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狼の山荘  作者: 東雄
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死の襲撃

藍田さんの部屋、NO9の部屋の前に結城さん、桃井さん、灰田さん、赤城さん、緑川さんが立っていた。桃井さんが小声で言う。

「私が、声を掛けたんですよ。たまたま青木さんと居て、藍田さん見ないねって言う話になって、昨日ふらついていたから、心配になって、二人で行って、声を掛けたんですが、返事が無くて、やっぱり、おかしいと思って結城さんを呼んだんです」

 結城さんがあくまで冷静に言う。

「三回声を掛けたんですがね」

「結城さん、マスターキーは?」と灰田さんが聞いた。

「ありますが」

「開けてみましょう、何かあったら大変です。お年寄りなんですから」と灰田さんはせかす。至極まっとうな意見だ。

 結城さんは、うんと頷いて、

「鍵を取ってきます」と言って、その場を離れた。


 白田君がかなりの強さでドアを叩き、「藍田さん」と大きな声で呼びかけたが、ドアの向こうはしんと静まり返っていた。

 皆顔を見合わせて大きな不安が広がる。気が付くと茶川君が後ろに立っていた。さすがに黙っている。

 結局、金井さん、茶川君も加わり、皆、藍田さんの部屋に顔を合わせた。紺野さんが見えないが。

 沈黙が場を支配した。襲撃と言う、あまり穏やではない言葉が頭に浮かぶ。これで藍田さんの具合が悪くなっても、医者がいないし、交通手段が無い、電話も繋がらないとなると、ゲームどころではなくなるかもしれない。しかし、私は、この時、まったく常識的な思惑とはまったく別に、ゲームと藍田さんは関係ない、藍田さんは脱落したのだ。そう悪魔の囁きを覚えた。三億は人を狂わせる。

 結城さんが、速足で戻ってきた。皆が注視する中、結城さんはドアの鍵を開けた。ドアがゆっくりと開かれ、藍田さん」と結城さんが声を掛ける。だが、返事は無い。中はカーテンが閉ざされ暗闇だった。 私の位置から、部屋の中がよく見えない。だが、その静けさは、確かに不気味だった。

 結城さんが電気を点けた。結城さんが中に入ると、私も続けて入った。


 ベッドに横たわっているのは確かに藍田さんだ。結城さんが顔を覗き込み「うーん」と唸った。そのあまりに重々しい口調に私は思わず不安を感じざるを得ない。まさか。

すると白田君と私が部屋の中に進み、藍田さんの顔を覗き込んだ。その顔は生気が無かった。深く刻まれた皺が、苦悶の後を物語っている。これは。

結城さんが藍田さんの口に手を翳した。

「息をしてないですね」

 藍田さんが言った、その言葉に皆凍り付いた。

 結城さんは藍田さんの痩せた手を取って脈を測ったようだが、沈痛な顔で首を振った。暖房のきいた部屋に得体の知れない冷気が吹き付けられたようだ。皆、ゆっくりと部屋に入ってきた。

 女性陣は、桃井さんは立ちすくみ、灰田さんが沈痛に顔をしかめ、緑川さんは口に手を当て、赤城さんと金井さんは顔を見合わせている。男性陣は、白田君が腕を組み沈黙だ。茶川君はそっぽを向いているが、さすがに軽口は叩かない。


 唖然としているのは、青木さんだ、顔が青ざめている。さて私はどういう顏をしているか。

「これが机の上に」と白田君が薬袋を見せた。中には錠剤があったようだ。すると灰田さんが覗いて、

「モルヒネですね」と言った。

 モルヒネ! 鎮痛剤の? 良く知っているな灰田さん。藍田さんはモルヒネの服用者だったのか。すると結城さんが言った。

「うーん、藍田さんはモルヒネの常用者だったのですか、発作が起こったのかもしれませんね」

「結城さん、医者?」と私は聞いた。

「いや、私は介護の資格があります。老人介護の経験があります。モルヒネは鎮痛剤ですから、癌患者は常用しています。藍田さんは癌だったのでは」

 死を前に三億か、いったい何のために? すると茶川君が言った。

「本当に病気?」

「どういう意味ですか」と結城さんが聞いた。

「誰かにやられたなんてことは無いよね」

 結城さんは窓に近づきカーテンを開けると、クレッセント錠は降ろされている。結城さんは窓に手を掛けたが、開かない。

「ここは、密室です。ドアにカギはかかっていましたし、こうして窓にも」

「マスターキーは? 誰かがこっそり借りていたとか?」

 結城さんは無表情に答えた。

「断じて、ありません」

「ふーん」

「殺人を疑うなら、まっさきに私でしょうが、私に藍田さんを殺す理由がありません。私はただの管理人であり、ゲームマスターです」


 この時点で、殺人を疑うのは非常識だが、何か異常なことを感じるのは確かだ。人狼に襲撃された人間が、実際に死んだのだ。

「とにかく、今、外部に連絡手段が無いのです。とにかく、連絡がとれるまで待つほか無いのです」


 

 結城さんの言葉は正しいが、なんともやりきれない話だ。

「とにかく、ここは我々にまかせてください。なお、ここは立ち入り禁止とします」

 皆、なお納得のいかない顔だ。

「管理は、私どもの責任です。今、藍田さんの、お身内が居ない以上、わたしどもで対処いたします」

 正論だ。私たちはまったくの他人だ。藍田さんの死には立ち入れない。だが、その時、緑川さんがじっと藍田さんの顔を見ているのに気がついた。なんだろう、しかし緑川さんは何も言わない。そして、なおも、ぐずぐずする青木さんの腕を引っ張って、私はいったんホールに出た。


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