Back to The Earth (後)
直孝は、『経典』を欲しがったが、マイジェイの話を聞き諦めた。
その時、林の中から、領主が放ったT-Rexが現れて、僕らは襲われた。
「マイジェイさん、ユニーバ教へ入信しないと、『ユニーバ教の経典』は、手に入らないのですか。経典の凄さを、見せてもらうことは可能ですか」
直孝は、翻訳機能を試したくなった。
その経典が本物ならば、ぜひ地球に持ち帰って、試してみたい事が沢山ある。
言語として、動物の声は聞けるのか。対話は可能か。
古代文字の解読は、可能なのか。実物の十戒で試してみたい。
音楽は、どう聞こえてくるのか。メロディと歌詞は、同調するのか。
「そんなに、欲しがっても。この『ユニーバ教の経典』手に入りませんよ。私は、幼き子の時から、ユニーバ教の信徒です。成人して、ユニーバ教の門をくぐり、色々な乗り物に乗って、歴史や物語を学び。最後は、乗り物ごと滝にも落とされました。その後は修行をして、パレードを盛り上げていましたし。10年修行をして、夢の中で神様に会いました。神様と、人さし指同士が触れることで、眩い光が現れて、目を覚まし。そこで、始めて『ユニーバ教の経典』が得られて、布教の旅が始まるのです。勿論、一冊しか与えられてません。大事なものなのです」
僕は、マイジェイさんの話を聞きながら、経典から、200m以上はなれて。マイジェイさんの言葉が、聞き取れなくなった。
次に、マイジェイさんは、次に経典の方を指さして歩き始めて。
「……で、この先に『ハルル・バレー』と言う名の小さな集落が有るのです。山々に囲まれた、広大無盆地で、農業に特化しているのですが。10数年前に、戦争に巻き込まれて、若い男性が徴兵の為に駆り出され。敗戦したこの国は、一部の領土が奪われて、若者達は、戦場から帰ってきませんでした。ですから私は、その集落でユニーバ教を広めようと思っています」
僕らは、クリストフが警備する『経典』の元へ戻ってきた。
「それでしたら、僕がそのハルル・バレーへお連れしますよ」
ハルル・バレーは、徒歩で4時間ほどの場所で。探索するには、良いと思った。
「少し、待ってもらえますか。助手席の方を片付けますので」
僕が、助手席のドアを開けて、荷物を片付け始めると。
地面から微かな振動が伝わった。
それは、目でも確認できて。ドリンクホルダーのお茶に、波紋が広がった。
「羽無しドラゴンです。北条直孝さん、逃げてください」
振動は、徐々に間隔狭めて、力強く大きな何かが近づいてくる予感。マイジェイさんは、反対側の林に逃げた。
木々のざわめきが近づき、近くの鳥たちが一斉に飛び立った。
ざわめきが、倒木の音に変わると。会話が途切れた辺りに、T-Rexが現れた。
羽毛は生えておらず。ワニよりも、ゴツゴツと硬そうな皮膚をしている。
観察している場合では無かった。
T-Rexは、一度コチラに頭を向けて、地面の匂いを嗅いだ。
僕は、慌ててしまい。そのまま、助手席に飛び乗り、勢い良くドアを閉めた。
『バタン』
その行動は、助かったかのように見えたが。T-Rexは、軽トラに近づいてきた。
二人の匂いを確認しながら。ゆっくりと、王者の余裕を見せながら。弱者を追い込んだ。
直孝は、細かい荷物をダッシュボードに載せて、運転席へと移った。
『T-Rexの弱点の一つに、足がある』
足にダメージを与えることが出来たら、起き上がることも出来ない。
直孝は、クラッチを踏み、ギアをバックに入れた。
左手を助手席のベッドレストにかけて、ガラス越しに、T-Rexを確認した。
王者は、丁度正面にいる。
直孝は、右手を伸ばして、鍵に手をかけた。
「北条直孝様、この羽無しドラゴンは、領主が森の獣人達を、狩るために解き放たれた刺客です。本来ならこの大陸に存在しません。隠れていれば、助かります」
林の中から、マイジェイさんの声がした。
マイジェイさんは、僕を守る為におとりとなった。
T-Rexは、マイジェイさんのいる林の方へ飛び込んで行った。
僕は、車の鍵から手を離して、急いで車を降りた。
数本のワイヤーと締付機を取り出し、横並びする木々にワイヤーを張り、キツく締め付けた。
その間に、林の中では強力な光が放たれていて。
光る度に、T-Rexが叫び声を上げた。
僕は、トラップの準備を終えると。
軽トラの運転席に戻り、クラクションを鳴らした。
『ピー―』『ピー―』
T-Rexは、体制を起こして、低い木々から頭を出した。
林道の方角を確認して。体勢を低くした。
サメが、獲物を見つけたかのように。頭と尻尾を、林の上に出して。林道の方へと向かう。
木々の間を縫うように、体を左右に揺らしながら近づいてくる。
『デーーデン』『デーデン』と、コントラバスが、聞こえてきそうだ。
良かった。トラップの向こうに現れてくれた。
僕の仕事は、T-Rexを引き付ければ良い。
軽トラを追いかけて、トラップに足を引っ掛けたら、僕らの勝ちだ。
直孝は、急いで軽トラへと乗り込み、ドアを閉めた。先程と同じだ。
僕が、馬の前に振ら下げられた人参役だ。
クラッチを踏み、ギアをローに戻した。距離はあるが、車の鍵を回した。
バッテリーが上がっている。クラクションも鳴らない。
焦る直孝は、バックミラーで、T-Rexを確認した。
T-Rexは、トラップに着いた匂いを嗅いでいる。
次の瞬間、T-Rexはトラップを踏み潰した。
両側の木々は、皮がめくれてワイヤーが食い込んだ。
地面には、T-Rexの足跡が残り、撓んだワイヤーが地面にめり込んでいる。
T-Rexは、軽トラに近づき噛み付こうとした。
僕は、衝撃に備えて、ハンドルを力一杯握り、ブレーキとクラッチを踏み込んでいる。
T-Rexは、鉄の硬さに動揺して、一度頭を起こした。
僕は、右足の靴が土で滑り。ブレーキから、足が離れて、少し前進した。
直孝は、T-Rexを煽るかのように、後ろのガラス越しに手を振った。
T-Rexは、もう一度噛み付こうとしたが。
軽トラは、ブレーキがかかっていない。ギアもニュートラルに戻してある。
直孝は、初めての押しがけに挑戦した。
最初の衝撃で、かなりのスピードが出たのだが。
直孝は、スピードメーターを見ながら、5km/hになるのを待った。
少し違ったが、軽トラが人参となった。
メーターは、直ぐに上がり。直孝は、クラッチを上げた。
3つの衝撃が、軽トラを襲った。
スピードが出過ぎていて、ローギアで繋いだ直孝は、強い衝撃を受けた後に。
T-Rexが、荷台に足をぶつけて、軽トラに倒れ込んだ。
軽トラの屋根にT-Rexの頭が乗り、3回目の衝撃が走り、屋根が少し変形した。
軽トラに、1t以上の体重がかかり、自然と軽トラの勢いが止まり、エンストしかけた。
直孝は、タイミング良くクラッチを踏み、エンストを回避したが。
ギアをバックに変えても、T-Rexは動かなかった。
直孝は、メーターしか見ていなかったが。
クラッチを上げるタイミングが絶妙で、T-Rexが頭を持ち上げた瞬間に、軽トラは勢いを止めて、T-Rexの懐に入り込み。
T-Rexは、軽トラのバンパーを勢い良く蹴っていた。
T-Rexの左足にダメージを与えて、前に倒れ込むT-Rexの顎に、追い打ちをかけた。
『ウォー』『ヴォー』と、軽トラの屋根で叫び。
前進と後退を繰り返し、ハンドルを少しづつ切り返して、頭が荷台にズレると。勢い良く、軽トラは、抜け出た。
T-Rexは、地面に落ちて、起き上がろうとしている。
僕は、勢いを付ける為に少し距離を取り、ギアをバックに入れ、クラッチを踏んだまま、アクセルを吹かした。
クラッチを上げると、タイヤと地面が噛み合わずに、埃や小石をまき散らして。タイヤがグリップすると、T-Rexに向けて突進した。
最初の一撃は、T-Rexの頭部に当たった。
T-Rexの頭部から出血して、硬いと思われた皮膚が裂けて、肉が捲れている。
T-Rexは、無理矢理起き上がり。死を覚悟したのか、必死に逃げている。
頭部から出血して、足を引きずり。手負いの主人公のように、軽トラから逃げている。
僕は、T-Rexを逃がすまいと、軽トラで追いかけた。
その様子を、林から顔を出した、マイジェイが見ていた。
僕は、逃げる脚を狙ったのだが。
T-Rexは、地面に埋められたワイヤーに、引きずる左足を取られた。
T-Rexは、そのまま、前のめりに倒れて。
両側の木々は、倒木されて。ワイヤーだけが、林道に出て来た。
軽トラは、勢いが付きすぎて、T-Rexの足に乗り上げ傾いている。
T-Rexは、痛みに耐えきれず、足を動かしたが。
T-Rexの足と、軽トラの足回りが、ワイヤーで繋がれている。
T-Rexが、足を動かす度に軽トラが揺れている。
僕は、シートベルトを外して、外に出ようとすると。
クリストフが、『放電』を使い。稲妻が、T-Rexに当たった。
軽トラとT-Rexは、亜空間に飛ばされた。
読んでいただき、有難うございます。
そして、ごめんなさい。