんに、言った。

「結城さん、お願いがあります」

「何でしょう」

「皆に、何か暖かい飲みものを、もらえませんか」

 

 結城さんは、ちょっと考えてから、頷いた。

「分かりました、武藤に持ってこさせましょう」と厨房のあるドアに向かった。ほう、武藤さんが来るか。

 しばらくして結城さんと武藤君が、盆に七つ、マグカップを置いて出て来た。そして無言で皆に配った。武藤君が青木さんと茶川君を、じろりと見たのを私は気が付いた。次は俺が出るぞという意味だろう。 私には睨まなかった。良かった。この人、本当に怖そうだ。白田君と二人で立ち向かっても勝てるかどうか分からない。

 カップはミルクだった。カフェインは無用ということか。確かに、暖かいミルクは心を落ち着かせる。

「話を進めていいですか」と緑川さんが言うと、否を言う人はいない。茶川君と青木さんはふてくされているが。緑川さんは続けた。

「今、ここに二人の自称占い師がいます。どちらかが、あるいはどちらも嘘かどうか判断する必要があります」


 白田君が手を挙げた。

「茶川君は桃井さんを人狼として、青木さんは金井さんを人狼としたわけですね。桃井さんはどうですか」

 桃井さんは、例によって小さい声で言った。

「私が人狼なら、灰田さんを追放しません。何故なら、灰田さんは人狼だからです。投票した私は人狼ではありません」

 だが、茶川君が反論する。

「だから、あそこで灰田を擁護したら、仲間だってばればれだ。仲間を切って、一人勝ちを狙ったんだ。でも、それは最後に緑川に灰田が人狼だと証明されたからだ。それに、あんたは騎士も気にしていた。あんた、声は小さいし、外見も小柄だから、目立たないが、ところどころで、人間の大事な情報を慎重に探っていたんだよ」

 桃井さんは、泣きそうな顔になった。

「もう、お判りでしょうが、私は人間グループのために、やっていました。どうしたら人間グループが勝つか、それだけです」

 最後は悲鳴だ。こいつは、まいった。確かに桃井さんは私たちのグループだ。ここは味方をすべきか、否か。

 すると青木さんが手を挙げた。多少、落ち着いたか。

「金井さんは、灰田さんとグルです」

 ハア、あれをどう見たら、グルなのか。緑川さんは面食らったように目を瞬いた。

「金井さんと灰田さんは明らかに、対立していましたよ」

「だから、わざと対立していたんですよ」

「何故ですか」

「ああやって、対立してれば、誰だって、どっちが正しいかってなります。あの時点で、結論が出る話じゃない。すると、どうなります。この結論が出ないとすれば、占いを待つしかないじゃないですか。あの時点で、どっちも占われてないから、翌日を待って、次の回に託すってなるんじゃないですか。金井さんは灰田さんを騙したんです」

 だが、桃井さんが疑義を唱えた。

「でも、灰田さんが追放されましたよ」

「それは緑川さんが、灰田さんを追い込んだからだ、だが灰田さんは人狼じゃない。人狼は金井さんと茶川君だ」

 青木さんの本音がでた。茶川君はさすがに、怒った顔になった・

「じゃ、俺が、人狼だって根拠言えよ!」

 青木さんは目を剥いて、まくしたてた。

「緑川さんが言ったろ、お前が、一番強欲だからだ。お前はゲームを続行させて、金を狙っているんだ」


 結局、青木さんは緑川さんの言ったことを利用しているにすぎない。案の定、緑川さんは冷たく言った。

「それ、私の意見まる乗りです」

 青木さんは、緑川さんにも、怒鳴るように言った。

「だから! 一番、強欲なのは、こいつなんだ!」と茶川君を指す。

 私は青木さんの服の袖を引っ張った。

「女性に、怒鳴るのは、いけませんよ」

 青木さんは、うっと詰まった。

「…すいません」

 言い方は、ともかく、青木さんの言にも聞くべきところはある。金井と茶川が人狼説は誰も考えなかった。しかし茶川君が強欲なのは初めっから分かっている。これは、人狼であろうが人間だろうが、正しい主張だ。つまり、俺は口に出しているだけ、腹の中は、皆と一緒だ、俺は特別じゃないと常々主張している。

 私は青木さんが何と言おうと、問題はほぼ人狼認定の灰田さんのパートナーは誰かということだろうと思う。私は白田君だろうとは思うが、まだ六人いる、その中の一人を見分けるのは難しい。裏切り者、異常者が居るとして、残りは四人しか味方はいないのだ。裏切り者は人狼の味方をして、異常者は、とにかく生き残りにかけてくる。

 金井さんが手を挙げた。この人も無表情だ。怒っている。そりゃそうだ。自分を人狼と指した青木さんが暴力に出たわけだから、怒るわな、だが金井さんが感情的になったら、収拾がつかなくなる。つまり子供のケンカになる。金井さんはきっと青木さんを睨んで言った。

「私が、人狼とされました。これについて意見を言っても良いですか。緑川さん」


 やっぱり今度は緑川さんが議長だ。

「別に、私に断らなくても良いと思います」

 おや、バチバチだ。案外、緑川さんも金井さんを疑っているか。

「まず。私が灰田さんとグルだというのは、明確に否定します」

 まあ、そう言うだろうな。

「私が、そういう根拠は、私は赤城さんと組んでいたことです。赤城さんは、その…なんというか襲撃されました。したがって人間です。それと組んでいた私は人間です」

 まあ、感情的にはなってないようだ。良かった。だが白田君が手を挙げた。

「赤城さんが人間としても、それと組んでいたのは人間とは限らない。むしろ人間を騙した人狼という可能性もあるじゃないですか」

 金井さんは答えた。

「私が人狼なら、違う方法を取りました」

「どんな」

「金を分けるから、味方しろと」

 ほう、それを言ったか。白田君は怪訝な顔をした。

「どういう意味ですか」

「つまり、私が人狼なら、勝った時に金を渡すから味方しろと」

 白田君は反論する。

「あなたが、そう言ったという、証拠は無いです」

「確かに、そうですが、私たちの作戦は、赤城さんが占い師を名乗って、本物の占い師に占わせる。赤城さんは人間だから、シロですよね。そしてまた同時に騎士に守ってもらうという作戦でした。私は、それをサポートするということです。私は非Ⅹですから、占い師は簡単には出てこない、しかし人間だから、占い師は知りたいです。赤城さんの作戦で占い師が複数でれば、人狼は迷います。赤城さんは占い師ではなかったんですから、必ず出るはずだと赤城さんは言ったんです」

 つまり、囮作戦か、私は、それには疑問がある。

「それならば、真っ先に赤城さんは手を挙げたはず。赤城さんは二番目でした」

 金井さんは苦笑した。おや余裕かな。

「それは、どうしようもないですよ。灰田さんが手を挙げちゃったんだから、赤城さんもあわてたと思いますよ。もちろん聞いてはいませんが」

 けっこう苦しい言い訳ともとれるが、一方なにもかも、作戦通りとはいかないのは分かる。金井さんは続けた

「それに私が人狼なら、赤城さんを襲撃しませんよ。味方なんだから」


 それはそうだ。すると緑川さんが手を挙げた。

「金井さんの言っていることは、多分、本当です」

 ああ、それがあったか。緑川さん、いつも最後に持ってくるな。

「私、実は赤城さんから、誘われていたんですよね。赤城・金井グループに入らないかって、その時、私は赤城さんに金井さんは人狼じゃないかって、聞いたんですよ。そしたら、金井さんが、もし自分が人狼なら、こういう時、買収するって言っていたらしいんです、でも人間だから買収しない。これって、金井さんが人間だってことにならないですか」


 全体にフーというため息が聞こえた。妙な展開だが。まあ落ちが着いた。するとがぜん、青木さんが疑わしくなる。

 青木さんが、あせったように、立った。私はベルトを掴んで椅子に引き戻す。

「立つことは無いでしょ」

「そ、そうだな」

 緑川さんが冷たい目で青木さんを見る。

「何か、仰りたいんですか」

 青木さんは、顔を真っ赤にしている。

「今の話だと、緑川さんは、金井さんとグルだ。一緒になって、私を貶めようとしている」

「人狼は茶川君と金井さんなんでしょ」

「だから、あなたはやっぱり人狼だ。いつも終わりは、あなたがいつのまにか主導権を握っている。これはおかしい」

 茶川君は、本当に、あきれたように言った。

「は、おっさん、むちゃくちゃだわ」

 だが青木さんは反撃する。

「あなたは、人狼の経験者だ。だが、それを隠そうとはしなかった。だが、皆同列だと言った。それは欺瞞だ」

 こいつは揚げ足取りだ。この人職場でも、こうなのかな。だったらパワハラをやりかねない。眉をやや吊り上げて緑川さんが言い返す。

「何故、欺瞞だと」

「皆、同列の訳ない。現に、私はゲームに慣れなくて、窮している。なのにあなたは平然としている、この差は何だ、明らかに、差があるじゃないか。それに、経験がある者が、皆と同じだと言うのは、皆を油断させて、ちゃっかり果実だけを取ろうとする裏切り者の仕業だ」

 まったく、話にならないが、一生懸命、顔を真っ赤にしてまくしたてるのを見ると、妙な説得力がある。ヒットラーもこんなだったんだろうか。

「青木さんが、窮地に立っているのは、青木さん自身のせいです。緑川さんのせいじゃない」と金井さんが断として言った。

 だが青木さんは、結構しぶとかった。

「私の言っていることの、どこが間違っているか、茶川君、金井さんが人狼で、緑川さんは裏切り者だ」

 すると緑川さんはにっと笑った。青木さんは、よく分からないひとだが、ここで裏切り者を持ってくるのは、確かに可能性はある。緑川さんが、うまく、みんなを懐柔している。つまり、うまく立ち回っていると言えなくもないから。青木さんは言っていることが無茶で強引だが馬鹿ではない。こういう人は厄介だ。とにかく、もはや誰の論理も正当性があり、かつ非正当性でもある。


 するとすると、白田君が、後半戦が始まって、初めて自分から発言した。これまでは質問だけだったのだ。

「確かめたいんですが、皆さんは灰田さんが人狼だと思ったから灰田さんに投票したんですよね」

「大方の人はそうだろう」と私は手を挙げて言った。誰も否定しない。私は続けた。

「白田君は、どうなんだ。本当に灰田さんが人狼として追放したのか」

「そうです。灰田さんは人狼と思います」

「だが、君は、初めは赤城さんを疑っていた。違うかな」

「それは否定しません」

 だろうな、ここで嘘を吐いたら、窮地に立つ。白田君は続ける。

「私は、非Ⅹ仮説論者です。しかし金井さんと違って、誰とも組んではいません。皆さん、私が灰田さんと組んでいたと思う方いるでしょうが、それは違います」

 緑川さんが手を挙げた。

「では、赤城さんを何故疑ったか、もう一度聞かせてくれませんか」

 白田君は頷いた。

「初め、赤城さんが、最初は占い師に出てくださいと言っていました。ということは赤城さんが占い師であって偽物を探したように思いますが、その方法を、緑川さんが皆に話したから、皆知っています。その方法を緑川さんは周知してしまったんですから、それを行う人は占い師とばれる。緑川さんの意見後に、それを行うのは愚かです。だから、あえて、それを行うのは占い師を装った人狼です。人狼は襲撃を受けませんから、言えたわけだと思ったんです」

 緑川さんはさらに聞いた。

「赤城さんはX仮説を信じていました。ならば、占い師とばれても良いはずです」

「だから、赤城さんが最初に言ったのなら、そうです。金井さんは、赤城さんが最初に言うつもりだったと言いましたが、嘘だと思います。赤城さんは、誰か出るまでは、言わなかったと思うんです」

「何故」

「赤城さんは実は非X仮説論者だからと思ったんです。そしてX仮説を唱えて占い師を語る人を待っていた。それが出れば、少なくとも占い師を語る偽占い師だと分かるから。」

 必死に理論武装したのかもしれないが、一応筋は通っている。

「では、何故、灰田さんに変えたんですか」と私は聞いた

「それは、緑川さんの指摘があったからです。ただ赤城さんは偽占い師だったとは思っています」と白田君は答えた。

「それでは、灰田さんは人狼と思っている」

 この私の質問に白田君はうんと頷いた。そこは否定しないのか。

「ええ、そう思います。しかし僕は考えたんです。昨日の投票は、いわば、流れで一気に灰田さん追放でしたが、灰田さんは確かに人狼だ。だが、もう一人いる」


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