立入禁止
影村京也が、馬鹿な事をやらかした。
貴族に喧嘩を売った。貴族を、馬鹿にした。
どう考えても、京也が悪い。
その日は、影村会長も異世界へ来ていた。
ゴーティーさんと、森へ入ったとも連絡を受けている。
僕は、エルフたちを連れて、羽田へ向かっていた。毎週、火曜の仕事だ。
休憩をしながら、ゆっくり5時間かけて、5時間戻る。
地球で、1泊して、異世界へ。
何気ない、1日の事だったはずだ。
「この役立たず。なんの為に、ここで、暮らしているんだ。北条のアキレス腱を探すためだろ。この女は違う。北条のアキレス腱では無い。他を探せ」
「何の事だよ。北条のアキレス腱って。僕に、何させたいの」
「あ゙〜。使えないな。北条の痛いところを探しておけ。いいな」
「オヤジ、北条なんてガキ。獣人や村の人を盾にしたら、何でも言う事を聞きますよ」
「それがダメなんだよ。あいつは、平気なんだよ。目の前で、人が死んでも。オレに意見するくらいだぞ」
「言っている意味が、分かんないっす。今まで通りで、良くないっすか」
「駄目だ。ここはオレが貰う。関西を手にする前に、ここを取る」
「ここは、もう、うちの島ですよ。北条が邪魔なのですか」
「もう少し、様子を見て、時間をかけるか」
「京也、7代目諦めろ。向いてないよ、お前は」
「お父さん。何でも言うこと聞くから、捨てないで」
「北条が嫌がる事をしろ。分かったな。お爺ちゃんには、内緒だぞ」
「おい。帰るぞ」
「「「「お疲れ様です。六代目」」」」
影村寅次、現老虎組組長兼、関東のトップである。
僕の留守の時に、偵察していたらしい。
「京也、坊っちゃん。それは違いますよ。ここは駄目です」
「るせぇなぁ、お前も死ぬかぁ。六代目が、ここを欲しがっているんだよ」
「だから、その考えが間違っているです。まともになって下さい」
「なんだぁ、ヤんのか、おい」
「待ってくださいって。何でそうなるのですか」
「取り敢えず、死ね」
老虎組の組員が刺された。
バベルの正面玄関で、事件が発生した。
そのまま、バベルの中へ入る京也。
貴族が集まる場所だ、ソファーや家具も、良い物を揃えている。
朱色のマットを、奥へと進み。正面の大きな戸を開けた。
日頃は、開く事の無い扉。
皆、チップと両替をして、会場へ入るから。ここは使われない。
大扉の鍵の開け方さえ、分からない方が多い。
会場の貴族たちは、少し驚いていた。
刃物は、入り口で没収される。老虎組の組員が、丁寧に管理する筈だが。
京也の手には、ドスが握られている。
ドスには、血が付着していて。少し垂れている。
「スーリピ。ちょっと来い」
「お客様、困ります。バベルは、獣人を立入禁止にしています。お帰り下さい」
「硬いこと言うなよ。どうせ、お前たちも、ニュータウンで、獣人と、しこたまヤッているんだろ。バレバレだぞ」
「おい。老虎組の人を読んで下さい」
「バーカ。俺も、老虎組だ。1回勝負したら帰るよ。黙って見てろ」
「ポーカーだ。何をヤッている。お前が来ないと始まらないだろう。スーリピ」
「お願いですから、京也坊っちゃん。ニュータウンへ戻って下さい」
「トロいな。お前は」
京也は、スーリピの頬を叩き。
倒れたスーリピの首に手を回した。
「ゲームに遅れるだろ」
京也は、スーリピの首から、大玉の真珠のネックレスを取り。
ポーカーの卓上へ置いた。
「お客様。物品でのゲーム参加は受け付けておりません。入り口横の質屋へ預けては如何ですか」
これが、貴族の逆鱗に触れた。
見た事の無い、大玉の真珠の粒が全て揃い。綺麗な輝きを放っている。
ご夫人方は、扇子を広げて、ざわざわと話を始めた。
貴族たちも、怒りを抑えるのに必死だった。
見た事の無いモノを、ゲスな獣人が身に着けている。不愉快だ。
ましてや、社交の場のテーブルに置くとは。言語道断、許されない事だ。
「君は、この場に相応しくない。帰りたまえ」
「無礼だぞ。刃物なんぞ出して」
「この事は、北条さんは知っているのか」
「北条を出せ。抗議してやる」
「北条。北条。北条って。あいつが、そんなに偉いのか」
「俺を、馬鹿にしやがって」
「帰るぞ、スーリピ」
嵐は、過ぎ去った。
いや、大きな渦を生んだ。
貴族たちが、暴動を起こした。
屈辱だ。冒涜だ。あの男を出せ。火炙りだ。ギロチンだ。絞首刑にしろ。
ニュータウンの前で、貴族たちが、暴動を起こしている。
コレを止めているのも、老虎組員だった。
異変を知らせてくれたのは、軽トラの係りをしている。ハシビロコウのプッテユだった。
軽トラで、地球へ転移して、事の一部始終を話してくれた。
僕は、ホテルをキャンセルして、異世界タウンへ入った。
「異世界は、どんな状況だった」
「手が付けられません。正に、暴動です」
「京也を出せと、しつこく迫っています。どうしますか」
「取り敢えず、貴族たちに謝って時間を稼ごう。影村会長にも連絡を取れ」
僕は、軽トラに乗り込み。異世界へ跳んだ。
暴動の眼の前に着いた。
「話は、聞きました。ですが、本人を納得させる為に、3日下さい。3日後に、皆様の納得する答えを出します。お願いします」
僕は、貴族たちの前で。土下座をした。罵倒やツバを吐きかけられ。屈辱に耐えた。
「これだから、平民は困る」
「3日だな。3日後に、アヤツを殺してやる」
「これは、聖戦だぞ。無礼では済まん。アヤツの首を捧げよ」
僕は、罵られながら、泥をかけられ。ヒールのかかとで手を踏まれた。
耐えた。貴族たちが帰るまで耐えた。
皆が消えて、静まり返る頃。僕は、気を失っていた。
暴動は、エスカレートを極めて行き。
蹴るのが、当たり前なっていた。
生きているのが、不思議だった。
僕に、エルフの回復薬を使ったのも、老虎組の組員だ。
「影村会長と、話はできたか」
「未だです。何度も、音の花火を上げてますが。森から出てきません」
参ったな。影村会長の罠か。確認も出来ない。
「京也の所へ行くぞ」
僕は、頭を振り。直ぐに立ち上がった。
「大事件だ。どうしたら、収まるのか。貴族を納得させられるかだ」
「京也、坊っちゃんには、触れさせません。お帰り下さい」
ここでも、バリケードが張られていた。
「見ただろ。事件が起きたんだぞ。お前たちの仲間が死んだんだぞ。無駄な血が流れた。全ては、京也が悪いんだぞ。しっているだろ」
「ですが、京也坊っちゃんは、7代目になる御方です。ここは譲れません。お引き取り下さい」
「戦争が起こるぞ。見たよな。京也が悪いんだぞ。責任も取らせないのか。老虎組は。京也のエンコじゃ済まんぞ。分かっているのか。お前ら」
京也とも話もできない。困った。
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