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異世界タウン take2  作者: 愛加 あかり
19/42

スーリピ事件

スーリピの悲しい事件。

異世界ホームの実態。

獣人たちの食費。

松野



 「申し訳ない。この通りだ」

 松野さんが、また、与田さんの畑で土下座をしている。

 前回と違うのは、筆頭で、1番人気のスーリピの顔が歪むほど、ボコボコにされている事だ。

 松野さんが、今朝、躾を行ったらしい。


 前回の事件から、1週間も経っていない。




 昨日の松野さんは、数人の獣人を連れて、森に入っていた。


 獣人たちが、森でのハンティング自慢しようと、松野さんを誘ったのが発端で。ヒツジのスーリピも参加していた。


 罠や弓、ナイフなどを使い、各々が狩りをして、成果を松野さんに自慢していた。

 本日のトップを飾ったのが、スーリピが持ってきた、ヤーマドのメスで。

 80Kgオーバーの大物は、滅多にお目にかかれない代物だった。


 「良くやった。スーリピ」

 スーリピにとっては、一生に一度、有るか無いかの出来事で、松野さんに褒めてもらえた事が、とても嬉しかった。


 途中までは、手で運び。

 新しい道に出ると、普通の軽トラに狩猟の成果を大量に載せて、そのまま獣人たちも荷台に乗り込んだ。


 そして、松野さんが、ヤーマドを与田さんへ、ポンと差し出した。


 軽トラを、与太さんの畑の側に停めて。荷台を少し漁りながら、両手でヤーマドを持とうとしたが、流石に無理があり。

 女性の獣人が2人で持ち上げた。


 スーリピは、多くを語らず。ヤーマドの自慢をするだけだと思っていた。


 「「「ヤーマドだぁ~」」」

 これには、与田さんの獣人が反応した。


 「これは、立派な鳥ですね」

 マモーヌが、側でとても喜んでいる。


 「今日は、大量に取れたので。お裾分けに来ました」


 「どれどれ。これは凄い」


 与田さんは、畑から出て。軽トラの荷台を、のぞき込んだ。

 獣人たちの足元には、今日の成果が大量に敷き詰められていた。


 「こちらを貰っても、良いかね」


 与田さんは、比較的に小さな鳥を、2羽取り出した。


 「昨日は、カレーでね。まだ、寸胴に残っているのだよ。それに、冷蔵庫の方がパンパンで多くは入りそうにない。すまないね」


 「そこの、大きな冷凍庫は、空いているのだろう」

 松野さんは、畑の冷凍庫を指した。


 「空いてはいるが。何を入れるつもりだい」

 与田さんは、松野さんの冷凍庫も、パンパンになると、察して。


 「空いているぞ。何を入れるつもりだい」


 「こいつが、大き過ぎるので。少し頼めるか」

 「お安い御用だ」


 「おい、マモーヌ、ヌーベル、サレッポ丁寧に受け取って。冷凍庫へ頼む」

 マモーヌたちは、一輪車にヤーマドを移して、冷凍庫まで運んだ。


 「この前は、うちの子たちが迷惑をかけて、申し訳ない。小さいのは、詫びのつもりでは無いのですが。お受け取り下さい」


 与田さんは、マモーヌたちが、はしゃいでいるのを、止めつつも。ヤーマドを受け取り。冷凍庫へ保管した。


 「これはこれは、ご丁寧に。うちのコが喜ぶような立派な物を頂き、有難うございます。今は、差し出すような物が手元に無く。後日、日を改めて、お持ちいたしますね」


 『お零れは、頂きますよ』


 「では、その時に、秘蔵のお酒でも出しましょうかね」


 「そうですか、楽しみにしています」


 松野さんが、帰った後で。

 マモーヌたちには、強く言い聞かせた。


 「これは、預かりものです。預かり料として、一部を頂きますが。量は、松野さんが決めます。松野さんも、1羽丸々は、食べきれないはずですから」


 その夜に、事件が起きた。


 スーリピが、与田さんの畑に入り。ヤーマドを持ち帰った。

 与田さんの畑に入ってはいけない。スーリピは、タブーを犯したのだ。



 気付いたのは、松野さんだ。

 スーリピの姿が見えず。探すと、庭でヤーマドを丸焼きにしていたという。


 庭で、焚き火を起こし。棒に刺さったヤーマドを、くるくると回している。


 「もう少しで、完成しますから」


 そこには、笑顔のスーリピがいた。

 ヤーマドを、松野さんに食べて欲しいと願うだけの、可愛いスーリピがいた。


 松野は、そのまま裸足で庭に出て、スーリピを押し倒し。

 馬乗りになって、何度も叩いた。


 「何で、言うことが聞けない。お前も、あの家族と同じか。私が何をした。言ってみろ。なあ、おい」


 近所から、獣人たちが、塀を乗り越えて集まり。ヤーマドの肉を眺めながら。2人を仲裁しようとしていた。


 「やめろ。これ以上やったら、後悔するぞ」

 止めに入ったのは、隣の八木さんだった。


 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 スーリピは、謝るだけだった。


 松野も、途中から八つ当たりをしていんのに、気づいていた。

 家族からの仕送りが途絶えて、イライラしていて。狩りに出たのも、食費がかさむからだった。

 獣人たちに、自分の食い扶持は、持ってもらおうと、思ったからだった。


 取り敢えず、与田さんの所へ行き、謝罪を試みた。


 「申し訳ない。許して欲しい」


 与田さんも、マモーヌたちも、スーリピの姿を見て、怖いと思った。


 あの一番人気だった、スーリピの原型を留めて居なかった。

 全身に、青いアザができ。顔は、俯いて謝罪をしているが。ロレツも回っていない。


 「許してくれ。頼む」


 僕が、地球から帰って、大急ぎでニュータウンを訪れた時には。


 与太さんが、折れるかたちで決着が付いていた。


 松野さんは、スーリピを家から追い出し。

 スーリピは、松野さんの家の前で、謝罪をするだけだった。


 僕は、松野さんと会い。

 ヒツジを一匹養う形になった。


 異世界では、やり辛いだろうから、地球で、『リアル過ぎる』を再開した。


 勿論、エルフの回復役を使い。顔や体は、もとに戻ったが。性格が、萎縮したままだった。


 そこは、元のファンに支えられながら、誹謗中傷も飲み込み。徐々に回復を見せた。


 一方、異世界では、家族からの仕送りをなくし、路頭に迷うものが出始めた。


 何千万を、異世界に持ち込んでも。多少ぼったくっているコンビニに入る。

 食費がひど過ぎる。

 僅か12人で、100人近くの獣人の女性を、食べさせている。

 冷凍庫のインスタント食品を、男性の獣人に分け与えて。フリーの獣人たちは、家々を転々と回る。

 お土産と称して、冷凍食品を盗み。

 新たな家を作っている、男性の獣人たちに分け与える。

 給金も、老害たちから受け取り。老害たちの財布は、直ぐに底をつき始めた。


 与田さん以外は、死を待つばかりだった。

 家族から、捨てられた者たちの末路だ。


 最初に、大きな冷凍庫を与えたのは、棺桶の代わりだった。

 数年後、地球の雪山で発見される手筈になっている。

 家族は、いくつかの生命保険に入れて。捜索願は出されている。

読んでいただき、有難うございます。

高評価、星とブックマークを、宜しくお願いします。

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