ショットコーン
直孝たちは、林を抜けて。ハルル・バレーに入った。
見渡す限りの広大な畑が、2人を迎えてくれたが。
言葉は、通じなかった。
ジェスチャーを、交えての会話だが。通じることもなく、マイジェイさんを探した。
なだらかな、下り坂を抜けると同時に、道がひらけた。
林を、抜けると温かな日差しが、僕らを迎えてくれた。異世界と地球では、昼夜が逆転しているようだ。
ハルル・バレーは、マイジェイさんが言った通り。広大な畑が広がっている。
道の左右に、小麦が風に揺らいでいる。
山からの吹き下ろしだろうか、少し強い風が吹いている。
驚いたのは、人が多い事だ。牛や馬も同じで、畑で土を耕している。
中には、色々な獣人も混じり、人々と同じ作業をしている。
奴隷のように、扱われているようには見えない。
僕らもそうだが、あちらもこっちを見ていて。皆で、僕らの事を指して噂している。
時折、数人で近付いてきたり、1人で物珍しさに近寄る者もいたが、話がかみ合わないが。
『ユニーバ』の名を出したら、皆同じ方の山を指して、説明をする感じだ。
マイジェイさんは、ハルル・バレーを通過して、次の街に旅ったようだ。
翻訳機がないので、何とも言えない。
6、7人目の時に、事件が起きた。
集落の中心に向かうに連れて、小麦からコーンに作物が変わっていた。
僕が、車を降りて、体格の良いアゴ髭を蓄えたおじさんに話しかけられていると。
助手席で眠っていたお祖父ちゃんが、起きてしまい。車から逃亡を図った。
僕は、話を聞くのに大変で、ジェスチャーを交えていたのだが。
分かる訳もなく、『ユニーバ』と、言って。
アゴ髭オジサンも、同じ山を指した。
お祖父ちゃんは、勝手にアゴ髭オジサンの畑に入り、太ももサイズのコーンを毟り取り。
皮を剥いで、そのままコーンに齧り付いた。
お祖父ちゃんは、初めての体験をして。
荷台に積まれた、クーラーボックスから、キンキンに冷えたビールを取り出して、のどを鳴らし、コーンの砕けた粒と一緒に喉の奥に流し込んだ。
「プハァー。これまた甘いコーンだな」
このショットコーンは、糖度が20度以上有り、トロケそうな程の甘さを持っている。
ショットコーンの由来は、完熟すると勝手に皮を剥き、夜中に種子を飛ばすのが由来で。
平均で、10mは飛ばすらしい。
種の保存法が、独特過ぎた。
このショットコーンが、後々事件を起こす。
アゴ髭オジサンが、お祖父ちゃんを指して捲し立てている。言葉が通じないが、大体の事は理解できた。
そんな事つゆ知らずで、お祖父ちゃんは呑気に、ムシャムシャとコーンを食べている。
アルコールが入ると、本来のお祖父ちゃんに少し戻り、強気になる。
「なんじゃ、わしのビールが欲しいのか。早く言えば良いのに、Give me beerぐらいなら、わしでも知っているぞ」
お祖父ちゃんは、クーラーボックスから未開封の缶ビールを取り出して、アゴ髭オジサンに渡した。
アゴ髭オジサンは、キンキンに冷えた缶ビールを受け取り、驚いていた。
『何だこれは、凄く冷たいぞ。魔法なのか、詠唱も唱えていない、魔法陣すら見えなかった。飲み物のようだが、水滴が付くほどの温度だ。不思議な乗り物に乗り、馬車では無い』
アゴ髭オジサンが、難しく考えていると。
「なんじゃ、プルタブの開け方も知らんのか」
お祖父ちゃんは、もう一度アゴ髭オジサンから、ビールを奪い取ると。イージーオープンエンドを開けて、アゴ髭オジサンに返した。
「ビールは、ラガーに限る。キンキンのうちに飲み干せ、生きている幸せを実感できるぞ」
アゴ髭オジサンは、まだ冷たい缶ビールを、返されて。躊躇なく口を付けた。
最初に、冷たいと感じた。畑仕事をして、のどが渇いていた事もあり、喉が次々と冷たいビールを求めて、半分ほど一気に飲み干し。
苦味と切れ味に、アゴ髭オジサンも畑へ走り、コーンに齧り付いた。
アルミ缶を強く握り過ぎて、変形していて。コーンを食べながら、二口で飲み干している。
アゴ髭オジサンは、コーンを大きなカゴにいっぱい詰めて戻ってきた。
僕にも一つ渡して、オジサンさんから、次のビールを貰っている。
ショットコーンは、かなりの大きさだが、粒はそれ程大きくは無く。少し硬い皮で、弾けると物凄く果樹のような甘さが、口いっぱいに広がった。
僕は、運転もしているし、未成年だから水筒のほうじ茶で、甘さをリセットした。
朝一のコーンは、どれだけ甘くなるんだ。そんな事を考えつつ辞められない。
お祖父ちゃんは、助手席から荷台の上に敷いた鉄板の上に、アゴ髭オジサンと座り、ビールとコーンで仲良くなっていた。
言葉は、通じていないが、乾杯を何度もしている。
落ちないように、ロープを体に括り。ロープの端は、ロールバーに結ばれている。
アルコールの弱いお祖父ちゃんは、途中から眠りについた。
無理もない、昼夜逆転しているし、アルコールも含んでいる。
アゴ髭オジサンは、お祖父ちゃんを支えつつ。クーラーボックスに、肘をかけてビールを口にしている。
中心に付くと、アゴ髭オジサンと、会話が成り立った。
「そろそろ、大丈夫かな。お前体どこから来たんだ」
「あれ、何で会話が。ユニーバ教の方が居られるのですか」
集落の中心は、大きな市場みたいになっている。
露天や商店が立ち並び、見慣れないモノが大量に売っている。
「お前さんのこのエールも、ここに並べたら直ぐに無くなるぞ。これは、いくらだ。毎日でも飲みたいが」
「まだ、通貨の単位が分からないので。300円だと思いますよ」
「それって、銅貨が300枚か。銀貨じゃないよな、何本も飲んじゃったよ、俺」
「それを飲み干したら、皆にバレないようにして下さい。値段が決まっていないので」
アゴ髭オジサンは、大分酔が回っているようだったが。ビール一本、銅貨300枚で計算して。頭を悩ませた。
ここでも、皆が寄って来て、話しかけられた。
「お兄ちゃん、ハルル・ベリーのジャムを使ったクッキーは、いりませんか。とっても美味しいよ」
小さな女の子が、玩具のカゴに数枚のクッキーを入れて、物売りをしている。
「ごめんね。お兄ちゃん、この国に来たばかりで、お金持ってないんだ」
後ろの荷台から声がかかった。
「ブリーナ。お兄ちゃんに、クッキーを渡してくれ。オジサンが、お金を立て替えてやる」
僕は、運転席の窓から頭を出して。
「そう言う訳には、行きませんよ。ビールを出したのは、お祖父ちゃんですから」
「良いんだ、ブリーナから受け取ってくれ」
ブリーナは、玩具のカゴごと渡して来た。
「今日も有難う。ツーバルオジサン」
ツーバルオジサンは、悲しげに返事を返した。
「カゴは、後で返したら良い」
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